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第一章
第七話・アレン六才になり、逞しくなる。
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アレンは六才になり、背丈も伸び、相変わらず細身ではあったが少しは肉付きもよくなった。
それと言うのも牧童達から、兎の罠の仕掛け方や薬草の見分け方を教えて貰い、牛番や羊番の合間に罠を仕掛け薬草を採取していた。
兎は自分達の食料に回し、薬草は城下街に行った時にこっそり売りチーズやパンに換えていた。
兎の罠は六才のアレンには難しいが、物覚えが良いので薬草や食べられるきのこ、野草等の知識は広がっていった。
今日もアレンは広い草原で羊達を放牧しながら近くの林に分け入って薬草を探していた。
あまり羊達から離れる訳にもいかず、でも目当ての薬草を手に入れたいジレンマを抱えて草叢を掻き分け木々を見て回ったがとうとう見つける事ができなかった。
「母さまの咳に良いって言うサイプレスは森の方に行かないと見つからないか・・・」アレンは最近ルイーズの咳がなかなか止まらないので何とかしようと、薬種店のキンケイド爺さんから教えて貰った針葉樹を探していたのだった。
ペーミントやローマリーで試したが少しの間は落ち着くのだが咳が出始めると朝方まで咳き込んでいる母親がとても心配だった。
アレンは諦めて草原の方に戻り口笛を吹いてドギー呼んだ。ドギーは牧畜犬でこれから一緒に羊達を集めて牧場の方に連れて帰るのだ。ところが呼ぶまでもなく羊達はアレンの回りに集まってきた。
「あっ、しまった今日は香り草を採取したんだっけ」
「あ~ん。だめだよう」羊達は勝手に鞄の中やポケットに顔を突っ込み食べ始めてしまう。
「もう、しかたないな~」結局、今日集めた薬草は全部食べられてしまった。
牧場で羊達を囲いの中に戻し柵を閉めているとアレンの後ろでドギーが吠えた。
振り向くとワイリー家の次男ハデスとその悪友のボイルが立っている。
ハデスはニヤニヤ笑うと「やい、私生児。おまえ最近薬草を採って金にしてるんだってな。あるだけ全部俺に寄越せよ。そうすりゃ親父とお袋には黙っててやるぜ」
「なんのこと?」アレンは服のポケットと、かばんを裏返して何にも持っていないのを見せる。
「どこに隠した。出さないと親父に言い付けるぞ」
「いいよ。告げ口したければするといい。でも、この通り何も持ってないよ」アレンは一歩も引かずハデスを睨み付けた。
「生意気な私生児め」ハデスは腕を振り上げアレンを殴ろうとした。
その途端「ウウゥ~」ドギーが唸った。
「ちっ。お前は俺ん家の犬だろう」なおもアレンに近寄ろうとすると、「グウウゥ」と歯を剥き出して唸りだした。
重心を低くし前足を一歩出した体形は今にも跳びかかりそうだ。
「やめろよハデス。犬に咬まれてもしらないぞ」ボイルは振り上げたハデスの腕を押えた。
「くそっ。ボイル、お前がアレンを調べろ」
「いやだよ。アレンは持ってないよ。見ればわかるだろ」ボイルはハデスの後ろから答える。
一年前に街で猫達に追いかけ回された挙句、未だにボイルが側を通ると猫たちは威嚇してくるのだ。
あの一件以来、ボイルはアレンに近ずくまいと思っていた。
ボイルは元々苛めるのがあまり好きではなかったが、初めて牧場でアレンを見た時にかわいい女の子だと思ってしまった。
それがハデスにばれて、散々からかわれる羽目になった。
そして、ハデスに弄られるのを嫌い、いつしか一緒になって苛める側に回ってしまったのだ。
それが丁度半年前、ボイルが一人学校の居残りで困っていた時に通り掛ったアレンに助けて貰ったのだ。
ハデスはとっくに帰り、薄暗い中教室にいたボイルは既に半べそをかいていた。
算術が苦手で何時まで経っても解くことができず、先生には出来るまで帰ってはいけません、と念押しされていた。
その日薬種店に寄ったアレンは近道して学校を抜けて行くことにした。
教室の窓の側を通った時、中から啜り泣きが聞こえてきたので覗くとボイルが机に座り啜り上げていた。
『触らぬ神に祟りなし・・・』アレンは通り過ぎようと思ったが薄暗い中たった一人で泣いているボイルの姿が自分と重なり、結局声をかけてしまった。
「どうしたの?」
びっくりして声のした方を見ると窓からアレンが覗いていた。
ボイルはしばし固まった。
「何か困ってるの?手伝おうか?」彼は更に声を掛けてきた。
(・・・なんで、なんで声を掛けて来る?俺をからかうつもりか)
「それ算術の宿題?僕、少しは分かるよ」彼はボイルの手元を覗きこんで言った。
「お前になんか分かるもんか、学校にも来てないくせに」八つ当たり気味に答える。
