8 / 172
第1章 最弱勇者の試行錯誤編
第6話 武器の検証……まるで奇術ですね
しおりを挟む異世界に来て半年が過ぎた。
俺は今、厨房で魚を捌いている。【料理】スキルは優秀で、元の世界では魚なんて捌いた事も無い俺が、この世界では当たり前の様に出来ている。
つくづく、この世界でのスキルの恩恵の凄さを思い知る。
でも、今抵抗無く魚を捌いているこの包丁も、スライムには刺さんなかったんだよなー。
一回、包丁の切っ先を魚の頭に突き立てみる。若干の抵抗はあったが、包丁は魚の骨を貫通した。
なんで骨を貫通出来て、あのゼリー状には刺さらない!
昨日、健一とヒメに引率してもらって対峙したスライムを思い出し、その理不尽さに怒りと無力感が込み上げてくる。この感情もこの世界に来て何十回味わったことか……全く持って悲しくなって来る。
健一達は今朝、ダンジョンへと潜って行った。ダンジョンの難易度が上がっているのか、最近は一度潜ると三、四日は帰ってこない。
健一とヒメはダンジョン攻略の内容を語ってくれるが、七、八割が理解出来ない内容だった。全くもって知力1の弊害は呪いとしか思えない。
あの白い部屋で『知力は記憶力と理解力に影響する』と説明されたが、昨日の夜、俺はその意味を思い知った。
昨日の夜、自室で『現状脱却ノート』を読み返して俺は唖然とした。この半年間、似た様な検証を何回か繰り返していたのだ。
例えば、重さ五キロ位迄なら持って歩いても、歩いた距離で減るHPの量に変化は無い、という検証は四回程行なっている。腕立て伏せをやり続けて筋力は上がるのか、という検証は五回。そして、腕立て伏せでもHPが減っていくという泣き言が同じ文言で書かれている事実に、脱力してしまった。
この事に気付き思い返してみると、俺の記憶力で信用出来るのは十日迄で、それ以降は曖昧だと気付いた。
唯一の救いは、この世界の理は他人から説明された事は理解出来ないが、自分で気付いた事は理解できるという事だろろうか。
そして同じく『現状脱却ノート』を読み返して解った事、それは筋トレをしても何の変化も無いという事だ。
HPがゼロになるギリギリまで腕立て伏せをしても筋力の数値に変化はなかったんだから、そういう事なんだろう。
但し一つだけ収穫もあった。この半年間、HPを減らしては休憩を繰り返したせいか、視界右上のHPを確認しなくても、感覚でHPが減るのを解る様になっていた。
これは緊急時、いちいち視線をずらさなくても良いので、便利な能力だと思う。
ほぼ思い付きで書いてきた『現状脱却ノート』だが、ここに来てその重要性が異様に高まった。これからは定期的に読み返す様にしよう。
さて、考え事は一旦中断。フライパンを火にかけ、バターを一欠片入れる。バターが程よく溶けたら三枚におろした白身魚の一切れを塩胡椒し、フライパンで焼く。
しかし、この厨房は不思議だ。調味料も食材もいつの間にか補充されている。醤油、味噌が無いのが残念だが……
三枚におろした残りの一切れを一口サイズに切り、コンソメベースのスープの中へ投入。スープの中ではすでに何種類かの野菜が煮込まれている。
………………………さて完成だ。
調理し終わった料理を盛り付け、朝食へと移る。
今日の朝食は白身魚のソテーにコンソメスープ。そしてパン……ああ、米が食べたい。
⇒⇒⇒⇒⇒
朝食が終わり、今日の検証を始める事にする。
まず手始めに武器庫へ行き、両刃の剣、短剣、棍棒、槍、斧、弓を外へと持ち出す。
今日は、スキル無しで武器を使うとどうなるか試すつもりだ。
武器の運搬で減ったHPを休憩で癒した後、懐からリンゴを取り出し、包丁でリンゴを半分に切る。もちろんリンゴは何の抵抗も無く真っ二つになった。
真っ二つになったリンゴの片方を地面に置き、剣を両手で持ち、体重をかけるようにリンゴに突き立てる……刺さらない。
いやいや、そんな訳は……
もう一度試してみるが、剣先は一ミリたりともリンゴに刺さらなかった。
俺はその場で頭を抱える。
おいおい……幾ら何でもここまで物理法則を無視するか? 剣の重みだけでもリンゴを傷付けるくらいは出来るはずだろ。
念の為厨房から持って来たナイフ、フォーク、更にはその辺から拾って来た枝をリンゴに刺してみるが問題無く刺さるーーが短剣を刺してみると刺さらない。
えーと、ナイフと短剣の違いって、刃の大きさ位だと思うけど……
短剣を逆手に持ち何度もリンゴに突き立てるが、カツカツと乾いた音しか立たなかった。
その後、槍、斧と試したが結果は同じ。棍棒に至っては思いっきり叩きつけたのにリンゴの表面でピタリと止まる始末。
もうここまで来ると笑えて来る。
さて、残ったのは弓か……これまでの検証結果で大体想像はつくけど、取り敢えずやっとくか……
左手で弓を持ち、矢をつがえ右手で弓を引いていく。弦を問題無く引けた事に安堵しながら三メートル程離れている木に狙いを定め、弦を離す。
……ポタッ……
……えっ?
