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第5章 『水の国』教官編
第141話 『火の国』の災難……ガウレッドさん、やり過ぎです
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博貴達がシルティリア女王と謁見してから三日が経ち、『風の国』の軍勢が『水の国』への国境を越えようとしている頃、『火の国』もまた進軍を進め、『風の国』との国境手前の火竜山を目視出来る所まで軍を進めていた。
「大将軍、進軍は順調ですな」
馬を並べる銀色に輝く見事な鎧を着込んだ老騎士の言葉に『火の国』の大将軍、武田利成は静かに頷く。
銀色に金の細工を施した見るからに荘厳な鎧を着た武田利成は、見た目は四十代中頃であるが、【臨界突破】を取得し寿命が三倍になった第四期の勇者であり、隣にいる七十近い年齢の老騎士よりも年上である。
武田は今回の『風の国』進行の全指揮を国王から任され、人生の大半を過ごし既に祖国として愛着のある『火の国』の繁栄へと繋がる今回の侵攻に燃えていた。
「フフッ、まさか戦争の総指揮を任される日が来ようとはな」
乱れなく進む四万もの大軍勢を眼前にして、武田が無精髭の生えた顎をさすりつつ高揚しながら呟くと、老騎士もそれに同意する様に大きく頷く。
「全くですなぁ。各国が均衡して久しいですから、軍を拡大し訓練を続けてはいましたが、儂もまさか実戦を経験出来る日が来ようとはは思っておりませんでした。年甲斐も無く胸が高まっております」
「ハッハッハッ、お前に年甲斐も無くと言われたら、お前がまだヒヨッコの頃から指導してきた俺はどうなる?」
「いやはや、これは失敬。ですが、大将軍は見た目も気持ちもまだまだ若いではありませんか。まだ身体が自在に動くうちにこの様な機会に恵まれて本当に羨ましい」
「それは否定しないがしかし、これで調停者がいなければ俺も前線で思いっきり腕を振るえたのだがな」
「調停者って、武田さんが勝てない程強いんすか?」
せっかくのチャンスに存分に暴れられない事を武田が悔やんでいると、その背後から軽薄な口調の声が掛けられる。
武田が目を背後に向けると、そこには馬に乗った六人の若者がいた。今期の勇者達である。
「この戦争、俺達は念のために同行って話っすけど、本当に戦っちゃダメなんすか? せっかく強くなったのに魔物以外にその力を使えないなんてあんまりっすよ」
今期の勇者のリーダーである槍を背負った青年の言葉に、武田は失笑する。
「調停者は第二期の勇者が多数いるこの世界最強の組織だ。そして奴等は、勇者がこの世界の住人を蹂躙する事を良しとしない。俺達が戦争に参加しちまえば、奴等は必ず出てくるし、そうなってはこの大軍勢をもってしても退却を余儀されかねん」
「ちっ、つまんねぇっすね。せっかくリアル無双が出来ると思ったんですけどね」
この世界を舐め切ったセリフではあるが、かつての自分を見ている様な新しい勇者のセリフに武田は苦笑する。そんな時、前を進む兵を掻き分け一人の兵士が慌てた様子で現れて、武田の脇に膝をついた。
「……大将軍……御報告します……」
「話せ」
定期報告にはまだ早い時間、武田の目には進軍は順調に見える。しかし、息を切らせながら報告しようとしている兵の姿に不穏なものを覚えた武田は、眉をひそめつつその報告に耳を傾ける。
「斥候部隊が火竜山山頂に約二百もの影を確認! ドラゴンだと思われます!」
「なにぃ!」
兵士の報告に目を剥いた武田は慌てて火竜山の方に目を向けるが、武田の目にはまだ火竜山は親指の先程にしか見えておらず、その山頂にあるという影までは確認出来ない。
「光彦、お前【千里眼】を持ってたよな。確認出来るか?」
武田の焦りとは裏腹に、光彦と呼ばれた勇者の一人である青年は『へ~い』とやる気の感じさせない返事をして火竜山へと目を向けた。
「ん~……おっ! アレかな? ……スゲェなおい」
「どうなんだ光彦!」
『へー」とか『ほー』と呟くばかりで一向に報告する素振りを見せない光彦に痺れを切らして、武田が苛立ちを隠さずに急かすと、光彦はやっと説明を始める。
「いっぱいいますね。特に真ん中にいる他のドラゴンの二倍近くある黒いドラゴンがヤバめっぽいです」
まるで他人事の様でその緊迫感の無さに苛立ちを覚えさせるような光彦の説明だったが、そんな事は気になど出来ずに武田はサーッと自分の血の気が引いていくのが分かった。
「まさか……超魔竜まで出てきてるのか?! 何故だ? 今まで火竜山の麓を通っても出てきた事なんてなかっただろ!」
「……はっ! まさか……軍を率いている事で敵対行動を行なっているととられたのではないでしょうか?」
老騎士の言葉に、武田は一層目を見開く。
「何だと?」
「今まで、これ程の大軍勢を率いて火竜山の麓を通った事はありません。ですから、超魔竜がこの軍を自分達を討伐する為の軍と勘違いしたのかもしれません」
「馬鹿なっ!」
絶句する武田とは対照的に、その背後にいた今期の勇者のリーダーは嬉々として背中の槍を引き抜く。
