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第5章 『水の国』教官編
第163話 手嶋姉妹との初ダンジョン攻略……美味そうなのに。
しおりを挟むダンジョン内とは思えない青空の下の様な明るい空間。
そう、41層から45層までは『風の国』と同じく様々な食料が自生するエリアで、魔物も出ない場所。
美香さんなんかは物欲しそうな顔をしながら歩いていたけど、俺達の目的はあくまでレベルアップ。なので、収穫は目的を達成した後でゆっくりやってもらおうと心を鬼にした俺の誘導でサッサと通り抜け、四十六層に到達……したのだが、ここは靴底を通して濡れた地面が感じられる程に湿っぽい所だった。
時折天井から落ちてくる水滴も小雨か? と思ってしまう程半端ない。
『風の国』のダンジョンでは、ここまで湿気が強かった場所があった記憶は無い。『水の国』ならではの仕様だろうか? そういえば、『風の国』のダンジョンには風が強いフロアがあったな。少し身体を押されている様な感覚程度だったから、気にも止めていなかったけど……
(アユム、各国のダンジョンは若干仕様が変わってるのか?)
[はい。健一さん達が先日まで入っていた『火の国』のダンジョンには異様に蒸し暑いフロアがあり、更に出てくる魔物にも若干の違いがありました]
成る程、全く同じってわけではないのか……
などと思っていると、通路の先に魔物の反応。先導していた俺は、一番最後へと下がった。
「博貴さん、敵ですか?」
しんがりに下がったことで振り向いて聞いてくる美香さんにコクリと頷いてみせると、その様子を同じく振り返って見ていた美希さんが剣を、美子ちゃんが短刀を構えて前衛に出て、美香さんと美久ちゃんがいつでも魔法を唱えられる様に身構える。
「後方は俺が見てますので、前方の敵だけに集中してください」
彼女達のトラウマを和らげるつもりでそう言うと、彼女達は前方を見据えたまま頷いた。
そうして、歩くこと一分程……その魔物は姿を現した。
体長は二メートルくらいだが、初めはそのフォルムから『赤いスライムか?』と思ってしまった。だが、その楕円型の丸みから伸びる八本の特徴ある足をみて、その存在の正体に気付く。
「……タコ?」
「うん、タコ。偶にイカも出るの」
俺の呟きに美久ちゃんが答えてくれる。
そうか、彼女たちは四十九層までは行ってるから初見ではないんだな。しかし、そうかぁ……タコかぁ~。そして、偶にイカも出るのか……海産物……
鑑定してみると、レベルは四十程で、名前はウォーターオクトパスとなっていた。まんま、水ダコじゃないか!
見るものによってはその姿に恐怖を感じる者もいるかもしれないが、不謹慎にも美味そうだと思ってしまう。
出来れば、食料のストックに入れたいところだが、今回は彼女たちの成長が一番の目的だから、その獲物を俺が取るわけにはいかない。ここは涙を堪えて、後でここに来るであろうティアとヒメに期待しよう。
それでも、背後から現れてくれないかなぁと【気配察知】に期待を込めていると、美久ちゃんが先制の魔法を放つ。
「ウォーターアロー!」
美久ちゃんの放った三本の水の矢がタコに突き刺さるが、おそらく同じ水属性だからだろう。あまり効いていない様だ。
ああ、ファイアアローで援護したい……焼きダコ、美味そうだ。醤油との相性がバッチリなんだろうな……
大いに食欲を刺激されながら見ていると、美希さんが迫り来る足を二本、三本と剣で切り落とし、墨を吐かれてそれを躱すようにバックステップで後退する。
ふむ、特に気負いも恐怖も無く、力み過ぎてもいない良い動きだ。忍さんは良い仕事をしてくれたようだなーー精神状態はアレだったけど……
俺の言葉にイエッサーとしか答えてくれなかった初日を思い出して感慨に浸っていると、美子ちゃんがタコの背後に回り込み、その死角となる柔らかそうな後頭部に短刀で突き入れる。
ウォーターオクトパスは突然の背後からの攻撃に振り返りながら足を振るうが、美子ちゃんはその足を掻い潜りながら後退し、それと同時に美希さんが一気に間合いを詰めて剣を縦に一閃。タコを縦に割いてとどめを刺した。
「ふう、思ったより手こずったね」
剣を鞘に納めながら美希さんが一息ついていると、その背後では美子ちゃんが絶命したタコに近付いていた。
「ふふふ、お楽しみの戦利品タイム。【解体】」
美子ちゃんがウォーターオクトパスに【解体】をかけると、そこに現れたのは八本のタコの足。
その美味そうな食材を前に、美子ちゃんはプクゥと頬を膨らませた。
「また、タコ足」
「またかぁ……他のアイテムは出ないのかね」
美子ちゃんの不満そうな言葉に、美希さんがため息混じりに同意する。
ええ~、何が不満なの? タコの足だよ。美味しそうだよ。
彼女達の不平たらたらの態度に、心の中で存分に異議を申し立てていると、美希さんがどうする? と言わんばかりに美香さんを見る。
「ん~、マジックバッグの容量にも限りがあるから、それは捨てていきましょう」
マジか!
美香さんの決断に、俺は目を丸くする。
「ちょっと、美香さん。せっかくの戦利品を捨てていくんですか?」
慌ててそう話しかけると、美香さんは振り向いて小首を傾げた。
「確かに勿体ない気がしますが、アレでバッグを満たしたくありませんし、日持ちもしませんから」
ああ、そっか。マジックバッグでは、入れた物の時間を停止させることは出来ないんだったな。だから、ナマモノはなるべく避けたいのか。
だが、俺の時空間収納は新鮮そのままにナマモノも保存出来る!
「要らないんだったら、俺が貰っていいですか?」
俺の問いに、姉妹は物好きでも見るかの様な目で頷いた。
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