「母さまにちゃんと教えて貰ってるし、お金の計算だって出来るよ」頬を膨らませて答えた。
(うっ。か、かわいい。いや、かわいいって、なんだよ)
アレンはボイルを馬鹿にした様子もなく、静かに返答を待っている。しかし、ボイルは、泣いている自分を見られた事や、いままでのアレンへの苛めが枷になって素直になれないで固まっていた。
「じゃあ、ちゃんと計算できる証拠をみせるよ」アレンは笑い掛けると窓枠を乗り越えて教室に入ってきた。
そして、ボイルの宿題の紙とペンを取り宿題を解き始めた。
ボイルが我に返ったのは宿題が半分終わった頃だ。
「ま、待ってって、本当に算術分かるのか?」
「うん、ほら」アレンは宿題を見せてきたが合ってるのかどうかボイルには分からない。
「その、そのさ、・・・もしよかったらさ、俺に分かるように、その、教えてくれたりできるかな、や、や、嫌だったらいいんだ」最後は慌てて付け足した。
「いいよ」アレンは、事も無げに言うと、彼に丁寧に教え始めた。
アレンはボイル達より三つも年下だが、先生より分かりやすく、優しく教えてくれた。
ハデスのようにボイルを馬鹿にする事もなく。
その夜は学校に寄ったせいで迎えが遅くなり外門の時間に間に合いそうもなく、親子で焦って歩いているところに ボイルがやって来た。
なんと、ボイルの父は外門の衛士で今日の当番だった。
「ありがとう、助かったよ」
「いや、俺の方こそほんとうに助かったよ。ありがとな」
ボイルとその父親に見送られ、無事に外門の横の通用門(緊急門)から帰る事が出来た。
それ以来彼は、母の迎えに来るアレンを宿題を持って待っている事が多くなった。
二人はいつしか友達と言える関係になっていた。
もちろん、ハデスには内緒だ。
「ハデス、そんな事より面白いカードゲームが手に入ったんだ。あっちでやろうぜ。ほら」
ボイルが差し出したゲームに興味の惹かれたハデスはアレンに舌打ちした。
「覚えてろ。私生児」と、アレンから離れて行った。
そのカードゲームは見覚えのあるもので、アレンは2カ月も前にボイルに教えて貰ったものだ。
ボイルはハデスには内緒で時々アレンのいる放牧地にやって来るようになり、草原に座り宿題やお喋り、時には一緒に薬草探しも手伝だったりしていた。
2ヵ月前にも珍しいカードゲームが手に入ったと見せに来て既に二人で遊んでいた物だった。
実は今日もアレンと遊ぼうとやって来たボイルだが、運悪くハデスに捉まってしまったのだった。
それと言うのも牧童達から、兎の罠の仕掛け方や薬草の見分け方を教えて貰い、牛番や羊番の合間に罠を仕掛け薬草を採取していた。
兎は自分達の食料に回し、薬草は城下街に行った時にこっそり売りチーズやパンに換えていた。
兎の罠は六才のアレンには難しいが、物覚えが良いので薬草や食べられるきのこ、野草等の知識は広がっていった。
今日もアレンは広い草原で羊達を放牧しながら近くの林に分け入って薬草を探していた。
あまり羊達から離れる訳にもいかず、でも目当ての薬草を手に入れたいジレンマを抱えて草叢を掻き分け木々を見て回ったがとうとう見つける事ができなかった。
「母さまの咳に良いって言うサイプレスは森の方に行かないと見つからないか・・・」アレンは最近ルイーズの咳がなかなか止まらないので何とかしようと、薬種店のキンケイド爺さんから教えて貰った針葉樹を探していたのだった。
ペーミントやローマリーで試したが少しの間は落ち着くのだが咳が出始めると朝方まで咳き込んでいる母親がとても心配だった。
アレンは諦めて草原の方に戻り口笛を吹いてドギー呼んだ。ドギーは牧畜犬でこれから一緒に羊達を集めて牧場の方に連れて帰るのだ。ところが呼ぶまでもなく羊達はアレンの回りに集まってきた。
「あっ、しまった今日は香り草を採取したんだっけ」
「あ~ん。だめだよう」羊達は勝手に鞄の中やポケットに顔を突っ込み食べ始めてしまう。
「もう、しかたないな~」結局、今日集めた薬草は全部食べられてしまった。
牧場で羊達を囲いの中に戻し柵を閉めているとアレンの後ろでドギーが吠えた。
振り向くとワイリー家の次男ハデスとその悪友のボイルが立っている。
ハデスはニヤニヤ笑うと「やい、私生児。おまえ最近薬草を採って金にしてるんだってな。あるだけ全部俺に寄越せよ。そうすりゃ親父とお袋には黙っててやるぜ」
「なんのこと?」アレンは服のポケットと、かばんを裏返して何にも持っていないのを見せる。
「どこに隠した。出さないと親父に言い付けるぞ」
「いいよ。告げ口したければするといい。でも、この通り何も持ってないよ」アレンは一歩も引かずハデスを睨み付けた。
「生意気な私生児め」ハデスは腕を振り上げアレンを殴ろうとした。
