理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第1章 最弱勇者の試行錯誤編

第8話 暫しの別れ……計画実行に移します

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   その日の朝、外に通ずる扉がノックされた。
   リビングに集まっていた俺達が戸惑いながら顔を見合わせている中、井上が上機嫌で扉を開ける。
   外には、綺麗な銀色の鎧で身を固めた騎士風の男達やローブ姿の魔道士風の人など、総勢十名程が横二列に並び、直立不動で立っていた。
   その中の一人、恐らくはリーダー格なのだろうが、立派な口髭を生やした四十代位の鎧の男が井上の元に近づく。

「#\%〆○☆*\……」

   鎧男が井上に何か話しかけるが、その言葉が理解出来ない。
   あれ?   【世界共通語】が発動していない?

「健一、あの言葉、理解出来てる?」
「えっ? 博貴……もしかして、聞き取れてないの?」

   逆に聞き返されてしまった。おいおい、スキルに必要能力値があるなんて聞いてないぞ!
   白い部屋での説明内容を思い返すが、そんな事を言われた覚えは無い。

「知力不足かな?」

   俺の様子を窺っていた健一が聞いてくる。

「多分な。例えば赤ん坊が【世界共通語】を持ってたとして、言葉が理解出来ると思うか?」
「……納得」

   ここに来ての知力の呪いにうんざりしている間にも、井上とお迎え代表者の会話は続いている。
   そしてある程度会話が進むと、迎えに来た者達の全員の視線が俺に集中した。侮蔑や失望の籠もった視線だ。
   この手の視線は最近井上で慣れたと思っていたが、流石に数が揃うと威圧感が半端無い。

「井上の奴、俺の話をしたのか?」
「うん……井上節的な言い回しでね」
「そっか。まあ、一緒に行くつもりは無いから良いんだけどね。どうせ【鑑定】もされてるだろ」
「だろうね……あっ、一応言っておくけど、博貴のオリジナルスキル。シークレットが掛かってる所為か、【鑑定】しても引っかからないから」
「?   米印で見えるだけじゃないのか?」
「米印も見えないんだよ。博貴のオリジナルスキルは無い事になってる」
「って事は【鑑定】されたら俺、雑魚中の雑魚にしか見えないって事?」
「そうだね。でも好都合じゃない。能力値がオール1でも、取得スキルポイント三十のユニークスキルを持ってるって気付かれたら、利用価値を見出す人がいるかも知れないし」

   利用価値なんて言葉を使う辺り、健一も俺に向けられている視線から、奴らの性質を見抜いているのだろう。

「健一、向こうではヒメを頼むぞ」

   健一の心配はしない。健一は気に入らない奴には絶対気を許さないから。
   しかしヒメは違う。ヒメは表面上でも好意的に接すれば、真摯に対応する。
   純真無垢と言えば聞こえが良いが、要するに騙され易く、取り込まれ易いのである。

「分かってる。ヒメには邪な奴らを近付けさせないよ。だけど、なるべく早く迎えに来てくれると有り難いかな」
「善処はする」

   健一と改めて約束を交わすと、井上がこちらに振り返った。

「皆、それじゃ行こうか」

   井上は自分の号令に皆が頷くのを満足そうに見渡すと、俺には目もくれず外に出て行った。

「博貴、必ず成し遂げろよ」

   親指を立てた拳を俺に向けた後、窪さんは井上に続き外へ出る。

「博貴君、待ってるわよ」

   井上の目が無い所で、桃花さんが軽く投げキッスをして窪さんに続く。

「ひろちゃん、無理はしないでね」
「博貴、程々にね」

   信頼からか、気負わせない為の気遣いか、軽い感じで挨拶を交わし、健一とヒメが外に出て行く。
   平常心を装っていたけど、ヒメは暫く荒れるだろうな。また、健一に苦労を掛ける事になる。
   暫く慰め役に翻弄されるだろう健一の冥福を祈りながら、俺は皆を見送った。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

   皆が去った後、俺は軽い朝食を済ませ、風呂場へと向かった。
   風呂場に入り、辺りを見渡す。壁から生えたドラゴンの口から流れるお湯が、五人が悠々と入れる程の大きな、磨かれた石製の浴槽に流れ込んでいる。
   よくよく考えると、このお湯って何処から来てるんだろ?   ポンプなんて無いだろうし……まあ、調味料や食材だって自動補充される所だ。お湯が出続けるなんて大した不思議じゃ無いか。そんな事より……
   辺りを見渡し、風呂場の隅に積まれた木桶に目を止める。直径二十センチ程の木桶を五つ持ち、今度は倉庫に向かう。
   倉庫に入ると先日健一に教えてもらったポーションを、容器のまま木桶に詰めて行く。木桶一つに対し十五本のポーションを詰め、それを地下の転移魔法陣の部屋へ運んで行く。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

