11 / 12
2③
しおりを挟む
Side.M
舞踏会から帰ってきたお兄様はまるで恋する乙女のような表情をしていた。
……いいや、そのとおりなのだろう。きっと、お兄様はヴェル様に再び恋をした。舞踏会で何があったかは分からないけど、先生のレッスンで貴族の仮面を身に着けたお兄様を惚れさせるような何かがあったのだろう。
「……お兄様、舞踏会はどうでした?」
わかりきったような質問を投げかけてみる。
「うん、楽しかったよ……あのね、マーク……
王太子殿下って、素敵な方だね」
ズクン、と胸が痛む。とろけるような眼で、声で、仕草でヴェル様のことを話すお兄様をみているのがなんだか辛くて、急いで目をそらした。
この姿を僕よりさきにヴェル様は見たのかもしれない。そう思うだけでモヤモヤとした気持ちで胸がいっぱいになる。
「俺、あの方の婚約者になったんだ……すごく、幸せかも」
「ゃ……ッ」
やめて、という言葉が喉の先の方まで出てきて、ぐっと飲み込む。頭の中がぐちゃぐちゃとモヤモヤでいっぱいになる。そんな表情であの人のことを話さないで。僕を見て。僕のこと話して。
僕を、好きになって。
そこまで考えてハッとする。好きになってって、なんだろう。お兄様はきっと僕のことが好きだ。たくさん、家族の愛をもらってる。
でも、それって結局弟としてじゃないか、ともう一人の僕が言った。それでいい。それでいいのに、どこか物足りない。そんな感情に頭がぐるぐるする。その物足りなさをどうにかするために、がっつくように質問した。
「お兄様、僕のこと好き?」
「?うん、好きだよ。当たり前でしょ」
『当たり前』に映っていたのはやっぱり『弟として』で、結局物足りなさが加速するだけだった。
だったら、僕がお兄様に求めている好きってなんだろう。そう考えて思いついたのは、前のヴェル様が僕に言った『好き』だった。あと、お父様とお母様がお互いに思っている『好き』。きっと、僕の求めているのはそれに似てる気がした。
きっと、いや、絶対にお兄様が僕に抱いてる感情はそれとは程遠くて、お兄様がヴェル様に抱いてる感情はそれにずっと近いのだろうけど。
「お兄様、大好きです」
「うん、俺も大好きだよ。マーク」
世界で一番大好きです、お兄様。いつか僕だけのお兄様になってくださいね。これからずっとずっと頑張るから、僕のこと僕と同じ好きになってくださいね。
そんな気持ちを込めてお兄様の手を取ってキスをした。お兄様への初めてのキス。これが、最後にならないことを祈って。
舞踏会から帰ってきたお兄様はまるで恋する乙女のような表情をしていた。
……いいや、そのとおりなのだろう。きっと、お兄様はヴェル様に再び恋をした。舞踏会で何があったかは分からないけど、先生のレッスンで貴族の仮面を身に着けたお兄様を惚れさせるような何かがあったのだろう。
「……お兄様、舞踏会はどうでした?」
わかりきったような質問を投げかけてみる。
「うん、楽しかったよ……あのね、マーク……
王太子殿下って、素敵な方だね」
ズクン、と胸が痛む。とろけるような眼で、声で、仕草でヴェル様のことを話すお兄様をみているのがなんだか辛くて、急いで目をそらした。
この姿を僕よりさきにヴェル様は見たのかもしれない。そう思うだけでモヤモヤとした気持ちで胸がいっぱいになる。
「俺、あの方の婚約者になったんだ……すごく、幸せかも」
「ゃ……ッ」
やめて、という言葉が喉の先の方まで出てきて、ぐっと飲み込む。頭の中がぐちゃぐちゃとモヤモヤでいっぱいになる。そんな表情であの人のことを話さないで。僕を見て。僕のこと話して。
僕を、好きになって。
そこまで考えてハッとする。好きになってって、なんだろう。お兄様はきっと僕のことが好きだ。たくさん、家族の愛をもらってる。
でも、それって結局弟としてじゃないか、ともう一人の僕が言った。それでいい。それでいいのに、どこか物足りない。そんな感情に頭がぐるぐるする。その物足りなさをどうにかするために、がっつくように質問した。
「お兄様、僕のこと好き?」
「?うん、好きだよ。当たり前でしょ」
『当たり前』に映っていたのはやっぱり『弟として』で、結局物足りなさが加速するだけだった。
だったら、僕がお兄様に求めている好きってなんだろう。そう考えて思いついたのは、前のヴェル様が僕に言った『好き』だった。あと、お父様とお母様がお互いに思っている『好き』。きっと、僕の求めているのはそれに似てる気がした。
きっと、いや、絶対にお兄様が僕に抱いてる感情はそれとは程遠くて、お兄様がヴェル様に抱いてる感情はそれにずっと近いのだろうけど。
「お兄様、大好きです」
「うん、俺も大好きだよ。マーク」
世界で一番大好きです、お兄様。いつか僕だけのお兄様になってくださいね。これからずっとずっと頑張るから、僕のこと僕と同じ好きになってくださいね。
そんな気持ちを込めてお兄様の手を取ってキスをした。お兄様への初めてのキス。これが、最後にならないことを祈って。
905
あなたにおすすめの小説
お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?
麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。
『悪役令息』セシル・アクロイドは幼馴染と恋がしたい
佐倉海斗
BL
侯爵家の三男、セシル・アクロイドは『悪役令息』らしい。それを知ったのはセシルが10歳の時だった。父親同士の約束により婚約をすることになった友人、ルシアン・ハヴィランドの秘密と共に知ってしまったことだった。しかし、セシルは気にしなかった。『悪役令息』という存在がよくわからなかったからである。
セシルは、幼馴染で友人のルシアンがお気に入りだった。
だからこそ、ルシアンの語る秘密のことはあまり興味がなかった。
恋に恋をするようなお年頃のセシルは、ルシアンと恋がしたい。
「執着系幼馴染になった転生者の元脇役(ルシアン)」×「考えるのが苦手な悪役令息(セシル)」による健全な恋はBLゲームの世界を覆す。(……かもしれない)
第2王子は断罪役を放棄します!
木月月
BL
ある日前世の記憶が蘇った主人公。
前世で読んだ、悪役令嬢が主人公の、冤罪断罪からの巻き返し痛快ライフ漫画(アニメ化もされた)。
それの冒頭で主人公の悪役令嬢を断罪する第2王子、それが俺。内容はよくある設定で貴族の子供が通う学園の卒業式後のパーティーにて悪役令嬢を断罪して追放した第2王子と男爵令嬢は身勝手な行いで身分剥奪ののち追放、そのあとは物語に一切現れない、と言うキャラ。
記憶が蘇った今は、物語の主人公の令嬢をはじめ、自分の臣下や婚約者を選定するためのお茶会が始まる前日!5歳児万歳!まだ何も起こらない!フラグはバキバキに折りまくって折りまくって!なんなら5つ上の兄王子の臣下とかも!面倒いから!王弟として大公になるのはいい!だがしかし自由になる!
ここは剣と魔法となんならダンジョンもあって冒険者にもなれる!
スローライフもいい!なんでも選べる!だから俺は!物語の第2王子の役割を放棄します!
この話は小説家になろうにも投稿しています。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
【本編完結済】神子は二度、姿を現す
江多之折
BL
【本編は完結していますが、外伝執筆が楽しいので当面の間は連載中にします※不定期掲載】
ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。
死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが
神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。
戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。
王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。
※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。
描写はキスまでの全年齢BL
愛されることを諦めた途端に愛されるのは何のバグですか!
雨霧れいん
BL
期待をしていた”ボク”はもう壊れてしまっていたんだ。
共依存でだっていいじゃない、僕たちはいらないもの同士なんだから。愛されないどうしなんだから。
《キャラ紹介》
メウィル・ディアス
・アルトの婚約者であり、リィルの弟。公爵家の産まれで家族仲は最底辺。エルが好き
リィル・ディアス
・ディアス公爵家の跡取り。メウィルの兄で、剣や魔法など運動が大好き。過去にメウィルを誘ったことも
レイエル・ネジクト
・アルトの弟で第二王子。下にあと1人いて家族は嫌い、特に兄。メウィルが好き
アルト・ネジクト
・メウィルの婚約者で第一王子。次期国王と名高い男で今一番期待されている。
ーーーーー
閲覧ありがとうございます!
この物語には"性的なことをされた"という表現を含みますが、実際のシーンは書かないつもりです。ですが、そういう表現があることを把握しておいてください!
是非、コメント・ハート・お気に入り・エールなどをお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる