理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第4章 超越者の門出編

第91話 解毒剤作成準備……レリックさん、かなねぇの機嫌を損ねたまま放置しないで下さい

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(アユム。早速、薬の鑑定をしたいんだけど)

   部屋に戻った俺は時間を惜しむ様に早速、薬の鑑定に入った。

[了解です。ーー【森羅万象の理】による鑑定の結果、この薬には精神力を弱め、陶酔感を与える事で自我を曖昧にする作用がある事が分かりました]
(精神力を弱めて自我を曖昧にする?   精神破壊を引き起こす薬じゃないのか?)

   レリクス卿の話では、薬を使った囚人は自我崩壊したと言ってたけど、ワイバーン用に調合した薬だったからか?

[いえ、精神や自我を破壊してしまっては生ける屍となり、命令を実行させる事も出来なくなります。この薬は、自我を曖昧にし、精神力を弱める事で暗示や精神支配に対する抵抗力を弱めて掛けやすくする為の薬ですね]
(成る程ね……でも、陶酔感って……)
《マスターにも分かる様に言うと、麻薬だね。この薬には精神力を弱める効果がある魔草と、人間には致死量に達する程に濃縮された多種類の麻薬が使われてるよ》

   突然割って入って来たニアが、珍しく真剣な口調で説明してくれる。

(麻薬か……あれ?   でも麻薬が入ってるって事は禁断症状が出るんじゃないのか?)
〈はい。ですから、一日一回位のペースで服用させないと、暴れ出すと思われます〉
《全く、人間は酷い事をするよね。幾らモンスターっていっても、自分の言う事を聞かせる為に自由意志を奪うなんて》

   トモの解説に続き、この薬を使っている事に憤慨するニア。

(……今日のニアは随分ご立腹だね)
〈私達は自我のみの存在ですから〉
[精神を支配する様な行為は最も酷い仕打ちに感じるんです。ニアは私達の中で一番感情を露わにする子ですから……]
(って事は、アユム達も?)
〈内心は怒ってますよ〉
[当然です]

   トモとアユムの口調はいつもと変わんないんだけど、何と無く怒気が見え隠れしている様で、ちょっと怖い。

(しかし、精神支配に嫌悪感を抱くか……それでよく俺が【闇黒魔術】を取得するのに反対しなかったね)

   【闇黒魔術】には精神支配や精神操作の魔術も含まれている。俺自身も人の精神を操る事に少しばかりの抵抗があったから使った事は無いが、モンスターがそれをやられただけで怒っている三人がよくも反対しなかったものだと思っていると、三人はーー

〈いえ、マスターのする事に間違いはありませんから〉
[マスターのする事は絶対です]
《マスターのする事に文句は無いよ。ただ、他の奴がやるとムカつくだけ》

   と、平然と答えた。
   三人が俺を信頼してくれる事を改めて感じて心強さを感じながら、俺は事の核心を三人に尋ねる。

(それで話は戻るけど、この薬の解毒剤は作れそうかい?)
[少し特殊な方法になりますが、不可能ではありません]
(特殊?   どう言う事?)
[この薬を無効化するには、二つの段階を踏まないといけません。先ず、麻薬の効果を打ち消し、その後に弱められた精神力を元に戻す]
(ん?   暗示か精神操作は解かなくていいの?)
〈ワイバーンは亜種の末席とは言え竜種ですから、本来なら並みの人間が精神操作を掛けられる様な存在ではないんです〉
《だからこその薬なんだろうね。自我をしっかりさせて、本来の精神力に戻してやれば後は自力で解いちゃうよ。ただ、先に精神力を元に戻しちゃうと、麻薬の影響で何を仕出かすか分からなくなっちゃうから、治療法としては麻薬の影響を打ち消す方が先って事になるんだ》
(そういう事か……しかし、治療工程が二段階必要だとすると面倒だな)
[麻薬の影響を完全に打ち消すには、薬を投与して二時間程待たないといけません。その前に精神力を元に戻す薬を投与すると、麻薬の効果を打ち消す薬と混ざってしまい、効果が十二分に発揮されない可能性があります]
(う~ん……二時間も待たないといけないのか……取り敢えずその方法は後で考えるとして、先ずは治療薬を作ってしまった方が良さそうだな)
[了解です。治療薬を作成するのに必要な材料はーー]

   ⇒⇒⇒⇒⇒

「かなねぇ、ギルドって素材とかって保管してるかな?」

   アユムから解毒剤を作るのに必要な材料を聞いた俺は、先ず身近な所にないかと、相変わらずこたつで書類とにらめっこしているかなねぇに聞いてみる事にした。
   かなねぇは俺に話し掛けられると、書類に向けていたしかめっ面のままこちらに振り返る。

