マコト

りんごマン

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怪しい三人組と

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世の中には色んな人がいるんだなぁ。とっくにくたびれた足を運びながら、ふとそう思った。ミカちゃんやレナサちゃん達みたいに優しい人もいれば、ソウカくんみたいに乱暴な人もいる。ミカちゃんに抱っこされている時に気がついた。人間の目線ってこんなに高いんだ。ぼくはこんな人間たちに見下ろされながら生きているのか。でも、いつもハタチくんがぼくに向けてくる目は、誰も見下さないような純粋な目だった。ぼくは、ハタチくんにそんな目で見られるたびに、守られているような安心感を覚える。

ここをまっすぐ行けば、ユメマキ公園に着くはず。
ふと、目の前に三人の男子高校生らしき人たちが歩いてくるのが見えた。さっきの二人組の知り合いだろうか。
その三人のうちの一人が、ぼくの姿を見るや否や、

「あっ!ハタチのねこ!」

と叫んだ。残り二人もそれに続いて騒ぎ立てる。こういう人達は苦手だ。

「なんでこんなとこにいんだよこいつ!」

「話には聞いてたけど、変な色だな」

関わらない方がいい。初めて会うなり変な色なんて、失礼じゃないか。この人達は、さっきのねこよりかなり厄介そうだ。
真ん中の男がぼくに大股で近づいてくる。

「こんにちは、ハタチのねこさん」

そう言い終わるか言い終わらないかのうちに、素早い拳が飛んでくる。ぼくは身をひるがえしてそれをギリギリのところでよけて、そいつのお腹に体当たりしてやった。

「がはっ!いってぇ!」

バランスを崩して、そいつは後ろに倒れた。ぼくは容赦なく上に乗っかり、頰を思いっきり引っかいた。
ぼくは何もわるくない。先に仕掛けてきたのは向こうだ。それに、動物になら何でも言っていいとでも思っているのか。ひどい奴らだ。
痛そうにうめくそいつを無視して、ぼくは走った。後ろにいた二人は、呆然としてこちらを見ていた。

もうすぐだ。駐車場が見える。全身の力を振り絞る。早くハタチくんを助けたいのか、早くあの三人から離れたいのか、あるいはその両方なのか。さっきの男子高校生のこっちを見下すような目が、嫌でも頭に焼き付いてくる。必死にそれを振り払って、ハタチくんを助けることだけを考えていた。
ユメマキ公園が見えてきた。喜びと焦りが入り混じって高揚する。ぼくは走りながら、カルヤくんの姿を探した。
あそこだ。あそこにいる。一瞬ほっとしたが、早く行かなくちゃならない。
公園の入り口で足を止め、大きな声で鳴いた。
カルヤくんがこっちに気づいて駆け寄ってくる。

「遊びに来たのか?」

そうじゃない。そうじゃないんだ。カルヤくんが分かってくれなかったら、ぼく……!

「……ごめんな、マコト」

見上げると、カルヤくんは悲しそうな目をしていた。

「今は忙しいから相手になってやれないんだ。悪いな」

そんな。それじゃあ、カルヤくんに頼ることはできないのか。一体何のためにここまで来たんだ。
いや、そんな場合じゃない。ハタチくんの命が危ないんだ。ハタチくんの苦しそうな顔がまた蘇る。もう嫌だと思った、その時だった。

「もしかしたら、レナサがお前の話相手になってくれるかも知れない。あいつはついさっきこの道を通って行った。まだ近くを歩いてるかも知れない」

良かった。ぼくが何か大事な用事を持っていることを、カルヤくんは悟ってくれたんだ。まだチャンスはある。ぼくはにゃんと返事して、再び走り始めた。

カルヤくんがだめなら次はレナサちゃんだ。まだ希望を捨てちゃいけない。ハタチくんはまだ助かる。死んじゃったら、なんて考えちゃだめだ。間に合え、間に合え。

足がもつれそうになる。態勢を立て直すと同時に、ぼくは前を見た。数十メートルくらい前を、レナサちゃんは歩いていた。やっと見つけた。ぼくはさっきみたいに、大声で呼びかけた。人の気配が少なかったために、ぼくの鳴き声は思ったより響いた。レナサちゃんはおどろいてこちらを振り返る。

「マコト君?」

今度はぼくがレナサちゃんに駆け寄って、必死にアピールをした。何度も鳴き声をあげて、くるくる回ったり、飛び跳ねたりした。最後の大きな光が目の前にあるんだ。レナサちゃんなら、きっと分かってくれる。そう信じていた。

「……ごめんね、今はゆっくり話ができないわ」

ぼくは息を飲んだ。レナサちゃんまで忙しいなんて。もう頼れるのはレナサちゃんだけなのに。衝撃で意識が飛びそうになる。そんなぼくの横に、ポツリと一粒の雨が落ちてくる。あんなに晴れていた空が、いつのまにか曇り空に変わっていた。

「雨が降ってきたから、そろそろ帰るわ。おばあちゃんが病気になっちゃって、看病しないといけないの」

そうだったのか。レナサちゃんはおばあさんの病気を早く治してあげたいのだろう。ぼくが、ハタチくんを早く助けたいって思うのと同じように……。

「どうしてここまで来たのかは分からないけれど、ごめんね」

やめてよ。そんな顔で見られたら、何も言えないじゃないか。カルヤくんだってそうだ。二人とも、優しすぎる。優しすぎるからこそ、困ってしまう。ハタチくんのことを助けたいのに。それだけなのに。もしぼくが人間だったら、すぐにハタチくんのことを伝えられたのに。

そんなことを考えながらぼくは、足早に去って行くレナサちゃんの後ろ姿を、ただ呆然と見送ることしかできなかった。
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