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バース性検査と、覚悟を決めた日
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この世界には、男女の性別の他に第二の性というものがある。絶対的なカリスマ性など、なにかしら特出したものを持つ地位の高いアルファ。分母が多く、平均的なベータ──そして、蠱惑的なフェロモンを出す、見目麗しいオメガ。
オメガには数ヶ月に一度ヒートという発情期が訪れ、誰もを誘惑するフェロモンを放出する。そのために性犯罪の被害に遭うことも多いらしい。ずっと昔には酷い差別をされ、選挙権すら与えられないなんてこともあったようだが、次第にマシになったのだとか。社会に参画するため、オメガたちが結束した運動の結実なのだ──なんてのを、社会の授業では学んだ。
13歳になるとバース性の検査を受けることになり、その頃から次第に特徴が露顕していく。オメガは非常に希少な存在であり、次いでアルファもなかなかいないらしく、俺──飯島 亮太を含むクラスメイトの大多数はやはりベータであった。
だが、しかし。俺の幼馴染──東雲 紡は、その希少なオメガであったのだ。
彼とは、幼稚園からの付き合いになる。今思えば、幼かったとはいえ──昔から、本当に同じ性別なのか何度も疑ってしまうほど中性的な子どもであった。
さらりとした透き通るような銀髪に、僅かに気だるさを孕んだ垂れ目がちな薄墨色の双眸。右目の下には泣きぼくろ。背は平均よりも少し低く、少し強い風が吹けば、その華奢な身体は倒れてしまうのではないかと思うほどに、なんとも儚げな雰囲気を纏っている。
『……ねえ、亮太』
バース性検査を受けた日の、放課後。いつもよりも口数が少ない紡に疑問を覚えつつも、特段指摘をせず。共に帰り道を歩いていたときだった。
不意に足を止めた紡が、重い口を開いて。覚悟を決めたように、伏せた視線を上げたのだった。
『もし……もし、僕が。オメガだったって言ったら……引く?』
大きな瞳から涙はこぼれていなくとも、僅かに潤んでいた。
オメガを取り巻く現状は昔よりはマシになり、自殺率もぐんと減ったとはいえ、差別意識は完全に無くなったわけではない。上の世代はもちろん、若者でもそういった意識を持っているものはいる。それは事実であった。いつかはわからずともこれから確実に起こるであろう体の変化、発情期への不安。オメガだと知られた場合に、周りから向けられる目。
それらへの憂慮が重なったのだろう。いつになく、激情を堪えるような。今にも泣き出しそうな顔だったから。揺れる瞳が、見ていられなくて。
『引くわけないだろ』
俺は、考えるよりも先に口を出していた。
『性別とか関係ないし……東雲が大事な友だちなのは変わんないよ』
言い切れば、面食らったように彼は目を見開いて──くしゃりと、整った顔を歪めた。
ベータの自分には、オメガの苦しみを完全には理解してあげることはできないだろう。だけど。なにがあろうと、俺は絶対に味方なのだと。それだけは、知っていて欲しくて。
大声をあげて泣く幼馴染に、ただ。決意を固めて、背を宥めるように撫でていた。
それから数年が経ち、俺たちは大学一年生になって。紡は、麗しさや纏った儚さはそのままに──襲ってきた奴をボコボコにできるほどに強くなっていた。
オメガには数ヶ月に一度ヒートという発情期が訪れ、誰もを誘惑するフェロモンを放出する。そのために性犯罪の被害に遭うことも多いらしい。ずっと昔には酷い差別をされ、選挙権すら与えられないなんてこともあったようだが、次第にマシになったのだとか。社会に参画するため、オメガたちが結束した運動の結実なのだ──なんてのを、社会の授業では学んだ。
13歳になるとバース性の検査を受けることになり、その頃から次第に特徴が露顕していく。オメガは非常に希少な存在であり、次いでアルファもなかなかいないらしく、俺──飯島 亮太を含むクラスメイトの大多数はやはりベータであった。
だが、しかし。俺の幼馴染──東雲 紡は、その希少なオメガであったのだ。
彼とは、幼稚園からの付き合いになる。今思えば、幼かったとはいえ──昔から、本当に同じ性別なのか何度も疑ってしまうほど中性的な子どもであった。
さらりとした透き通るような銀髪に、僅かに気だるさを孕んだ垂れ目がちな薄墨色の双眸。右目の下には泣きぼくろ。背は平均よりも少し低く、少し強い風が吹けば、その華奢な身体は倒れてしまうのではないかと思うほどに、なんとも儚げな雰囲気を纏っている。
『……ねえ、亮太』
バース性検査を受けた日の、放課後。いつもよりも口数が少ない紡に疑問を覚えつつも、特段指摘をせず。共に帰り道を歩いていたときだった。
不意に足を止めた紡が、重い口を開いて。覚悟を決めたように、伏せた視線を上げたのだった。
『もし……もし、僕が。オメガだったって言ったら……引く?』
大きな瞳から涙はこぼれていなくとも、僅かに潤んでいた。
オメガを取り巻く現状は昔よりはマシになり、自殺率もぐんと減ったとはいえ、差別意識は完全に無くなったわけではない。上の世代はもちろん、若者でもそういった意識を持っているものはいる。それは事実であった。いつかはわからずともこれから確実に起こるであろう体の変化、発情期への不安。オメガだと知られた場合に、周りから向けられる目。
それらへの憂慮が重なったのだろう。いつになく、激情を堪えるような。今にも泣き出しそうな顔だったから。揺れる瞳が、見ていられなくて。
『引くわけないだろ』
俺は、考えるよりも先に口を出していた。
『性別とか関係ないし……東雲が大事な友だちなのは変わんないよ』
言い切れば、面食らったように彼は目を見開いて──くしゃりと、整った顔を歪めた。
ベータの自分には、オメガの苦しみを完全には理解してあげることはできないだろう。だけど。なにがあろうと、俺は絶対に味方なのだと。それだけは、知っていて欲しくて。
大声をあげて泣く幼馴染に、ただ。決意を固めて、背を宥めるように撫でていた。
それから数年が経ち、俺たちは大学一年生になって。紡は、麗しさや纏った儚さはそのままに──襲ってきた奴をボコボコにできるほどに強くなっていた。
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