転校生は朝ドラ女優!?

小暮悠斗

文字の大きさ
84 / 111
第三幕 新たな戦場――苦戦続きのバラエティー

ACT83

しおりを挟む
 菓子屋ファミリーシリーズ(CM)の最新作の撮影日。
 今回の撮影から新たに加わる新キャストの紹介が行われる。

「プレッツェル役のMIKAさんでーす」

 キャスト・スタッフの拍手に軽い会釈程度のお辞儀であいさつする。

「今回の撮影からプレッツェル役で参加させていただきます。ラビットガールズのMIKAです。宜しくお願いします」

 温かい拍手に混じって、乾いた殺気交じりの拍手がみんなの拍手のリズムを乱すように叩かれている。
 横目でその拍手の主を盗み見る。
 やっぱり真希だ。
 そんな露骨に感情をあらわにしたらダメでしょ。
 何でこんな感情的な真希が、今まで大きなスキャンダルなくこの世界でやってこられたのか不思議だ。

 キャストもスタッフも手慣れた様子でMIKAの紹介をこなしている。
 菓子屋ファミリーシリーズは、CMとしては異例と言える10年を超える人気CMシリーズだ。私や真希を始めとするシリーズ当初から参加しているキャストは入れ替えの激しいこの芸能界。今までに何度も新キャストを迎えてきた。それはスタッフも同じことだ。
 意外なほどにさらっとした紹介に、MIKAは引きつらせた笑みを覗かせる。
 今までの現場とは違う、誰もよいしょしてくれない雰囲気に気が付いたのだろう。
 不満が顔に滲み出ている。
 
 
 菓子屋シリーズの撮影はドラマ撮影並みに疲れる。
 なにしろ30秒という尺の中に必要な情報を詰め込んでいるのだから、ドラマよりも凝縮された撮影内容になる。
 たまにこちらがビックリするほど内容の薄いシリーズもあったりするけど、それは監督のお遊びで基本的には長丁場になるのが通例になっている。
 
 今回の撮影は通例通り、長丁場の撮影になりそうだ。
 何でそんなことが分かるかって?
 そんなものは用意されたお菓子の量を見れば分かる。
 チョコレート、クッキーにケーキと大量に――山積みにされている。
 大袈裟でなく山積みにされているのだ。
 子どもの頃に憧れるような――ヘンデルとグレーテルのお菓子の家が建てられそうな量が用意されている。
 私も子どもの頃は確かに憧れてたわ。4歳まではね。
 初めて菓子屋シリーズに参加した4歳の私は出されたお菓子を真面目に食べたがためにリバース。
 それからしばらくの間は、お菓子を目にしただけで胸やけがしたものだ。

 ちなみに撮影の時に食べているお菓子は全部食べない。
 太っちゃう。カロリーの過剰摂取になるからね。
 実はスタジオには大量のお菓子とともにバケツも用意されている。
 ポリバケツ、大きいヤツね。
 そのポリバケツに食べたお菓子を吐き出す。
 ちょっと勿体ない気もしなくもないけど、そうせざるを得ない。
 少しの罪悪感とともにお指しを吐き出す。
 
「ハイOK! 休憩入れまーす」

 助監督の声と同時に私はスタジオを離れる。
 菓子屋ファミリーのキャストは皆仲良しだけど(私と真希の関係は除く)、だからと言っていつも一緒って訳じゃない。
 世間のイメージは皆仲良し(間違ってはいない)だと思っている。実際にはサバサバした空気感だ。
 私はそんな空気感が好きではあるのだけれど。
 MIKAは、そんな現場の空気を知ってか知らずか、キャストに話しかけていた(出演が古い順に)。
 みんなも休憩中は、静かに自分の時間を過ごしたいだろうに。ご愁傷様《しゅうしょうさま》です。
 
「空気読めないのかしら」

 わざとらしく言う真希の声はスタジオに響いた。

「ちょっと」

 咎める私に、

「何でアンタがあの女に気を遣うのよ」

 自分は何も間違ったことは言っていないと言わんばかりの態度で答える。
 真希のその自信が少し羨ましい。

 スタジオを出る時、MIKAと視線が合った。
 顔は笑っているのに、その視線に射貫かれると背筋がゾクッとした。
 背中に突き刺さる視線から逃げるように、私はスタジオを後にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

煙草屋さんと小説家

男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。 商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。 ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。 そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。 小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。  

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件

月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ! 『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』 壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

処理中です...