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第二章
第十五話・アレン、フォートランド城に向かう
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「直ぐに火を灯しますね。」アレンは数か所に火を点けて回った。
ろうそくに明かりが灯り、部屋の中が少し明るくなった。薄暗い部屋の隅にベットが有り、そこに誰か寝ているようだ。(フランクだろうか?様子がおかしいな。)
バルトが見つめているのに気が付いたアレンは彼らに座るように促すと、辛そうに切り出し「ここはフランク家なんです。二人で住んでて・・・フランクは明け方に亡くなりました。」と、打ち明けた。
(それで明かりも点けずにいたのか。)
突然ジョエルが明るい声で「暖炉に火も入っていない、と言う事は朝から何も口にしてないんだろ。」
「ごめんなさい。直ぐに火を入れて何かご用意します。」
「いや、君は座ってて俺がするから、炊事場勝手に使わせて貰うよ。」
「僕もお手伝いします。動いている方が何も考え無くて済むから。」
二人は仲良く並んで喋りながら食事の用意を始めた。
ジョエルを選んで正解だ、彼は優しくて、よく気が付き、人懐っこい性格で、小さい子供には打って付けだ。
(強面の俺だけではどうなっていたか、冷や汗ものだ。)
手早く整えられた暖かい兎のクリームシチューの良い匂いが立ち上り、三人でテーブルを囲み他にも市場で買ってきた白パンやチーズやハムが所狭しと並んでいる。
「さあ、冷めない内に、いただきますっ。」ジョエルが音頭を取って食べ始める。
「流石は俺、旨いなあ。俺ん家は食堂をしてるんだ。」
「そうなんですか?だから凄く上手なんですね。」お喋りしながら和やかに食事が進み、食事が終わる頃には子供がコックリと舟を漕ぎ始めた。
「疲れたようだな、先に休むといい。」俺が声を掛けると、子供は改めてこちらを見つめた。
「どうした?何か頼みごとかな?」できるだけ優しい声を出した。
「あの、・・できれば、フランクのお墓を作ってあげたいんです。ここから南の方に進んで街道を越えた先にフランクが母さまのお墓を作ってくれて。春になるときれいな花が一杯咲いて、・・でも一人じゃ運ぶ事も出来なくて・・・」
「大丈夫だよ、俺もバルトさんも力持ちだから、ちょちょいのちょい、であっと言う間さ。」
「あ、ありがとうございます。」そう言うと、子供は涙を流した。
(朝からずっと、気に病んでいたんだろう、可哀そうに。)
ジョエルは子供の頭を乱暴に掻き混ぜると、優しく涙を拭ってやった。
「さあ、子供は遠慮なんかしないで、疲れたろ早くベットに入りな。俺達は寝袋持ってるし、そこら辺でテキトーに寝るからさ。」ジョエルは立ち上がると、子供を手早く寝かしつけた。
その晩、二人でゆっくりアレンを説得しようと話が決まった。
翌朝、子供の案内で小高い丘の大木の根元にフランクの墓を造った。隣にはもう一つ墓標が立てられていた。
帰りの道すがら、ジョエルは前に子供を乗せながら「ねえ、お母さんは病気で死んだの?」と、さり気無く尋ねた。
「うん。僕は母さまが死んだのがつらくて川縁で泣き疲れて倒れてた所をフランクに助けられたんだよ。」
「よく、フランクは東の森から南の森に狩りに来てたのかい?」
「ううん、違うよ。ジョンが知らせてくれたんだ。」ワン!ジョン(犬)がすかさず返事した。
「知らせた?」
「うん。フランクも不思議がってた。夜中、外に出たがってて、様子が変で、外に出した途端南の森を目指して走りだしたんだって。」
「それで、アレンのとこまで案内したのか。偉いなワンコ。」ワン、ワン!
