スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)

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プロタゴニスト①

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「ええっ!? あのオークをもう倒してきたんですかっ!?」

「え? は、はい……」

 ある日、ギルドの中。受付から聞こえてきたやり取りが、ふと耳に入る。ロイと顔を見合わせた。

「なんかあったのかな」

「かもしれないな」

 そっと耳を傾けてみる。



「だ、だって先程出ていかれたばかりですよね!? 普通は駆け出しの方ならもう少し苦戦をされるはずで……!」


「あー、はは……」

 彼は、気まずげに頬を掻いている。受付のお姉さんはなおも大きな声で驚き、衆目を集めていた。


「……おお……」


 すごい。あれこそ俺が来た当初に思い描いていた姿だ。

 見える。俺には何となく見えるぞ。彼がチート魔力だかスキルだかでこの先もどんどん無双していって、いつの間にかハーレムを作り上げている姿が。もしかしたら彼のような立ち位置に俺もなっていたのかもしれない。



「……どこかのラノベの主人公みたいだな……」


 いいなあ。

 そんなことを呟きながらぼんやり見つめていると、その人はこちらへ振り向いた。視線がばっちり合ってしまう。にっこり人の良い笑みを浮かべながら会釈され、慌てて返せば彼はこちらへと歩みを進めた。栗色の柔らかそうな髪がふわふわ揺れている。

「こんにちは」

「あ、こ、こんにちは!」

「……ああ」

「お兄さんたち、冒険者の方ですよね?」

「あ……はい。ええと、お話が聞こえちゃってて……駆け出しの方なんですか?」

「はい。今日ここで冒険者登録したばかりなんです」

「わ、今日!?」

 本当の本当に新人さんだ。……その成果は、俺よりも遥かにすごいけれど。

「……だから、依頼とか少し不安で。もし良ければ教えていただきたいのですが」

 迷子の子犬のような、垂れがちな瞳がこちらを見上げる。確かに、入ったばかりなら不安で胸がいっぱいだろう。微力でも、力になってあげたい。

「なるほど、それなら──」

「先程、仕事ぶりを随分褒められていただろう。問題ないように思えるが」

 言葉を遮ったのはロイだった。彼の表情を見れば、なんだかいつもより、鋭い目付きで。……警戒しているような、印象を受ける。

「ああ、あれは運が良かっただけですよ! 僕もわけがわからないまま、なにか……上手くいってしまったみたいで」

「ええ……すごお……」

 気の抜けた声が出る。運が良かったとはいえ、オークを倒すだなんて。



「……本当に、すごいなあ」



 呟く。ロイが、顔をほんの少し傾けて覗き込んできた。


「……気になるのか?」


「ん? ああ……ちょっとね。なんて言うかな、行く末が見てみたい、って言うのかな? ……どんな人なのか興味はあるよ」

 わくわくする気持ちを抑えられずに、僅かに弾む語調で言えば──ロイは、少しだけ考え込んで。

「……そうだな。昼食がまだならば、近くの店に行くか。そこで話をしよう」

「……! うん!」

「ありがとうございます!」


 ギルドを後にする。非凡な青年への好奇心とともに、俺たちは足を進めた。
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