理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第1章 最弱勇者の試行錯誤編

第6話 武器の検証……まるで奇術ですね

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   異世界に来て半年が過ぎた。

   俺は今、厨房で魚を捌いている。【料理】スキルは優秀で、元の世界では魚なんて捌いた事も無い俺が、この世界では当たり前の様に出来ている。
   つくづく、この世界でのスキルの恩恵の凄さを思い知る。
   でも、今抵抗無く魚を捌いているこの包丁も、スライムには刺さんなかったんだよなー。
   一回、包丁の切っ先を魚の頭に突き立てみる。若干の抵抗はあったが、包丁は魚の骨を貫通した。
   なんで骨を貫通出来て、あのゼリー状には刺さらない!
   昨日、健一とヒメに引率してもらって対峙したスライムを思い出し、その理不尽さに怒りと無力感が込み上げてくる。この感情もこの世界に来て何十回味わったことか……全く持って悲しくなって来る。
   健一達は今朝、ダンジョンへと潜って行った。ダンジョンの難易度が上がっているのか、最近は一度潜ると三、四日は帰ってこない。
   健一とヒメはダンジョン攻略の内容を語ってくれるが、七、八割が理解出来ない内容だった。全くもって知力1の弊害は呪いとしか思えない。
   あの白い部屋で『知力は記憶力と理解力に影響する』と説明されたが、昨日の夜、俺はその意味を思い知った。
   昨日の夜、自室で『現状脱却ノート』を読み返して俺は唖然とした。この半年間、似た様な検証を何回か繰り返していたのだ。
   例えば、重さ五キロ位迄なら持って歩いても、歩いた距離で減るHPの量に変化は無い、という検証は四回程行なっている。腕立て伏せをやり続けて筋力は上がるのか、という検証は五回。そして、腕立て伏せでもHPが減っていくという泣き言が同じ文言で書かれている事実に、脱力してしまった。
   この事に気付き思い返してみると、俺の記憶力で信用出来るのは十日迄で、それ以降は曖昧だと気付いた。
   唯一の救いは、この世界の理は他人から説明された事は理解出来ないが、自分で気付いた事は理解できるという事だろろうか。
   そして同じく『現状脱却ノート』を読み返して解った事、それは筋トレをしても何の変化も無いという事だ。
   HPがゼロになるギリギリまで腕立て伏せをしても筋力の数値に変化はなかったんだから、そういう事なんだろう。
   但し一つだけ収穫もあった。この半年間、HPを減らしては休憩を繰り返したせいか、視界右上のHPを確認しなくても、感覚でHPが減るのを解る様になっていた。
   これは緊急時、いちいち視線をずらさなくても良いので、便利な能力だと思う。
  ほぼ思い付きで書いてきた『現状脱却ノート』だが、ここに来てその重要性が異様に高まった。これからは定期的に読み返す様にしよう。
  さて、考え事は一旦中断。フライパンを火にかけ、バターを一欠片入れる。バターが程よく溶けたら三枚におろした白身魚の一切れを塩胡椒し、フライパンで焼く。
   しかし、この厨房は不思議だ。調味料も食材もいつの間にか補充されている。醤油、味噌が無いのが残念だが……
   三枚におろした残りの一切れを一口サイズに切り、コンソメベースのスープの中へ投入。スープの中ではすでに何種類かの野菜が煮込まれている。
   ………………………さて完成だ。
   調理し終わった料理を盛り付け、朝食へと移る。
   今日の朝食は白身魚のソテーにコンソメスープ。そしてパン……ああ、米が食べたい。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

   朝食が終わり、今日の検証を始める事にする。
   まず手始めに武器庫へ行き、両刃の剣、短剣、棍棒、槍、斧、弓を外へと持ち出す。
   今日は、スキル無しで武器を使うとどうなるか試すつもりだ。
   武器の運搬で減ったHPを休憩で癒した後、懐からリンゴを取り出し、包丁でリンゴを半分に切る。もちろんリンゴは何の抵抗も無く真っ二つになった。
   真っ二つになったリンゴの片方を地面に置き、剣を両手で持ち、体重をかけるようにリンゴに突き立てる……刺さらない。
   いやいや、そんな訳は……
   もう一度試してみるが、剣先は一ミリたりともリンゴに刺さらなかった。
   俺はその場で頭を抱える。
   おいおい……幾ら何でもここまで物理法則を無視するか?   剣の重みだけでもリンゴを傷付けるくらいは出来るはずだろ。
   念の為厨房から持って来たナイフ、フォーク、更にはその辺から拾って来た枝をリンゴに刺してみるが問題無く刺さるーーが短剣を刺してみると刺さらない。
   えーと、ナイフと短剣の違いって、刃の大きさ位だと思うけど……
   短剣を逆手に持ち何度もリンゴに突き立てるが、カツカツと乾いた音しか立たなかった。
   その後、槍、斧と試したが結果は同じ。棍棒に至っては思いっきり叩きつけたのにリンゴの表面でピタリと止まる始末。
   もうここまで来ると笑えて来る。
   さて、残ったのは弓か……これまでの検証結果で大体想像はつくけど、取り敢えずやっとくか……
   左手で弓を持ち、矢をつがえ右手で弓を引いていく。弦を問題無く引けた事に安堵しながら三メートル程離れている木に狙いを定め、弦を離す。
   ……ポタッ……
   ……えっ?
   飛んだはずの矢を視認出来ず、何処に行ったと探そうとした矢先、足元で音がする。
   足元を見ると矢が落ちていた。
   あれ?   弦から矢が外れたか?   まあ、弓なんて射った事無いからなぁ。
   気を取り直し、もう一度弓を射る。
   ……ポタッ……
   また、足元で音。
   足元を見ると又矢が落ちている。
   ……まさか……ねぇ……
   三度弓を構え今度は的ではなく、矢を凝視しながら矢を放つ。瞬間、矢はそのまま下に落ち、
   ……ポタッ……
   弦は矢が落ちた後に元の位置へと戻っていく。
 「 ……慣性の法則まで無視するかーーーーーーー!」
   余りの理不尽さに思わず叫んでしまった。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

   検証の後片付けを済ませ、自室で机に向かう。
   はっきり言ってあんなふざけた検証結果、書き残したくも無いが、残しておかないとこの先同じ検証を繰り返しそうなので、仕方なくノートに纏める事にする。
   そうして今日の検証を途中まで纏めている最中、ふと疑問が浮かんだ。
   武器スキルを持ってないからリンゴに刺さらないと思い込んでいたが、本当にそうなのか?   そもそも武器スキルの恩恵とは一体どんなものなのか?
   もし、武器スキルがない状態での武器の使用が、その武器の利点を全く利用出来ない事を意味するならば……武器を持っていても、持っていなくても筋力1の攻撃としか認識されてないんじゃないか?
   筋力1でリンゴを壊せないなら、その理屈で一応説明はつく。ナイフやフォークでリンゴを刺せるのは、ナイフやフォークの攻撃力なら加算出来るからだろう。
   となると、弓がその場で落ちたのは、筋力1で飛ばせる矢の距離がアレだった、という事なのか?
   ノートに纏め終わり、昨日のスライムとの戦闘記録に目を通す。昨日の感じだとスライムの反応速度は思いの外、鈍いようだ。あれならスライムに近づき、ワンアクション起こして距離を取る事も可能だろう。
   問題は如何にダメージを与えるかだが……
   もう一度スライムと対峙してみたいけど、最近、皆の様子が変なんだよな。
   健一とヒメは何か問題を抱えているみたいだ。俺の予想では井上の野郎が絡んでるみたいだが……相談に乗りたいが今の俺では力になれないし、第一、相談内容を理解出来ないだろう。
   井上は最近機嫌が良い。何か悪巧みが当たっているようだが、その企みの対象が健一達の可能性が高い。全く腹立たしい事だが、健一も黙ってやられている奴では無いので、ここは静かに見守っている方が良いだろう。
   桃花さんは最近感情が希薄になっている。元の世界ではあんなに明るい人だったのに、精神を病んでなければいいんだが……
   窪さんは相変わらず面倒見の良い人だが、力を強く求める様になったと思う。皆んなを守りたい一心なのだろうが、力に重きを置いている事が何となく不安だ。
   この半年で俺はすっかり部外者になってしまった。
   部外者が当事者達に口を出してもろくなことはない。最悪パーティの関係を悪くして、戦闘で死人を出す可能性もある。
   結局は大人しく見守るしか無いんだよな……
   俺は今日も盛大にため息を吐く。
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