理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

文字の大きさ
106 / 172
第4章 超越者の門出編

第102話 作戦終わって……んー、色々心配させちゃってるなぁ

しおりを挟む
   
   
   
   
   自室に戻った俺は、その身をベットへと倒れ込ませる。
   間接的な人殺しーー恐怖心は無い。さすがは【恐怖耐性】といったところだろうか。
   だが、何というか……わだかまりの様なものが心の中を渦巻いている。
   そのモヤモヤが作戦を成功させた俺の気分を、強制的に不快なものへと変えていた。
   理由は分かっている。自分の策で人が死んでいるというのに、俺はその事に対して何の感情も抱いていないのだ。
   その人としてありえない心情を抱いている自分自身への嫌悪感が、俺の気分をどんどん沈めていた。

(なあ、神は【恐怖耐性】以外に勇者の心に細工しているんじゃないか?)

   このまま沈んでいても浮上の目は出ないと思い、何かきっかけは無いかと【共に歩む者】に話しかけてみる。

[マスター、マスターの精神に何らかの細工がされている形跡は確認出来ません]

   アユムの冷静な返しを聞き、俺は顔を枕に埋めた。

(って事は、やっぱりダンジョンの人型魔物構成で人が死ぬ事に慣れちゃったのかなぁ……だとしたら神の策略に完全にハマっちゃってるじゃないか)
〈マスターの策で人死にが出た事への罪悪感の話ですか?〉
《結構死んじゃってたもんね》
(ぐっ……)

   トモとニアの言葉を聞き、嫌悪感が更に増しながら心に重くのしかかる。

(お前らなぁ……事実だとしても言い方というものがあるだろう)
〈すみません。ですが、マスターが人の死に対して感情が動かないとすれば、【恐怖耐性】やダンジョンの構成以外にも要因は考えられますが……〉
(一体、どんな要因だよ)
《あはは、マスター本当に気付いてない?》

   陽気に問いかけてくるニアに、俺は一つの心当たりを思い浮かべ大きくため息を吐いた。

(【超越者】か?)
[はい。人を超越する【超越者】を取得した時点で、マスターの精神も人を超えたものへと昇華している可能性はあります]
(それで人の死もあんまり気にならなくなったと……)
[はい。人が全く知らない動物の死を目の当たりにしても心を痛めないように、【超越者】になった事で知らない人が死んでも動じない精神力が身に付いているかと]
(はぁ~……なんかやだなぁ、俺は人の身が良かったよ)

   そんな事をボヤいていると、扉がガチャリと開いた。ここにノックもせずに扉をいきなり開けるやつは一人しかいないい。
   ティアだなと思いつつそちらに目を向けていると、ティアは開いた扉の向こうからソロ~と顔半分だけを出してこちらの様子を覗き見ていた。

「どうしたティア?」
「ん……ひろにぃ?」

   ティアの様子がどうもおかしい……いつもの慇懃無礼な感じは無く、おどおどとこちらの様子を窺っているみたいだ。

(どうしたんだティアは)
《う~ん、ティアちゃんはマスターがへこんでるのを察知して、どう接していいか分からなくなってるんじゃないかな》

   主にティア担当のニアに聞いてみると、そんな返答が返ってくる。

(えっ!   俺ってそんなに目に見えてへこんでた?)
〈いえ、それ程ではありませんが、ティアちゃんもなんだかんだ言ってもマスターとの付き合いが長いですから、その位は流石に気付きますよ〉
(そうか……)

   この世界でも健一達みたいに気心の知れた知り合いが出来たのは嬉しいが、そういう相手に心配されるのは本意じゃないんだよな……
   このままではいかんとティアに向かって手招きすると、ティアは控え目にテトテトと俺に近付いてくる。

「いいか、ティア。俺は別に落ち込んでる訳じゃないんだ。ちょっと嫌な事があっただけだから、普通に接してくれると有難い」
「ん、嫌な事?」

   ティアが小首を傾げて可愛く聞き返してきたので、『そうだ』と言うと、ティアは目を輝かせ分かったと言わんばかりにコクンと頷いた。

「嫌な事があった時は、美味しい物を食べれば治る!」
「えっ!   ティアさん?   それはちょっと暴論じゃあ……」
「んっ!   直ぐに準備する!」

   ティアはそう言うと一目散に部屋から出て行った。

「ティアの悩みは大概食べれば治るのか?」

《ティアちゃんらしいと言えばらしいよね。あれは、大好きなマスターの為に一生懸命料理するんじゃない》

   俺の呟きに、ニアが愉しげに応じる。
   まあ、昼食どきだし、いいか……
   ティアにはさせたい様にさせる事にして、このまま部屋にいても塞ぎ込みそうなので部屋を出る。と言っても、部屋を出ても行く所なんて限られてるんだけどね。
   俺は迷わずギルドマスターの部屋へと向かった。

