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第4章 超越者の門出編
第80話 ヒメとエルシア……博貴、本当に気を付けて
しおりを挟むーーSide健一ーー
「へぇ、博貴さんて、そんなに寡黙なんですか」
「そうだよ。ひろちゃんはこっちが話を振らない限り、黙って私達の話をニコニコ聞いてるだけなんだから」
ヒメと宮廷魔術師筆頭の孫娘エルシア嬢の世間話を聞きながら、僕は思わずため息を漏らしてしまう。
ここは城内で僕達に与えられた談話室。そこで、僕とヒメ、そしてエルシア嬢はケーキと紅茶を茶受けに談笑していた。まぁ、談笑してるのは主に二人だけで、僕はただ聞いてるだけなんだけどね。
今、僕達が食べているケーキは、ヒメが城内の厨房で作り上げ、高レベルの料理スキルを持つ城の料理人達に、その作り方を伝授した物。
ヒメは昔から嫌な事があると、料理を自分で作り食べる事でストレスを発散していたんだけど、博貴が心配だったのか、ちょっと前までその度合いが異様に高くなっていたんだよね。
その為に、この世界には無い様々な料理を作り上げていたんだけど、いかんせん料理スキル最低ランクの【料理】では納得のいく味にはならなかったみたい。それで途中からは、一回作ってるところを料理人達に見せて、料理人達が再現した物を食べる事で、ストレス発散はクリアしてたみたいだ。
ちなみに、ヒメによって生まれたレシピの数々は、王族貴族の間で秘伝の様になってるみたいで、庶民には出回ってないらしい。こういう美味しくて贅沢な食べ物は、庶民には必要ないって事かな? 全く、王族貴族の特権階級意識にはヘドしか出てこないね。
ヒメの料理の度合いが減ったのは、かなねぇから博貴の生存確認が取れた直後から。
それまで塞ぎがちだったヒメに大分笑顔が戻り、そのあまりの変わり様に、井上の奴から要らぬ疑いをかけられるんじゃないかとヒヤヒヤしたけど、あいつは宰相と姫様に相当甘やかされ有頂天になってるらしく、俺達の様子など歯牙にも掛けていないご様子だ。
そういえば、博貴の生存確認後で変わった事と言えばもう一つ。宮廷魔術師筆頭レイモンド・E・レクリス。丁度その辺りから人格が変わったかの様に、やたらと物腰柔らかく僕達に接する様になったんだよね。
それまでは僕達に対する時は、有無を言わせない様な高圧的な態度だったのに、急にニコニコしながら近寄って来たから一瞬、『誰?』って思っちゃったよ。
宰相からのちょっかいもそれとなく阻止してくれてるみたいだし有難いけど、懐柔策に路線変更したのだとしたら、ちょっと怖いね。
「ちょっと、けんちゃん聞いてる?」
「えっ……うん、聞いてるよ」
ヒメに突然話を振られ、慌てて返事を返す。
ヒメは僕が話を聞いてると分かると、満足して再びエルシア嬢との談笑に戻った。
これ、僕が聞いてる意味あるのかなぁ……
ある意味理不尽とも思える、女の子同士の会話をただ聞くだけの作業に少しウンザリしながらも、二人の話を聞きながらその様子を窺う。
この二人は最近とても仲が良く、頻繁にこの様なお茶会と称したガールズトークをしている。その内容は、お菓子の評論だったり、貴族の裏事情だったり、博貴の話題だったり……そう、エルシア嬢は何故か博貴の話題に興味津々だった。
あれは、仲の良いヒメが意識している異性の話を聞いて、恋話を楽しんでるって感じじゃないんだよね。
ヒメが気付いてるかどうかは知らないけど、明らかにエルシア嬢は博貴に好意を持ってる。まぁ、恋愛ゲームを数多くこなしてきた僕の感だけどね。
恋愛に疎く、興味もあまり無い博貴にとっては地獄になるかもしれないけど、このまま行くと修羅場になるっていうのが定番だよね。
でも、幼馴染みのヒメに、年下純情系のエルシア嬢かぁ……年上のお姉さんは桃花さんがいるとして……
後、幼女と熟女がいれば、立派なハーレムの人員が一通り揃うんじゃないか?
博貴……気を付けないと、泥沼にドップリはまって抜け出せなくなってた、なんて事になってるかもしれないよ。
Sied 博貴
「……幼女と熟女」
部屋に入るなり、俺を無視してティアに『いらっしゃ~い』とハイテンションで抱き付いたかなねぇを見て、何故か頭に思い浮かんでしまった言葉が口に出てしまう。
「熟女ですか……確かに見た目はともかく、百歳を超えてらっしゃるから、そう言えなくはないですね」
隣で俺の呟きを聞きつけたレリックさんが、口元をニヤけさせながらそう答えるが、俺はその話題は続けると危険だと察知し、すぐさま話題を変える事にした。
「しかし、俺をガン無視してティアを抱っこですか。相当ご立腹の様ですね」
かなねぇに抱っこされ、無表情で頬ずりされているティアをちょっと不憫に思いながら、レリックさんに話題を振る。
「ふむ、熟女ネタは危険と判断しましたか。その判断は妥当ですね」
「そう思うなら、ぶり返さないで下さい」
「そうですね。では、改めて……コホン。総統は元々、小さくて可愛い物に目が無いのですから、ティア殿に対してあの様なスキンシップをとってもおかしくは無いのでは?」
一度、わざとらしく咳払いをしてから、先程の俺の会話に対する返答をするレリックさん。ホントこの人、何処まで本気なんだろ……
「可愛い物に目が無い……ねぇ。その割に初めてティアを見た時はそんなに大袈裟な反応はしてなかったでしょう」
「はっはっはっ、総統とて、時と場合を弁えて行動しますよ。あの緊迫した現場でこんな奇抜な行動をとるわけないじゃないですか」
「時と場合を弁えて行動するというのなら、先ず、久し振りに会った俺に挨拶するのが妥当だと思うんですが」
「おや? もしかして、無視されて寂しいのですか?」
「そんな訳無いでしょう。俺はかなねぇの機嫌を直してくれなかったんですか、と、聞きたいんですよ」
「機嫌を直す? 私がですか? 総統の機嫌を損ねたのは博貴殿でしょう。何故、私がそんな面倒な事をせねばならないのです?」
驚いた顔で、まじまじと俺の顔を覗き込むレリックさんに軽い殺意を覚えながら、俺はこれから始まるであろう、かなねぇの機嫌直しという大仕事を前に、大きなため息を吐いた。
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