その途端「ウウゥ~」ドギーが唸った。
「ちっ。お前は俺ん家の犬だろう」なおもアレンに近寄ろうとすると、「グウウゥ」と歯を剥き出して唸りだした。
重心を低くし前足を一歩出した体形は今にも跳びかかりそうだ。
「やめろよハデス。犬に咬まれてもしらないぞ」ボイルは振り上げたハデスの腕を押えた。
「くそっ。ボイル、お前がアレンを調べろ」
「いやだよ。アレンは持ってないよ。見ればわかるだろ」ボイルはハデスの後ろから答える。
一年前に街で猫達に追いかけ回された挙句、未だにボイルが側を通ると猫たちは威嚇してくるのだ。
あの一件以来、ボイルはアレンに近ずくまいと思っていた。
ボイルは元々苛めるのがあまり好きではなかったが、初めて牧場でアレンを見た時にかわいい女の子だと思ってしまった。
それがハデスにばれて、散々からかわれる羽目になった。
そして、ハデスに弄られるのを嫌い、いつしか一緒になって苛める側に回ってしまったのだ。
それが丁度半年前、ボイルが一人学校の居残りで困っていた時に通り掛ったアレンに助けて貰ったのだ。
ハデスはとっくに帰り、薄暗い中教室にいたボイルは既に半べそをかいていた。
算術が苦手で何時まで経っても解くことができず、先生には出来るまで帰ってはいけません、と念押しされていた。
その日薬種店に寄ったアレンは近道して学校を抜けて行くことにした。
教室の窓の側を通った時、中から啜り泣きが聞こえてきたので覗くとボイルが机に座り啜り上げていた。
『触らぬ神に祟りなし・・・』アレンは通り過ぎようと思ったが薄暗い中たった一人で泣いているボイルの姿が自分と重なり、結局声をかけてしまった。
「どうしたの?」
びっくりして声のした方を見ると窓からアレンが覗いていた。
ボイルはしばし固まった。
「何か困ってるの?手伝おうか?」彼は更に声を掛けてきた。
(・・・なんで、なんで声を掛けて来る?俺をからかうつもりか)
「それ算術の宿題?僕、少しは分かるよ」彼はボイルの手元を覗きこんで言った。
「お前になんか分かるもんか、学校にも来てないくせに」八つ当たり気味に答える。
「母さまにちゃんと教えて貰ってるし、お金の計算だって出来るよ」頬を膨らませて答えた。
(うっ。か、かわいい。いや、かわいいって、なんだよ)
アレンはボイルを馬鹿にした様子もなく、静かに返答を待っている。しかし、ボイルは、泣いている自分を見られた事や、いままでのアレンへの苛めが枷になって素直になれないで固まっていた。
「じゃあ、ちゃんと計算できる証拠をみせるよ」アレンは笑い掛けると窓枠を乗り越えて教室に入ってきた。
そして、ボイルの宿題の紙とペンを取り宿題を解き始めた。
ボイルが我に返ったのは宿題が半分終わった頃だ。
「ま、待ってって、本当に算術分かるのか?」
「うん、ほら」アレンは宿題を見せてきたが合ってるのかどうかボイルには分からない。
「その、そのさ、・・・もしよかったらさ、俺に分かるように、その、教えてくれたりできるかな、や、や、嫌だったらいいんだ」最後は慌てて付け足した。
「いいよ」アレンは、事も無げに言うと、彼に丁寧に教え始めた。
アレンはボイル達より三つも年下だが、先生より分かりやすく、優しく教えてくれた。
ハデスのようにボイルを馬鹿にする事もなく。
その夜は学校に寄ったせいで迎えが遅くなり外門の時間に間に合いそうもなく、親子で焦って歩いているところに ボイルがやって来た。
なんと、ボイルの父は外門の衛士で今日の当番だった。
「ありがとう、助かったよ」
「いや、俺の方こそほんとうに助かったよ。ありがとな」
ボイルとその父親に見送られ、無事に外門の横の通用門(緊急門)から帰る事が出来た。
それ以来彼は、母の迎えに来るアレンを宿題を持って待っている事が多くなった。
二人はいつしか友達と言える関係になっていた。
もちろん、ハデスには内緒だ。
「ハデス、そんな事より面白いカードゲームが手に入ったんだ。あっちでやろうぜ。ほら」
ボイルが差し出したゲームに興味の惹かれたハデスはアレンに舌打ちした。
「覚えてろ。私生児」と、アレンから離れて行った。
そのカードゲームは見覚えのあるもので、アレンは2カ月も前にボイルに教えて貰ったものだ。
ボイルはハデスには内緒で時々アレンのいる放牧地にやって来るようになり、草原に座り宿題やお喋り、時には一緒に薬草探しも手伝だったりしていた。
2ヵ月前にも珍しいカードゲームが手に入ったと見せに来て既に二人で遊んでいた物だった。
実は今日もアレンと遊ぼうとやって来たボイルだが、運悪くハデスに捉まってしまったのだった。
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