理不尽な異世界への最弱勇者のチートな抵抗

神尾優

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第5章 『水の国』教官編

第146話 焦り……ティアちゃん、そりゃないよ

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   Side   健一

   『火の国』百層のフロアボス、ジャイアントヒューマン。 
   攻略スピード重視で必要最低限の雑魚しか倒してないから、僕とヒメ、桃花さんのレベルは七十台後半と、このボスを相手取るにはあまりにも心許ない数値だけど、それでもレベル百三十越えの窪さんとボスすらも雑魚扱いするティアちゃんがいるんだ、負けるはずは無い。みんなからはもう少しレベリングをしてからの方が良いんじゃないかと言われたけど、僕の意見を無理矢理通して今日、この最下層のボスと対峙している。
   いつもの通り、ティアちゃんがHPを削って、僕達が一当てすればあっさりと決着が着く。そう思ってたんだけど……

   シュッ!   ……ギンッ!

「ん、止められた……」

   今まで簡単に当てていたティアちゃんの矢が、ジャイアントヒューマンの、自身の身体を覆い隠すほど巨大な盾に止められる。
   ティアちゃんは特に慌てた様子は無いが、僕は大いに慌てた。

「ジャイアントヒューマンって、あんな盾持ってたっけ?」
「『風の国』のジャイアントヒューマンの装備は籠手と大きな斧だったわよね」

   桃花さんの返答が僕の記憶と同じで、僕は密かに舌打ちする。

「ダンジョンによって装備は違うのか……よりにもよって、ティアちゃんの攻撃が当たり辛い大楯なんて……」

   予想外の展開に奥歯を噛み締めていると、ジャイアントヒューマンは盾に身を隠しながらこちらに接近。右手に持つ剣を振り上げて僕らに振り下ろしてきた。

「回避だ!」

   僕の指示とともにみんなが四方に散らばり、それと同時に僕らがいた場所に爆音とともに土煙が上がった。
   身長六メートルのジャイアントヒューマンから見れば普通の剣なんだろうけど、僕らから見れば四メートルを超す巨大な鉄の棒。それが振り下ろされた威力は、レベル七十台が耐えられる様にはとても見えない。

「けんちゃん、出直した方が良いんじゃないかな」

   一緒に右手に逃げたヒメが、背中に冷たいものが走りまくっている僕に諭す様に言ってくるけど、僕は震える手を無理矢理押さえ込みながらかぶりを振る。

「いや、今日で決める!   みんな、僕が横に回って魔法で牽制するから、その隙に盾を掻い潜って攻撃して!」

   指示を飛ばし、返答を聞かずに走り出そうとすると、

「ん、それは愚策」

   ローブの襟首を掴まれて、後方に引き倒された。

「ティア……ちゃん?」

   尻餅をついて、呆然と僕を引き倒した相手であるティアちゃんを見上げる。彼女は口を尖らせながらフンスと鼻息荒く僕を見下ろしていた。

「後衛が前に出て囮はダメ」
「でも、そうでもしないとあの大楯の隙は突けないよ!」
「だから、その隙を突く為の囮を健一君がするのは愚策ってティアちゃんは言ってるのよ」
「そうよ、けんちゃん。私達はチームなんだから、適材適所ってものがあるでしょ」
「だけど……」

   寄って来た桃花さんとヒメにダメ出しされ、更に食い下がろうとすると、

「健一!   牽制なら一番頑丈な俺の役目ではないのか!」

   少し離れた場所でジャイアントヒューマンの足首に足止めのローキックを打ち込んでいた窪さんが、視線だけを僕に向けて叫ぶ。

「そんな!   危険な仕事を他の人に任せるわけには……」
「確かに、このチームのリーダーは健一。でも、リーダーが危険な仕事をするのは違う」
「ぐっ……」

   確かにティアちゃんの言っている事は正論だ。だけど、このくらいのピンチくらい平然と乗り越えられなければ、博貴には追いつけない。
   譲れない気持ちで立ち上がりながらティアちゃんを見つめると、彼女はプイッと僕に背を向ける。

「健一が自分の命を粗末にするのは健一の勝手。ティアは止めるつもりは無い。けど、本当に止めなくて健一が死んだら、ひろにぃが悲しむ」

   矢を一本抜き取りながら、抑揚の無い口調でティアちゃんは語る。この子は本当に他人に関心を持たないんだ。そんなティアちゃんが唯一執着心を持つ博貴……僕は早く君の隣に立てる強さを手に入れなきゃいけないんだ。