   ⇒⇒⇒⇒⇒

「あら、ひろちゃん……って、どうしたの?   随分と暗いけど」

   ギルドマスターの部屋に入り、俺の顔を見たかなねぇの第一声がこれ。
   そんなに顔に出てるのかな?
   表情がいつもと違うのかと頬を指でフニフニと押していると、かなねぇの向かいに座っていたレリックさんが肩をすくめる。

「表情には出てませんから、そんな事をしても無駄ですよ。その証拠に私には分かりませんでしたから」
「そうですか、じゃあかなねぇに気付かれたのって……」
「あのね、ひろちゃんとは物心着く前からの付き合いなのよ。ちょっとブランクはあるけど、その位の心境は読めるわよ」

   かなねぇにそう自慢気に言われ、俺は『さいですか』と答えながらこたつに座る。

「あら、ティアちゃんはどうしたの?」
「俺を元気付ける為にご飯を作ってくれるそうです」
「あっら~、ティアちゃんにも気付かれたんだ」
「みたいですね」

   かなねぇがからかいモードの様な口調で言ってきたので、素っ気なく答えてやると、かなねぇは急に真面目な表情をして口を開いた。

「ひろちゃん、ひろちゃんの今の心境の原因はもしかして今日の作戦結果が原因?」
「まあ……ね」

   急に確信を突かれ少し気後れしながら答えると、今度はレリックさんが口を開く。

「結構な人死にが出ましたからね。でも、それも自業自得、博貴殿が心を痛める必要は無いと思いますが……」
「いや、人が死んだから心を痛めるのではなくて、人が死んでも全く動じてないから自己嫌悪してるんですよね」

   レリックさんの勘違いを正すと、かなねぇとレリックさんがビックリした顔でこちらを見つめてきた。

「そっか……ひろちゃんは人を殺しても動じてない自分が嫌なのか……」
「流石の私も初めて人を殺した時には、動揺を隠せなかったものですが……やはり【超越者】の影響ですかねぇ」
「その可能性は否定出来ませんね」

   俺がそう答えると、かなねぇが考える素振りを見せる。

「ん~、そうなんだ。でも、ひろちゃんは人の命を軽くは思ってないでしょ」
「そりゃあ勿論そのつもりだけど」
「なら、今回の事はあんまり深く考えない方がいいわ」
「えっ、何で?」

   驚く俺に、かなねぇは真剣な視線を向けてくる。

「この世界では、元の世界よりよっぽど人の命が軽いの。そんな世界でいちいち敵の事で頭を悩ませていたら、その内ひろちゃんが命を落とす事になるわよ。勿論、人や命なんてゴミ屑みたいな考え方をされると問題だけど、そうじゃないなら、取り敢えずは問題無いわ」
「問題無いって……」
「大体、ひろちゃんの目的は何?」
「何って、健一達と合流する事だけど……」
「でしょ、だったら今はその目的の為に集中しなさい。悩む事なんて、その後に幾らでもすればいいわ。でないと、足元を掬われるわよ」
「そうか……そう、だよね。今は健一達との合流だけを考えていればいいか」

   かなねぇの言いように苦笑を浮かべながらも気持ちを入れ替える。丁度その時、部屋の扉が勢い良く開け放たれた。
   三人がそちらの方に視線を向けると、ティアが元気一杯に部屋に入ってきて俺の前に料理の乗ったお盆を置いた。

「ん!   ひろにぃ食べて元気になる」

   俺は苦笑いを継続させながら、ティアの好意を受け取るために静かに箸を持った。

しおりを挟む
感想 165

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

帰還勇者の盲愛生活〜異世界で失った仲間たちが現代で蘇り、俺を甘やかしてくる~

キョウキョウ
ファンタジー
普通の会社員だった佐藤隼人(さとうはやと)は、ある日突然異世界に招かれる。 異世界で勇者として10年間を旅して過ごしながら魔王との戦いに決着をつけた隼人。 役目を終えて、彼は異世界に旅立った直後の現代に戻ってきた。 隼人の意識では10年間という月日が流れていたが、こちらでは一瞬の出来事だった。 戻ってきたと実感した直後、彼の体に激痛が走る。 異世界での経験と成長が現代の体に統合される過程で、隼人は1ヶ月間寝込むことに。 まるで生まれ変わるかのような激しい体の変化が続き、思うように動けなくなった。 ようやく落ち着いた頃には無断欠勤により会社をクビになり、それを知った恋人から別れを告げられる。 それでも隼人は現代に戻ってきて、生きられることに感謝する。 次の仕事を見つけて、新しい生活を始めようと前向きになった矢先、とある人物が部屋を訪ねてくる。 その人物とは、異世界で戦友だった者の名を口にする女子高生だった。 「ハヤト様。私たちの世界を救ってくれて、本当にありがとう。今度は、私たちがあなたのことを幸せにします!」 ※カクヨムにも掲載中です。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

処理中です...