「その犬とお前は知り合いだったのか?」俺は不思議に思い振り返って尋ねた。
「違います。だから、フランクも不思議がってました。でも、きっと僕と母さまが狼に襲われていたのを感じて助けに行こうとしてくれたんだと思います。」
「狼に襲われて良く無事だったね。」ジョエルは目を丸くした。
「どうやって追い払ったんだ?」病気の母とたった六才の子供に狼達を追い払えるとはとても思えない。
「それが、よく覚えてないんです。薪の山を崩されて、僕も狼に押し倒されてて、母さまに狼が襲い掛ったのは覚えてるんですけど、・・・」
「他には?」
「母さまが言うには僕の叫び声に驚いて逃げて行ったって。」
「凄い絶叫だったんだね。アレンの声には気を付けないと。アハハハハ。」
(馬鹿な!笑いごとじゃない、たかが子供の声で狼が逃げ出す訳がないだろう。犬の反応の仕方といい、もしかすると、この子には魔力があるのかも知れない。やはり、今日中に城に連れて行こう。)
狩猟小屋に戻ると、少し早目の昼食を取りながらこれからの事を話し合った。
「これから益々寒くなって来る。子供がここで一人で暮らすには厳しいと思うぞ。」
「そんなこと、アレンにだって良く分かってるよ。ねっ。大事な人を亡くしたばかりなんだから、も少しゆっくり考えさせてあげてください。」
(何が、”ねっ”だ。どっちの味方だ、ジョエル。)俺はジョエルを睨みつけた。
「ねえ、アレン。実は俺達はフォートランド城から来たんだ。もし、良かったら俺達と一緒にお城に行かない?」ジョエルは突然切り出した。
「お城に?僕が?どうして?」
「いや、こちらにいる方は、あの有名な騎士バルト様なんだ。騎士様なら、アレンの一人ぐらい潜り込ませてくれるさ。」
(そう来たかっ!)俺はガックリした。丸投げにも程がある。
少し考え込んだアレンは俺の方を見ると「お願いします。」と頭を下げ、逆にこちらを驚かせた。
「ええー、アレン!そんなに簡単に決めていいの?」
(おいおい。いいと言ってるんだ。余計な事を言うな。)
「簡単じゃないよ。前からフランクにも言われてたんだ。去年、フランクが倒れて自分は長くないから、死んだあとどうするか考えて置けって。だから、城下街に戻って仕事を探そうかと思っていたんだよ。何人か知り合いも居るし。」
「知り合いの方はいいのか?」俺は確認した。
アレンは言いにくそうに喋りはじめた。「僕、僕は自分の父親が誰だか分からないんです。でも、僕が生まれる前に母さまがお城で働いていたと聞いて、もしかしたら僕の父さまはお城で働いている人なんじゃないかって思ってて。だから、・・・だから、お城で働けたら、父さまを探せるんじゃないかと考えてました。」
「あの、こんな考えで働いたらダメですか?」アレンの思いが切実だったので、俺も真剣に答える事に決めた。
「いや。伯爵様ならもしかして、アレンの父親を知っているかも知れない。」
「ほんとうですか?」
「ああ。その為には難しい試験のような物を受けないと駄目なんだ。但し、試験を受けて駄目だった場合は父親の事は分からない。つまり、受け損になるし、その場合はお城で働く事も出来なくなる。どうする?」
「いいです。それで父さまの事が分かるなら。」
「駄目な場合は父親が誰か分からないままなんだぞ?いいのか?」
「はい。僕の父さまはお城には居ない事が分かります。だからそれで大丈夫です。」
「でも、一つお願いがあります。」
「何だ?」
「ジョンも連れて行っていいですか?」
ワン!と、犬が返事した。
+++次回+++
第十六話・フォートランド城、召喚の間。アレン儀式を受ける(予定)
ろうそくに明かりが灯り、部屋の中が少し明るくなった。薄暗い部屋の隅にベットが有り、そこに誰か寝ているようだ。(フランクだろうか?様子がおかしいな。)
バルトが見つめているのに気が付いたアレンは彼らに座るように促すと、辛そうに切り出し「ここはフランク家なんです。二人で住んでて・・・フランクは明け方に亡くなりました。」と、打ち明けた。
(それで明かりも点けずにいたのか。)
突然ジョエルが明るい声で「暖炉に火も入っていない、と言う事は朝から何も口にしてないんだろ。」
「ごめんなさい。直ぐに火を入れて何かご用意します。」
「いや、君は座ってて俺がするから、炊事場勝手に使わせて貰うよ。」
「僕もお手伝いします。動いている方が何も考え無くて済むから。」
二人は仲良く並んで喋りながら食事の用意を始めた。
ジョエルを選んで正解だ、彼は優しくて、よく気が付き、人懐っこい性格で、小さい子供には打って付けだ。
(強面の俺だけではどうなっていたか、冷や汗ものだ。)
手早く整えられた暖かい兎のクリームシチューの良い匂いが立ち上り、三人でテーブルを囲み他にも市場で買ってきた白パンやチーズやハムが所狭しと並んでいる。
「さあ、冷めない内に、いただきますっ。」ジョエルが音頭を取って食べ始める。
「流石は俺、旨いなあ。俺ん家は食堂をしてるんだ。」
「そうなんですか?だから凄く上手なんですね。」お喋りしながら和やかに食事が進み、食事が終わる頃には子供がコックリと舟を漕ぎ始めた。
「疲れたようだな、先に休むといい。」俺が声を掛けると、子供は改めてこちらを見つめた。
「どうした?何か頼みごとかな?」できるだけ優しい声を出した。
「あの、・・できれば、フランクのお墓を作ってあげたいんです。ここから南の方に進んで街道を越えた先にフランクが母さまのお墓を作ってくれて。春になるときれいな花が一杯咲いて、・・でも一人じゃ運ぶ事も出来なくて・・・」
「大丈夫だよ、俺もバルトさんも力持ちだから、ちょちょいのちょい、であっと言う間さ。」
「あ、ありがとうございます。」そう言うと、子供は涙を流した。
(朝からずっと、気に病んでいたんだろう、可哀そうに。)
ジョエルは子供の頭を乱暴に掻き混ぜると、優しく涙を拭ってやった。
「さあ、子供は遠慮なんかしないで、疲れたろ早くベットに入りな。俺達は寝袋持ってるし、そこら辺でテキトーに寝るからさ。」ジョエルは立ち上がると、子供を手早く寝かしつけた。
その晩、二人でゆっくりアレンを説得しようと話が決まった。
翌朝、子供の案内で小高い丘の大木の根元にフランクの墓を造った。隣にはもう一つ墓標が立てられていた。
帰りの道すがら、ジョエルは前に子供を乗せながら「ねえ、お母さんは病気で死んだの?」と、さり気無く尋ねた。
「うん。僕は母さまが死んだのがつらくて川縁で泣き疲れて倒れてた所をフランクに助けられたんだよ。」
「よく、フランクは東の森から南の森に狩りに来てたのかい?」
「ううん、違うよ。ジョンが知らせてくれたんだ。」ワン!ジョン(犬)がすかさず返事した。
「知らせた?」
「うん。フランクも不思議がってた。夜中、外に出たがってて、様子が変で、外に出した途端南の森を目指して走りだしたんだって。」
「それで、アレンのとこまで案内したのか。偉いなワンコ。」ワン、ワン!