飛んだはずの矢を視認出来ず、何処に行ったと探そうとした矢先、足元で音がする。
足元を見ると矢が落ちていた。
あれ? 弦から矢が外れたか? まあ、弓なんて射った事無いからなぁ。
気を取り直し、もう一度弓を射る。
……ポタッ……
また、足元で音。
足元を見ると又矢が落ちている。
……まさか……ねぇ……
三度弓を構え今度は的ではなく、矢を凝視しながら矢を放つ。瞬間、矢はそのまま下に落ち、
……ポタッ……
弦は矢が落ちた後に元の位置へと戻っていく。
「 ……慣性の法則まで無視するかーーーーーーー!」
余りの理不尽さに思わず叫んでしまった。
⇒⇒⇒⇒⇒
検証の後片付けを済ませ、自室で机に向かう。
はっきり言ってあんなふざけた検証結果、書き残したくも無いが、残しておかないとこの先同じ検証を繰り返しそうなので、仕方なくノートに纏める事にする。
そうして今日の検証を途中まで纏めている最中、ふと疑問が浮かんだ。
武器スキルを持ってないからリンゴに刺さらないと思い込んでいたが、本当にそうなのか? そもそも武器スキルの恩恵とは一体どんなものなのか?
もし、武器スキルがない状態での武器の使用が、その武器の利点を全く利用出来ない事を意味するならば……武器を持っていても、持っていなくても筋力1の攻撃としか認識されてないんじゃないか?
筋力1でリンゴを壊せないなら、その理屈で一応説明はつく。ナイフやフォークでリンゴを刺せるのは、ナイフやフォークの攻撃力なら加算出来るからだろう。
となると、弓がその場で落ちたのは、筋力1で飛ばせる矢の距離がアレだった、という事なのか?
ノートに纏め終わり、昨日のスライムとの戦闘記録に目を通す。昨日の感じだとスライムの反応速度は思いの外、鈍いようだ。あれならスライムに近づき、ワンアクション起こして距離を取る事も可能だろう。
問題は如何にダメージを与えるかだが……
もう一度スライムと対峙してみたいけど、最近、皆の様子が変なんだよな。
健一とヒメは何か問題を抱えているみたいだ。俺の予想では井上の野郎が絡んでるみたいだが……相談に乗りたいが今の俺では力になれないし、第一、相談内容を理解出来ないだろう。
井上は最近機嫌が良い。何か悪巧みが当たっているようだが、その企みの対象が健一達の可能性が高い。全く腹立たしい事だが、健一も黙ってやられている奴では無いので、ここは静かに見守っている方が良いだろう。
桃花さんは最近感情が希薄になっている。元の世界ではあんなに明るい人だったのに、精神を病んでなければいいんだが……
窪さんは相変わらず面倒見の良い人だが、力を強く求める様になったと思う。皆んなを守りたい一心なのだろうが、力に重きを置いている事が何となく不安だ。
この半年で俺はすっかり部外者になってしまった。
部外者が当事者達に口を出してもろくなことはない。最悪パーティの関係を悪くして、戦闘で死人を出す可能性もある。
結局は大人しく見守るしか無いんだよな……
俺は今日も盛大にため息を吐く。
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる