悪役令嬢はポジティブすぎて死亡フラグもクソもない!!

空蝉ノ十八番

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父親が戻ってくる。

その知らせを聞いたのは、サザンカが魔法習得を開始して暫く経ってからだった。
エヴァーソン家を留守にしていた公爵が遠方の視察から戻ってくるらしい。

「公爵様は本日お戻りになられます。…あの、サザンカ様」
「ん~聞こえてるよ~」

第二騎士訓練場。
館内施設ではマットの上で腹筋をするサザンカ。
それを困惑気味に眺める近衛騎士。

あれからサザンカはよくシャロン達の目を盗んで訓練場に向かうようになった。だが前回の二の舞にだけはなりたくないと反省して、どうしたら訓練場に潜入できるかを考えた。
そして思いついたのが騎士に直談判することだった。

"今から腹筋企画で勝負しようよ!!"

コミュ力だけはバケモノだったせいか、適当にその場にいた騎士の一人に声をかけた。
それで申し込んだのは例のクソキショ企画だった。

「俺はもう、やりたくないっす、、、」

結果的には圧勝だった。
向こうはゲロを吐いていたから、次からは何かあったらこの手でいこう!と考えは確信となった瞬間だった。因みに負けたこの彼はそれから忠実に訓練内容を教えてくれている。

「公爵が戻ってくるんだよね?うんうん!それが今日だと」
「そうっす。さっきからこれ話すの三回目っすよ?サザンカ様、腹筋しまくってて聞いてませんよね?」
「ナイル~私は一度聞いた内容は絶対に忘れない。言わばカメラアイならぬノイズイヤーなのだよ」

ナイル・アドベンチャー。
彼は第二近衛隊副団長だ。
まさかの声をかけた若者がそんなすんげえ役職の人間だったとは、、、知った時は驚いたが今では仲がいい。
オレンジ色の髪。
チャラそうな見た目しときながら訓練は真剣。
でも雑談は普通にノリに付き合ってくれるあたり、一番いい友達付き合いができる仲だと思った。

「フィリップ副団長が所属するのは第一部隊だから、第二部隊のここならいいと思った訳で?」
「ご名答☆」
「はぁ…これバレたら俺クビなんじゃ、、」

ナイルは顔を真っ青にさせていた。
そしてさっきからその原因はまるでオマエだとでもいいたげにコッチを見下ろしてくる。
失礼な奴だ。

「役職だけ聞けばお兄様と同等ぐらいの実力がある訳じゃん。ナイルをクビにしたらお兄様はアホでしかない」
「ちょ、声がデカイっす!もしも副団長に聞かれでもしたらどうするんすか!」
「大丈夫!今日は訓練場にお兄様はいない日!!」
「なんで分かるんすか…てかそろそろ戻らないとじゃないっすか?団長が戻るの午後でしたよね?」
「ん…あ、あと、、、百、、、回」
「ちょ、サザンカ様⁈ヘロヘロじゃないっすか!もう休んで下さいよ!!」
「ダメだ…今やらないと私の…私のアペタイザー筋肉が、、、」
「アペタイザー??」

ナイルが発狂するも腹筋はやめない。
そんなことしていたら段々と訓練を終えた騎士達が笑って集まってきた。
最初は悪役サザンカで印象が強かったようだが。
段々と訓練を通して話しまくっていたら会話が弾むようになった。
今では普通のテンションで話してくれるので凄い進歩だ。

マジで天才なんだよな~自分!

因みに庭師のおっちゃんとも仲良くなった。
「リンゴ食うか?」ってリンゴが好きなのをメイド達の話から盗み聞きして渡したら、なんか仲良くなって、今では花や木の手入れ方法などを教えて貰っている。

「サザンカ、ここにいたのね!!」
「あれ?お姉様?」

突然、訓練場にやって来たのはロエナ。
騎士達は驚いていたが、彼女の女神っぷりオーラに圧巻されていた。

「も~またこんなところにいて。騎士様達のご迷惑になるでしょう?」
「でも聞いてお姉様!ナイルの指導のお陰で筋肉がここまで育った」

筋肉を自慢したくて服をぺラりとめくれば縦に割れた腹を見せる。
だが悲鳴と共に直ぐに服を正されれば、周りの騎士達も顔を赤くしてそっぽを向いていた。

「もうサザンカったら!ダメじゃない!!お腹を見せるなんて!」
「え、でも筋肉自慢したかったし(笑)。カッコイイでしょ」
「それでも!さ、もう行くわよ。皆様もご機嫌よう」

腕をグイグイ引っ張られてその場から離される。
振り返ればナイルに手を振っておく。
向こうは未だに顔を赤くしていたが、手はしっかり振り返してくれたので良いとする。

「お父様が戻ってきたらお祝いしなくちゃね!お兄様のソードマスター進級祝いも含めて」
「ソードマスター進級祝い?」
「ええ!お兄様がソードマスターになったのは前回辺境の地で行った魔物討伐があってからなの。そこで多くの村人の命を救ったんですって」
「へ~」
「だからね、お父様が戻ってきたら公爵家でパーティーを開くって言ってたの」

ん?
ソードマスター祝いのパーティーだと??

それはみっちゃんが話す内容にもあったような、、、
待って…どんな内容だったっけ??

「あ、お兄様!」

公爵邸の前には両隣に成立した執事とメイド。
中央には迎えのために先に出ていたお兄様とお兄ちゃんの姿が見えた。

「ロエナか。何処にいたんだ?心配してたんだぞ」
「ごめんなさい。サザンカを騎士の訓練場まで迎えに行っていたら遅れてしまって、、、」

あ、まずい…お姉様、それを言ったら!!

「…なに?サザンカ、オマエまさか」
「ん~それよりもお父様はまだ帰ってこないんですね~!あ~早く帰ってこないかな~」
「………」

あかん!
お兄様の目が完全に笑ってない。
なんなら側に待機していたシャロンと目が合えば、向こうはもっと笑っていなかった。

「サザンカ、オマエは暫く外出禁止だ」
「そ、そんな!お兄様!!」
「そんな声で言ってもダメだ。全く……いつの間に訓練を受けに行っていたのだ」

呆れ口調のお兄様の視線から逃げるよう、コッチに近づいてきたタイミングでお兄ちゃんのとこに避難する。

「お兄ちゃん!私は今ひじょ~に命の危険を察知した!私を助けるのだ!!」
「は?オマエ何してんだよ。つか、訓練って…ホントに馬鹿だな」
「な、お兄ちゃんに言われたくない!!馬鹿と言う方が馬鹿なの」
「俺のどこが馬鹿だって?」

頼みの綱は役立たず!
お兄ちゃんと口喧嘩してれば、ロエナがクスクスと笑っていた。

「二人がこんなに仲良かったなんて(笑)。安心したわ」
「姉上…いえこれは、、」
「ふふ、隠さなくてもいいのよ。サザンカとへロイスが話すとこなんて、暫く見れてなかったし心配していたの。これで安心したわ。ね、お兄様?」

ロエナがフィリップに話しかければ、お兄様はジッと私達を見てくる。

「公爵様が戻られました」

シャロンの言葉に前を向けば、公爵を乗せた馬車が到着した。
中から出てきたのはお兄様そっくりの人だった。
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