マコト

りんごマン

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マコト

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公園で動けなくなった時にいつまでも聞こえていた雨音。それは、どこかで聞き覚えがあった。
ぼくを誘導して不安にさせるような、そんな音だ。

ぼくは、今度こそ助からないのかも知れない。でも不思議と怖くなかった。

目の前に、死んだはずの飼い主がいる。
飼い主はとても優しかった。小学生の息子の方はぼくを嫌っていたらしく、飼い主がいなくなってすぐに捨てられてしまった。
ぼくは、飼い主のことが今でも大好きだ。でも、今は飼い主と同じくらい大切な人がいる。その大切な人が、飼い主と同じように死んでしまったら、ぼくはどうなってしまうのだろうか。
目の前の飼い主は、こっちを見て静かに笑っている。もしここが天国なら、今すぐ飼い主に抱きしめて欲しい。ずっとここにいたい。でも、もしただの夢なら……。




ーーおまえは立派な子だ。マコト




飼い主の声が聞こえた。その瞬間、ぼくの視界は暗転した。

マコトという名前は、飼い主がつけた名前じゃない。なのに、飼い主はぼくのことを、マコトと呼んだのだ。きっと、ぼくはまだ生きなければならない。今見ていたのも、きっと夢なんだ。

だったら、もう誰も失いたくない。命を支えてくれた人の、命を支えたい。人間と比べてできることはちっぽけかも知れないけれど、守りたいという意志の強さは人間と変わらないはずなんだ。
だから……お願いします。




目の前はまだ暗いままだ。でも、かすかに声が聞こえる。

「ソウカ、やっぱり風邪引いたんじゃない?」

「うるせぇ。俺じゃなくてこいつの心配をしろよ」

「マコトがやけに急いでいたのはそういうことだったのか」

「疲れてるのと何か言いたいのが目に見えて分かった。まさかお前らが手に負えなかったとはな」

「ごめんなさい。そこまで気付いてあげられなくて」

「ハタチがこうなったのも、そのせいかもな」

「私達はずっと味方なのに……」

誰かが、ぼくとハタチくんの名前を呼んだ気がする。
まだ体が動かない状態で、ぼくは無意識にこれまでのことを振り返っていた。見知らぬねこに、怪しい三人組に、ミカちゃん。あの時は、気が遠くなるくらいに色んなことがあったように感じた。今思うと、短い時間だったのだ。それでもぼくは、この短い時間を二度と忘れない。だってこれが、ぼくの生きる理由だったんだから。



瞼の中に一筋の光が差し込んでくる。ぼくの身体を、温かい何かが包み込んでいる。まだ、ハタチくんが無事なのかも分からないままだ。何の覚悟もできずに、ぼくはもうすぐ目を覚ますだろう。

「ハタチ、大丈夫?」

「さっきからずっとこんな調子だな。マコトが目を覚ましてくれたらいいが」

声が、はっきりと聞こえた。



「マコト、もう起きて大丈夫よ」



目を開けると、レナサちゃんがぼくの方を見つめていた。



「あれ?マコト起きてたのか?」

「さっきちょっとだけ耳が動いたもの」

「おはよう、マコト!」


アイセちゃん、カルヤくん、ソウカくんも、次々と顔を覗き込む。みんな、悲しそうな顔はしていない。ぼくは目を丸くした。新鮮な空気を吸ったような気がした。



ぼくが一番聞きたかった声。それは、頭上から聞こえてきた。

「マコトくん!」

名前を呼ぶ声とともに、ハタチくんはぼくを力一杯抱きしめた。雨の中走り回っていた時とは、温度がまるで違う。いや、温度じゃ表せない何かがある気がする。

「ごめんね、ごめんね」

見上げると、ハタチくんは涙でぐしゃぐしゃだった。がむしゃらに、何度もぼくに向かって謝っている。ぼくだって、ハタチくんを助けるって決めたのに、諦めようとしたことを謝りたい。だけど、何より無事で良かった。



気がつくと、ハタチくんの友達が笑顔になっていた。レナサちゃんもカルヤくんもアイセちゃんもソウカくんも、みんな笑顔だった。



ハタチくんがいる。それだけで、ぼくはこんなにも幸せなんだ。
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