   シャッ……シャッ……シャッ……
   厨房で使い慣れた包丁を研ぐ。
   切れ味を良くした所で魔物に対する攻撃力が上がるかは疑問だが、取り敢えず思い付いた事はやっておく。
   研ぎ終わった刃を光りにかざし、その刃こぼれの無い綺麗な刃に満足して、包丁を手に魔法陣の部屋へと向かう。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

   ふう~~っ
   胸を満たす不安感を吐き出す様に大きく息を吐いた。
   眼前にはゴツゴツとした岩肌の通路が伸びている。
   この魔法陣の部屋を出れば、魔物の出現エリアだ。殆ど記憶に無いが『現状脱却ノート』によると、半年前に俺の攻撃をコミカルに弾いてくれたスライムが現れる筈だ。

「さて、やりますかね」

   逸る気持ちを落ち着かせ、ポーションの入った木桶を一つ一つダンジョン内に運んで行く。総重量が五キロを超えるとHPの減少が飛躍的に激しくなる為、一つづつ魔法陣の部屋から十メートル程の所に木桶を置いていく。
   スライムの姿が周囲に無い事を確認し、木桶にポーションの中身を開けていった。木桶一つに対して十五本。木桶五つに七十五本分のポーションを開ける。
   ーーさて、準備は整った。後は待つだけ。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

   どの位待っただろうか、随分と長い時間が経った様な気がするが、実際は五分位かもしれない。通路の先に、薄緑色の透明な身体を揺らしスライムがその姿を現わす。その距離、約十メートル。
   ーーやっと出たか。
   下ろしていた腰を上げ、スライムを見据える。
   スライムの攻撃射程は判らないが、身体を極端に伸ばす事は無いと思う……いや、思いたい。
   しっかし怖いな【恐怖耐性】発動してるんだろうな?   結構怖いぞ!   精神力不足で発動してないなんて事無いよな……ありそうでそれも怖い。
   込み上げてくる恐怖と格闘している間も、スライムはその距離を詰めて来る。
   残り五メートル……四メートル……三メートル、木桶を一つ、両手で持つ……二メートル。
   射程距離にスライムが入った!
   手に持つ木桶の中身をスライムにブチまける。スライムにポーションが掛かったのを確認し、すぐさま二つ、三つ、四つ、五つ、と全てのポーションをスライムにブチまけ、暫し観察する。
   ーー白い部屋での注意事項の中にポーションに関する事があった。量を間違えたり、連続使用したりしたら、行動不能や能力値低下の状態異常を引き起こすとーー
   俺はこの世界に来てからずっと考えていた。この注意事項が人に対するものか、それとも生物に対するものか……それだけ考えても答えが出ないので、今度はポーションが何なのかを考えたーー結果、ポーションとは生物の治癒能力と生命力を高める魔法薬ではないかと結論付けた。
   治癒能力と生命力を高めるならば、その効果は人に留まらず、生物全般にある筈。
   検証はしていない。全て憶測だ。だが、その憶測が当たれば、俺はこの世界の呪縛から逃れられる。
   注意深くスライムを観察する。スライムに対するポーションの適量が分からないから、出来るだけ大量のポーションを掛けてみたが、果たして……
   スライムは動かない……取り敢えず成功かと包丁を構える。後は、能力値低下の効果で防御力が俺の攻撃力を下回っていれば!

「はああああああっ!」

   気合いと共に逆手に持った包丁をスライムに突き立てた。包丁はその刃先をスライムに食い込ませる。
   弾かれない!   ……行ける!
   攻撃が入ったと判断し、何度も何度も包丁を突き立てる。途中HPが残り1になったのに感覚で気付き、懐に入れていたポーションをあおり、更に激しく突き立てた。
   いつしか恐怖感は消え、只無心に突き続ける。
   どの位刺したか曖昧になった頃、突然突き刺す時に感じてた抵抗感が無くなった。
   まるで水に刃を突き刺した様に『バシャッ』と音がし、その刃先が勢い余って地面刺さる。

「はあ、はあ!   はあ、はあ……」

   肩で息をしながらよく見ると、スライムは水の様になり地面に染み込んで消え、後にはビー玉の様な黒い玉が残っているだけだった。

〔レベルが上がりました〕

   突然頭の中に声が響き、全身をビクッと震わせてしまった。

〔レベルアップにより、スキル【**********】が発動します。スキル【**********】の発動によりスキルのシークレットが解除されました〕
「………………………くくくっ……あっはははは!   ついに、ついにやった!」

   溢れる歓喜に思わず叫んでしまったが、ここがまだ危険地帯だと思い出し、地面に転がる黒い玉を無意識に拾い上げながら即座に魔法陣の部屋まで戻った。
   魔法陣の部屋に戻ると、安心感が出たのか急に足腰が言うことを聞かなくなり、その場で崩れ落ちてしまう。自分が思ってたより、疲労の蓄積が半端じゃ無かったらしい。
   残りHPも2しか残ってないし……仕方がない、このまま休息するか……
   安堵の為か、疲労のせいか、襲い来る眠気に俺は身を委ねた。

   
   
   
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