「ひろにぃは……」

   早く博貴に追いつきたくて握る拳に自然と力が入ってしまっていると、背を向けたティアちゃんが矢を弓につがえながら言葉を続ける。

「弱い時はよく、強そうな魔物に突っ込んで行こうとしてたティアを抱えて逃げてた。そんな時にひろにぃがいつも口ににしてた言葉。『命あっての物種』……今は勝てなくても、死ななければいつかは勝てる」

   顔は見えないけど、誇らしげに語る様子がティアちゃんのその背中から感じられる。
   ははっ、博貴らしいや……逃げながら勝ち誇った様にそう言ってる博貴の姿が目に浮かぶ。
   ティアちゃんの言葉が、博貴から直接言われた様に感じて、僕の拳と肩から力が抜けた。どうやら僕は気負い過ぎて周りが見えなくなっていたらしい。

「けんちゃん、肩の力が抜けたみたいね」
「今なら、私達の言葉にも耳を傾けてくれるかな」

   ヒメと桃花さんの言葉に、思わず自身を笑いたくなってくる。
   みんな、僕の意見を聞いてくれたわけじゃなくて、何を言っても無駄そうだから実戦で分からせてくれたのか……全く、人が悪いや。

「今後の方針は決まったか?」

   一人ジャイアントヒューマンを足止めしてくれてた窪さんが、ジャイアントヒューマンに押される様な形で合流してくる。ジャイアントヒューマンは窪さんを退け、盾を前面に構えて迎撃体勢に入っている。その、強固な要塞を思わせる姿に、僕は決心して頷いた。

「はい。ティアちゃんの攻撃が通り辛いと、こちらの被害が甚大になる可能性があります。ここはやはり一旦引いて、安全に攻略出来るレベルまで上げてから出直しましょう」
「うむ……」
「……その必要は無い」

   僕の提案に窪さんが満足気に頷こうとした矢先、その言葉をティアちゃんが遮る。

「ティアちゃん?」

   ヒメが困惑気味にティアちゃんに話し掛けると、彼女は矢をつがえていた弓をめいいっぱい引き絞った。

「こんな所で時間を掛けたら、ひろにぃに会うのが遅れる……ベンドアロー!」

   不機嫌に自分の都合を捲し立てた後で、ティアちゃんは矢を放つ。
   ティアちゃんの矢はジャイアントヒューマンを大きく外して飛んでいくと、盾を迂回する様に大きな弧を描きジャイアントヒューマンのこめかみへと吸い込まれていった。
   こめかみにティアちゃんの一撃をくらったジャイアントヒューマンは、その勢いで体勢を崩して爆音と振動を立てながら横に倒れこんだ。

「ん、さっさと攻撃する」

   倒れたジャイアントヒューマンを指差し、僕らに攻撃を急かすティアちゃんを見て、乾いた笑いが喉の奥底から込み上げてくる。
   ははっ……僕の目が覚めて、みんなとの絆が深まった気がしてたんだけどな……ティアちゃんには博貴と早く合理する事しか頭にないみたいだ……

   
   Side   博貴
   
   
「はい、どうぞ」

   『水の国』ログハウスの第一層。
   シルティリア王女に『どうかよろしくお願いいたします』と何度も頭を下げられながらアクアガーデンを出発して二日。『水の国』のログハウスへと到着した俺達は早速、様子見でダンジョンに入ってみたのだが……

「こりゃあ、時間が掛かりそうですね」
「なぁ~に、ヤル気さえあれば、スパルタでなんとでもなるさ」

   【手加減】を使って瀕死にしたスライムを四姉妹に差し出したのだが、みんなで肩を寄せ合いながらおっかなびっくり近付いて、今、次女の美希さんが剣の先端で突いてスライムを倒したところ。
   その様子に俺が渋面を作りながら額に手をやると、忍さんは陽気に笑う。

「忍さんのスパルタって……新たなトラウマを作らないでしょうね」
「失礼だな博貴君。これでも私は育成には定評があるんだぞ」
「本当ですかぁ~?」

   ーーポン。

   訝しむ俺の肩に背後から手が置かれる。
   アレ?   ……【気配察知】に反応は無かったよな……
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