スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)

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プロタゴニスト②

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「それで、聞きたいことは?」

「ええと……じゃあ、皆さん駆け出しのときはどんな依頼をするのか、知りたいです」

 優秀そうな子だからどんな質問が来るか身構えていたが、なんだ。それなら俺にも答えられる!
 少しだけ先輩風を吹かして、自信満々に口を開いた。

「採集とか、狩猟とか? 討伐なんて、なかなか最初は受けないよ!」

「ああ。多少慣れてきた頃から受けることが多いだろう」

「ああ、なるほど……そうだったんですね」

 だからあんな反応だったのか。それに、迅速に倒してしまっただなんて、期待の新人どころではない。

 飄々と言う彼に、戦隊ヒーローを見たときのようなトキメキを覚える。格好いい。

「じゃあ、こっちも少し聞いてもいいかな、ええと、名前は……」

「プロタ、といいます。ええ、もちろん。なんでもどうぞ」

 カップを片手に、プロタと名乗る青年はにこりと人好きのする笑みを作った。

「ありがとう。あ、俺は悠斗、こっちは相棒のロイ! それで……スキルとかって、どんなの?」

 前のめりになりながら問いかければ──くるり、とカップを弄び。そうですね、と考え込むような仕草を見せてから唇を開いた。

「『転移』、『魅了』……あとは……」

 少し考える素振りを見せてから。

「……うん、『鑑定』くらいですかね。最後のは平凡だけど。でも魔力は周りより少しはあると思います」

「……いやだいぶチート……」

 小声で呟いて、息を飲む。しかも、転移、と言ったか。魔石も無しで、テレポートができるということか。思わず、呆然とした。

「……すごいな……そんな何個もスキルがある人、見たことないよ。ね、」

「……ああ、そうだな。かなり稀だろう」

「……そう、ですか? すみません、僕世間知らずで……」

 恥ずかしそうにはにかんで、彼は言った。世間知らず。ちょっとだけ、親近感を覚える。冒険者としての腕は、似ても似つかないけれど。

「プロタくんはどうして冒険者に?」

 好奇心から問いかければ──彼は、視線を伏せた。長い睫毛が物憂げな雰囲気を醸し出していた。

「あ……答えづらかったら、無理に言う必要は無いからね!」

「ああ、いえ。僕、親が厳しくて、いわゆる……箱入り、ってやつでして。反対を押し切って飛び出してきちゃったんですけど……いろいろな経験が積めるのは、冒険者かな、と思ったんです」

 ああ、なるほど。親御さんとの確執があったのか。

 冒険者として華々しいスタートを切った彼は、きっとこれからチートを駆使して、果てしのない努力のうえ成り上がることだろう。あとはハーレムを築いたりして。俺は確信する。

 ただひとつ、言いたいことがあって──人懐っこそうな顔立ちを、真っ直ぐ見つめた。

「……これから冒険をしていくうちに、たくさんの人と出会うと思う。君に好意を寄せる子もいっぱい居るだろうし、好きな人もできるかもしれないけど……本当に好きじゃないなら、ちゃんと振ってあげることも優しさだよ」

「……えっ、なんで恋愛相談になってるんですか?」

「……そういう機会が増えそうだなーと思って」

「ええ……?」

「いやいや、ほら、プロタくんかっこいいし!」

 困惑したような顔に、慌てて弁明する。

「ねえロイ!?」

「……あ、ああ。まあ、顔立ちが整ってはいるとは、思うが……」

 ばっとそちらを向いて賛同を得ようとしたが──何を言っているんだこいつは、と顔に書いてあるような表情。もうだめだ。変なことを言った。チーレムものの知識なんて無ければこんなことには。

「かっ、かっこいいって……そんな、やめてくださいよ! そんなことないです!」

 顔を真っ赤にするプロタくん。褒められ慣れていないのか、初な反応がなんだか可愛らしかった。

「あとは、ええと……プロタくんは、なんとなく……今教えてくれたよりももっと強い力を持ってそうな気がするんだよね」

「……なんでですか?」

 目が丸くなる。
 そんなの、チーレムものの定石だから──とは言えず。平凡に生きたいから力を隠すけど、なんだかんだでバレちゃって困りました、なんてよくあるじゃないか。
 非凡に憧れる、自分の中の中学二年生が大声で叫ぶのを押さえつけた。

「勘だよ、ただの!」

 だけど。いくら、チートのような力を持っているとはいえ。
 馴れ馴れしいかもしれないが──彼の手を包むように握って、笑った。

「だけど……あんまり無茶はしないでね。いくら強くとも、自分の体は大切にして」

 すると。驚いたようにまた目を丸くしてから──プロタくんは、はい、と頷いた。にこ、と人の良さそうな笑みが浮かべられる。


「ありがとう、ございます。後もうひとつ、聞いてもいいですか?」


「もちろん! なんでも聞いてよ!」



「単刀直入に言います──ユウトさん。貴方、どうしてスキルや魔力が見れないんですか?」



「へ、」

 空気が、凍った。
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