「冒険者から買い取った物ならある筈だけど、詳細は私よりここのギルマスの龍次さんの方が詳しいわよ」

   表情に似合った冷たい口調で言い放つかなねぇ。
   なんかご機嫌斜めの様だ。こういう場合はさらなる逆鱗に触れない様にしないと……

「ああ、レリックさんか……って、レリックさんは何処に?」

   いつもならここでかなねぇと一緒に、書類を捌いているレリックさんがいない。

「……多分、厨房にいるわよ」

   やけに機嫌が悪いかなねぇは、ジト目で俺を睨みつけながらそう短く吐き捨てる。

「厨房?」
「そう、厨房。『博貴殿から食材を融通してもらったので、早速ティア殿と新たなメニューに挑戦してみます』って、厨房に行ったのよ!   確かにティアちゃんに料理を教えてあげてって言ったのは私だけど、私に仕事を押し付けてまでやる事ないじゃない!」

   今まで静かに怒りを燃やしていたかなねぇが、とうとう不満を爆発させる。
   こんな所に地雷が……でも、聞かないといけない流れだったし、俺は悪くないよね。ここは怒りの矛先をレリックさんに向けてもらわないと。

「……だったら直接レリックさんにそう言えばいいでしょう」
「言ったわよ!   そしたら龍次さんったら、『ティア殿との約束を反故する訳にはいきませんので』なんて、ティアちゃんを盾にしたのよ!   ティアちゃんを兼ね合いに出されたら、ダメなんて言えないじゃない!   あれは絶対にティアちゃんの面倒を頼んだ時の意趣返しよ」
「あー……さいですか」
「ひろちゃん、何処に行くの?」

   収集不可能と判断し、適当に相槌を打ちながらさっさとこの場から立ち去ろうとしたけど、かなねぇは鋭い眼光で引き止める。

「何処って……レリックさんの所だけど……」
「へー、ひろちゃんも私を置いて行っちゃうんだ」
「いや、俺は三日後に備えて色々準備しないといけないんだけど……」
「ふ~ん……いいなぁ、皆用事があって。私はここで書類に埋もれていくんだ」

   あ~あ、完全にいじけてしまっている。こうなると立ち直った後が怖いよな。レリックさん、何でかなねぇの機嫌を損ねたまま放置するんですか……

「じゃあ、仕事頑張って」

   ここにいても俺にやれる事はないし、第一今は時間が惜しい。
   俺はそそくさとその場を退場した。


   ⇒⇒⇒⇒⇒

「レリックさん!」
「博貴殿?   どうしたのですかそんなに大きな声を出して」

   一階の厨房に移動した俺は、そこでレリックさんの姿を見つけ大声で呼びながら駆け寄った。

「どうしたじゃないですよ。なんでかなねぇの機嫌を損ねたまま放置してるんですか」
「総統が機嫌を損ねている?   ……ああ、その事ですか」
「その事って、今、俺はとばっちりを受けてきたんですよ」

   のんびりと答えるレリックさんを俺が非難すると、レリックさんはやれやれと首を左右に降った。

「あれは自業自得ですよ。私はティア殿に料理を教えて欲しいという総統の勅命を実行しているに過ぎません。それを仕事が増えたからといって、今更手のひらを返されてもねぇ」
「仕事が増えた?」
「ええ、博貴殿が持ってきた情報の裏を取る為の命令書の作成や、三日後のお披露目式を妨害する為の裏工作の準備など、やる事はいっぱい増えましたからねぇ」
「それ、俺の話を聞いてた時に予想出来てたでしょう。ティアに料理を教えるなんて後でも出来るでしょうに……かなねぇは意趣返しと言ってましたよ」

   レリックさんの後ろで黙々と料理しているティアを確認しながら詰め寄るが、レリックさんはいつもの飄々としたスタンスを崩さない。

「フッフッフッ、意趣返しなんて、それは被害妄想というものですよ。それに、私は無駄な事はしない主義なのです」
「無駄な事?」
「ええ、今回の一件、博貴殿が動くのでしょう。私は博貴殿が必ず成功させると確信していますから、ギルドが今やっている事は全て無駄という事です」
「そうですか……それでは期待に応えないといけないですね」

   レリックさんの俺へのその信頼は何処から来ているか分からないが、その期待に応える為に、俺はレリックさんに要件を伝える事にした。
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