美術教師の檻――「描き終わるまで帰さない」画家の執着

紺碧のごんぎつね

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【第2章:密室での支配段階】(第5~10話)

第7話「上半身裸の視線」

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結局、透也は次の土曜日も、アトリエへ向かっていた。

柊からのメッセージに、ついに返信してしまったのだ。

『来週も、来てくれるよね』

その一文に、透也は「はい」と答えてしまった。 断れなかった。

「くそ...」

透也はアトリエへ向かう道すがら、何度も舌打ちをした。なぜ、自分はこんなに弱いんだ。

ドアをノックする。

「どうぞ」

柊の声。嬉しそうな響きがある。

ドアを開けると、柊が満面の笑みで迎えた。

「来てくれたんだね」 「...約束ですから」

透也の声は小さい。柊は気づいていないようだった。

「さあ、今日も頼むよ」

いつもの椅子。透也が座ろうとすると、柊が言った。

「先生...シャツを」

透也の動きが止まる。

「...また、ですか」 「ああ。前回の続きを描きたいんだ」

柊の声は穏やか。でも、その目には期待が満ちている。

透也は黙って、シャツのボタンを外し始めた。 もう、抵抗する気力もなかった。

一つ、また一つ。 柊が、その様子をじっと見ている。食い入るような視線。

シャツを脱ぐ。上半身が露わになる。 窓からの光が、透也の肌を照らした。

「...美しい」

柊の呟き。透也は顔を背けた。

椅子に座る。上半身裸のまま。 春の陽気だが、透也は寒さを感じた。心の寒さ。

柊がキャンバスの前に立つ。筆を持つ。 でも、やはり動かさない。 ただ、透也を見つめている。

今日の視線は、昨日よりもっと濃密だった。

透也の首筋から、ゆっくりと下へ。 鎖骨のライン。 胸の膨らみ。 男性の身体だが、柊はまるで、何か貴重なものを見るように。

視線が、透也の乳首に留まった。

透也の身体が、ビクリと震える。

「...」

見られている。じっと、見つめられている。 まるで、視線だけで触れられているような。

透也の乳首が、徐々に硬くなっていく。

「っ...」

透也が小さく声を漏らす。 見られているだけなのに。 触れられてもいないのに。 身体が、反応してしまっている。

柊の視線は、もう「観察」ではなかった。 「渇望」だ。 「欲望」だ。

まるで舌で舐めるように、視線が透也の肌を這う。 乳首から、ゆっくりと腹部へ。 透也の腹筋のラインをなぞるように。

そして、さらに下へ。 ズボンの境界線で止まる。

でも、その視線は明らかに、もっと下を見ようとしている。

透也は、思わず腰を引いた。 ズボンの中が、また窮屈になり始めている。

「柊さん...筆、動いてないです」

透也が小さく言った。声が震えている。

柊がハッとした。

「ああ...すまない」

筆を動かし始める。でも、数秒後には、また止まる。 そして、透也を見る。

透也の腹部へ。腰へ。 視線が、透也の身体を舐めるように動く。

「...っ」

透也は目を閉じた。見られるのが、耐えられない。 でも、目を閉じても、柊の視線は感じる。 肌を焼くような、熱い視線。

透也の乳首が完全に硬くなっている。見られているだけで。男性に。

時間が、異常に長く感じられた。 十分が、一時間のように。

透也の身体は、緊張で石のように固まっていた。でも、下半身だけは別の反応を示している。

「先生」

柊の声。透也が目を開ける。

柊が、筆を置いていた。

「っ...」

透也の心臓が跳ねる。また、近づいてくるのか。

「少し、休憩しよう」

柊が優しく言った。透也は安堵した。

「...はい」

立ち上がろうとする。でも、長時間同じ姿勢だったから、足がしびれている。

「っ...」

よろけた透也。 柊が素早く、透也の身体を支えた。

腕が、透也の腰に回る。

「危ない」

柊の声が、耳元で聞こえた。

透也は、柊の胸に押し付けられる形になった。 裸の上半身が、柊のシャツに触れている。

男性の体温。柊の心臓の音。胸板の硬さ。

透也の顔が、真っ赤になった。

そして、最悪なことに。 透也の硬くなった部分が、柊の太ももに触れてしまった。

「っ...!」

透也が慌てる。

柊の動きが止まる。 気づいた。 絶対に、気づいた。

「大丈夫です...離してください」

透也が柊を押す。でも、柊は離さない。