「その犬とお前は知り合いだったのか?」俺は不思議に思い振り返って尋ねた。
「違います。だから、フランクも不思議がってました。でも、きっと僕と母さまが狼に襲われていたのを感じて助けに行こうとしてくれたんだと思います。」
「狼に襲われて良く無事だったね。」ジョエルは目を丸くした。
「どうやって追い払ったんだ?」病気の母とたった六才の子供に狼達を追い払えるとはとても思えない。
「それが、よく覚えてないんです。薪の山を崩されて、僕も狼に押し倒されてて、母さまに狼が襲い掛ったのは覚えてるんですけど、・・・」
「他には?」
「母さまが言うには僕の叫び声に驚いて逃げて行ったって。」
「凄い絶叫だったんだね。アレンの声には気を付けないと。アハハハハ。」
(馬鹿な!笑いごとじゃない、たかが子供の声で狼が逃げ出す訳がないだろう。犬の反応の仕方といい、もしかすると、この子には魔力があるのかも知れない。やはり、今日中に城に連れて行こう。)
狩猟小屋に戻ると、少し早目の昼食を取りながらこれからの事を話し合った。
「これから益々寒くなって来る。子供がここで一人で暮らすには厳しいと思うぞ。」
「そんなこと、アレンにだって良く分かってるよ。ねっ。大事な人を亡くしたばかりなんだから、も少しゆっくり考えさせてあげてください。」
(何が、”ねっ”だ。どっちの味方だ、ジョエル。)俺はジョエルを睨みつけた。
「ねえ、アレン。実は俺達はフォートランド城から来たんだ。もし、良かったら俺達と一緒にお城に行かない?」ジョエルは突然切り出した。
「お城に?僕が?どうして?」
「いや、こちらにいる方は、あの有名な騎士バルト様なんだ。騎士様なら、アレンの一人ぐらい潜り込ませてくれるさ。」
(そう来たかっ!)俺はガックリした。丸投げにも程がある。
少し考え込んだアレンは俺の方を見ると「お願いします。」と頭を下げ、逆にこちらを驚かせた。
「ええー、アレン!そんなに簡単に決めていいの?」
(おいおい。いいと言ってるんだ。余計な事を言うな。)
「簡単じゃないよ。前からフランクにも言われてたんだ。去年、フランクが倒れて自分は長くないから、死んだあとどうするか考えて置けって。だから、城下街に戻って仕事を探そうかと思っていたんだよ。何人か知り合いも居るし。」
「知り合いの方はいいのか?」俺は確認した。
アレンは言いにくそうに喋りはじめた。「僕、僕は自分の父親が誰だか分からないんです。でも、僕が生まれる前に母さまがお城で働いていたと聞いて、もしかしたら僕の父さまはお城で働いている人なんじゃないかって思ってて。だから、・・・だから、お城で働けたら、父さまを探せるんじゃないかと考えてました。」
「あの、こんな考えで働いたらダメですか?」アレンの思いが切実だったので、俺も真剣に答える事に決めた。
「いや。伯爵様ならもしかして、アレンの父親を知っているかも知れない。」
「ほんとうですか?」
「ああ。その為には難しい試験のような物を受けないと駄目なんだ。但し、試験を受けて駄目だった場合は父親の事は分からない。つまり、受け損になるし、その場合はお城で働く事も出来なくなる。どうする?」
「いいです。それで父さまの事が分かるなら。」
「駄目な場合は父親が誰か分からないままなんだぞ?いいのか?」
「はい。僕の父さまはお城には居ない事が分かります。だからそれで大丈夫です。」
「でも、一つお願いがあります。」
「何だ?」
「ジョンも連れて行っていいですか?」
ワン!と、犬が返事した。
+++次回+++
第十六話・フォートランド城、召喚の間。アレン儀式を受ける(予定)
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