「ドラゴン戦すか? 人じゃなきゃあ戦っても良いんすよね。いやぁ~ドラゴンが相手なんて燃えるなぁ」
「馬鹿野郎! 超魔竜は調停者よりヤバいんだ! 戦うなんて選択肢、ありえねぇんだよ!」
ヤル気を見せ始める今期の勇者リーダーに、武田が一喝していると、その間もずっとドラゴン達の様子を窺っていた光彦が『あっ』と声を上げた。
「今度は何だ!」
「いや、黒いドラゴンが口を開けたんですけど……」
「口だと!」
「口の前にヤバ目の黒い球体が出来始めてるっす」
「まさか……超魔竜のブレスか? ……」
超魔竜のブレスの一撃で城塞都市が一つ綺麗に更地になったという、昔読んだ文献の一文が武田の脳裏を過ぎる。
「まずい……急いで軍を引かせろ! 超魔竜にこちらに敵意が無いことを示すんだ!」
武田の指示に老騎士はすぐさま伝令を飛ばすが、街道を進む為に伸びに伸びきった大軍勢にそう簡単に指示が行き渡るわけがなく、逆に突然の後退の命令に軍は混乱し始めた。
そんな錯乱し始めた軍勢先頭の脇に黒い炎がレーザーの様に上空から放たれた。超魔竜のブレスはそのまま軍列の脇を沿うように最後方にいる武田達の方へと迫ってくる。
それはさながら、黒く太い柱が死の熱風と爆音を撒き散らしながら斜めに滑って来る様に見え、武田はその光景を呆然と見つめているしかなかった。
地を溶かし、直撃しなくともその熱で次々と死者を出していく超魔竜のブレスは、そうしてついに武田達がいる最後尾まで至る。
「ぐぁっ!」
その高熱のこもった爆風を受け、他の者共々馬ごと吹き飛ばされても辛うじて死から免れた武田は、自身の身体に覆いかぶさって生き絶える自身が乗っていた馬を押し退けヨロヨロと立ち上がった。そして、呆然と辺りを見回し、唖然として力無く両膝をつく。
精強に見えた軍勢は見る影もなく、ブレスが通過した右手の方にいた兵士達はその殆どが倒れ動かなかない。左手にいてダメージが少なく動ける者も、恐怖に顔を引きつらせながら我先にと逃げ惑っていた。
「まさか……一発で壊滅だと……」
この軍をもってしても勝てる相手ではないと分かってはいたが、それでもたったの一撃で壊滅してしまう程の戦力差があるとは思っていなかった武田は、その信じられない光景に、茫然自失となりながら呟く。その背後では老騎士と六人の新人勇者達がヨロヨロと立ち上がり始めた。
「何だよ……これは……俺達は勇者だろ! 勇者が手も足も出ねぇ様な化け物がいてもいいのかよ!」
辺りの様子を見て、震えながらリーダー格の青年が叫ぶ。その背後では他の五人が身を寄せ合い恐怖に怯えながら震えていた。その姿には、この世界に来てこのかた、勇者という特別な肩書きに酔いしれ踏ん反り返っていた頃の面影は何処にも無い。
そんな勇者達に老騎士が近付く。
「覚えておけ若造ども、勇者とて所詮は人間。この世界には人間がどう頑張っても太刀打ち出来ん化け物がわんさかおるんじゃ」
「ふざけるなよ……そういう化け物を倒す為に勇者がいるんじゃないのかよ……」
老騎士の言葉に、リーダー格の青年は力無く反論する。
自分の無力さを痛感してなお、自分達は特別だとのたまう新人勇者たちに対し、老騎士はため息を一つ吐き、バッと手を伸ばして地獄と化した周りの景色を指差す。
「見てみろ若造、超魔竜は攻撃を当ててはおらん。これは、かの者からすれば威嚇でしかないのじゃ! 我々は威嚇の攻撃一発で壊滅したんじゃ!」
事実を突き付けられ、勇者達は力無く項垂れる。それは、この世界に老騎士よりも長くいる武田も同じだった。老騎士の言葉を聞いていた武田は、強者としての自信を完全に打ち砕かれてその場に力無く両手をつくのであった。
⇒⇒⇒⇒⇒
「ふむ、威嚇一発で瓦解するとは何とも脆い連中だな」
眼下に蟻のように逃げ惑う人間たちを見下ろし、ガウレッドはつまらなさそうに呟く。そんなガウレッドに、後方に控えていたドラゴンの長達の中から代表してレッドドラゴンの長が前に出た。
「超魔竜様、威嚇にしてはブレスの威力が強過ぎます。ですから、威嚇なら私達の中の誰かがしますと言ったではないですか」
レッドドラゴンの長の呆れたような進言に、ガウレッドは顔をしかめながら振り向く。
「強過ぎたか? 大分加減をしたつもりだったが、ブレスなど暫く吐いていなかったから感覚を忘れていたわ」
「もう少しご自身のお力をご自覚ください。超魔竜様のお力は加減を間違えれば国すらも滅ぼしかねないのですから」
「ふむ、つまらんな。ちいとばかり息を吐いただけであっさり解決してしまうとは」
本当につまらなそうに呟くガウレッドに、このままでは機嫌を損ねるのではないかと危惧したレッドドラゴンの長は慌てて口を開く。
「そう言えば、今回の事でエルフのお嬢さんと約束を交わしておいでではありませんでしたか?」
「おおっ! そうだった。約束は果たしたのだから博貴と思いっきり遊んでやらんとな」
約束を思い出し上機嫌になったガウレッドの様子に、レッドドラゴンの長をはじめとした他のドラゴン達は密かに胸を撫で下ろしていた。
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