「まだ、足がしびれてるだろう」 「大丈夫です」

透也が強く言う。ようやく、柊が腕を離した。

透也は素早く距離を取った。両手でズボンの前を隠すように。

柊が、何か残念そうな表情をしている。でも、その目には、別の光もあった。

理解。そして、満足。

「...コーヒー、淹れるよ」

柊が簡易キッチンへ向かう。

透也は、急いでシャツを手に取った。 着ようとする。

「先生」

柊の声。透也の手が止まる。

「まだ、着ないで」 「...え?」 「休憩の後、また描くから」

柊が振り返った。その目が、透也を捉える。

「シャツを着たり脱いだり、面倒だろう」 「...」

透也は何も言えなかった。 確かに、その通りだ。 でも。 裸のままでいろ、ということか。

透也は、シャツを握りしめた。

「...わかりました」

シャツを、椅子の背に掛ける。

柊が、満足そうに微笑んだ。

コーヒーを持ってくる柊。透也はソファに座った。 柊も、隣に座る。

透也は腕で胸を隠すようにした。裸でいるのが、恥ずかしい。硬くなった乳首を見られたくない。

「隠さなくていいよ」

柊が言った。

「...でも」 「君の身体は、美しいんだから」

柊の手が、透也の腕に触れた。

「っ...」 「腕を下ろして」

柊が、ゆっくりと透也の腕を引く。

透也の上半身が、完全に露わになった。 硬くなった乳首が、柊の目に晒される。

「...やめてください」

透也が小さく言った。でも、柊は手を離さない。

「先生の身体...本当に綺麗だ」

柊の視線が、透也の胸を見つめている。

「特に...ここ」

柊の指先が、透也の鎖骨をなぞった。

「っ...!」

透也が飛び退く。コーヒーカップを落としそうになった。

「何を...!」

透也の声が上ずる。柊は、驚いたような顔をした。

「ごめん...つい」 「つい...じゃないです」

透也が立ち上がる。シャツを掴む。

「今日は、もう帰ります」 「待って」

柊が透也の腕を掴んだ。

「まだ、時間はあるだろう」 「離してください」

透也が腕を振り払おうとする。でも、柊の手は強い。

「先生...怒らないで」

柊の声が、少し切実になった。

「僕は...ただ」 「ただ、何ですか」

透也が柊を睨む。柊の目が、揺れた。

「...君が、美しすぎて」 「それは...関係ないでしょう」

透也が強く言う。柊の手が、ゆっくりと離れた。

「...そうだね。ごめん」

柊が一歩下がる。その表情は、どこか寂しそうだった。

透也は急いでシャツを着た。ボタンを留める手が震えている。

「もう...モデルは、やめさせてください」

透也が言った。柊の目が見開かれた。

「え...?」 「僕には...無理です」

透也が頭を下げて、ドアへ向かう。

「待って!」

柊の声が、背中に突き刺さる。でも、透也は振り返らなかった。

ドアを開けて、階段を駆け下りる。 後ろから、柊の声が聞こえた。

「先生...!」

でも、透也は走り続けた。

外に出て、ようやく立ち止まる。 全身が震えていた。

「もう...行かない」

透也は自分に言い聞かせた。

「絶対に、行かない」

今度こそ、本気だった。

家に帰って、シャワーを浴びる。 鎖骨を、何度も洗った。柊の指が触れた場所を。 でも、感触が消えない。

「くそ...くそっ...」

透也は壁を殴りそうになって、堪えた。

ベッドに倒れ込む。 携帯が震えた。 柊からのメッセージ。 でも、透也は見なかった。

「もう...関わらない」

透也は携帯を伏せて置いた。 これで、終わりだ。 透也は、そう信じたかった。

でも。 心の奥底では、分かっていた。 柊は、こんなことで諦めない。 あの執着的な視線。あの熱。 それは、透也を簡単には手放さない。

「...どうすればいいんだ」

透也は、答えのない問いを、天井に向かって呟いた。

夜は、長かった。 透也は、ほとんど眠れなかった。

柊の顔が、何度も浮かぶ。 あの目。あの手。あの声。 全てが、透也を縛り付けようとしている。

「怖い...」

透也は、布団にくるまった。 でも、寒さは消えなかった。 心の寒さは、どんなに布団を重ねても、消えなかった。

そして、もう一つ。 自分の身体の反応が、怖かった。 柊に見られて、触れられて。 興奮してしまう自分が。

「俺は...どうなってるんだ」

透也は、自分自身が分からなくなっていた。
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