美術教師の檻――「描き終わるまで帰さない」画家の執着

紺碧のごんぎつね

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【第2章:密室での支配段階】(第5~10話)

第8話「時間が過ぎても」

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それから一週間、透也は柊からの連絡を全て無視した。

電話も出ない。メッセージも読まない。

でも、着信とメッセージは増え続けた。 火曜日には30件。 水曜日には50件。 木曜日には80件。

「...異常だ」

透也は携帯を見つめた。

金曜日の夜。

『明日、2時に待ってます。来てくれますよね』

柊からのメッセージ。

透也は、長い間画面を見つめていた。

そして。

『...分かりました』

また、承諾してしまった。

「くそ...なんで俺は...」

透也は、自分に苛立った。

土曜日。

透也は、重い足取りでアトリエへ向かった。

「今日こそ、ちゃんと断ろう」 「時間が来たら、帰る」 「引き留められても、断る」

自分に言い聞かせる。

ドアをノックする。

「どうぞ」

柊の声。嬉しそうな響き。

中に入ると、柊が笑顔で迎えた。まるで、何事もなかったかのように。

「待ってたよ」 「...よろしくお願いします」

透也の声は、どこか覇気がなかった。

いつものように、椅子に座る。 シャツを脱ぐ。

もう、抵抗する気力もなかった。

柊が、透也を見つめる。 今日も、その視線は熱い。でも、どこか優しさも混じっている。

時間が過ぎていく。

柊の筆が動く。今日は、ちゃんと描いている。 透也は少し安心した。

「今日は、普通だな」

午後4時。約束の2時間が経った。

透也が立ち上がろうとする。

「柊さん、今日はこれで」 「もう少し」

柊が言った。透也は首を横に振った。

「いえ、今日は用事があるんです」

嘘だった。でも、断る理由が必要だった。

柊の表情が、曇った。

「...そうか」

透也は、急いでシャツを着た。

「それじゃあ」

ドアへ向かう。 ドアノブを回した。 開く。

透也は安堵した。今日は、鍵がかかっていない。

「先生」

柊の声。透也が振り返る。

「もう少しだけ、いてくれないか」

懇願するような声。

透也は迷った。

「...あと30分だけなら」

なぜ、また承諾してしまうんだ。

「ありがとう」

柊の嬉しそうな顔。

透也は、またシャツを脱いだ。

30分後。

午後4時半。

「柊さん...」 「もう少し」

また引き留められる。

午後5時。

「柊さん、本当に...」 「あと少しだけ」

午後6時。

時間が流れていく。 透也の疲労は、限界に達していた。

「もう...無理です」

午後7時。透也が立ち上がった。

「すみません、本当に帰ります」

柊が筆を置いた。

「そうか...もう少しだったのに」

残念そうな表情。

「でも、仕方ないね」

透也は、急いでシャツを着た。

「それじゃあ」

ドアへ向かう。

「先生」

柊の声。透也が振り返る。

「また...来週」

透也は、何も答えずにアトリエを出た。

外は、もう暗くなっていた。

五時間。

透也は、五時間もモデルをさせられた。

「これは...おかしい」

帰り道、透也の足は重かった。

「時間を守らない」 「引き留められて、断れない」 「もう...本当に行くのをやめよう」

でも、その決意が、どれほど脆いものか。 透也は、もう分かっていた。

家に着いて、ベッドに倒れ込む。 全身が痛い。

携帯を見る。

悠斗からメッセージが来ていた。

『先生、大丈夫ですか?兄が心配してました』

透也は返信しなかった。

柊からもメッセージ。

『今日はありがとう。また来週、待ってる』

透也は携帯を置いた。

「もう...限界だ」

でも、どうすればいい。 透也には、答えが見つからなかった。
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