美術教師の檻――「描き終わるまで帰さない」画家の執着

紺碧のごんぎつね

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【第3章:逃避・追跡・対面】(第11~20話)

第17話「校門での待ち伏せと決断」

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水曜日の朝、透也は学校に行った。睡眠時間はほぼゼロ。昨夜は柊のことだけを考えていた。

授業中、何度も意識が飛びそうになる。 「先生! 先生!」生徒の声でハッとする。 「...ああ、すまん」

生徒たちが心配そうに透也を見ている。

放課後、悠斗が透也のもとへ来た。

「先生...兄のこと、何か知ってますか?」

透也の身体が強張った。

「...何?」 「最近、様子がおかしいんです。ずっと誰かの名前を呼んでて。『先生』って」

透也の心臓が跳ねる。

「...そうか」 「何かあったんですか?」

悠斗が真剣に聞く。透也は何も言えなかった。

「...何でもない」

透也が視線を逸らす。

木曜日の朝——校門前で、柊が待っていた。

透也の心臓が止まった。

「...柊さん」

柊が振り向く。疲れた顔。でも、目だけが光っている。

「先生」

周囲の生徒たちが気づき始めている。ざわめき。 「久我先生、誰あれ」 「何か揉めてる?」

遠くで悠斗も気づいた。心配そうな表情。

柊が透也の腕を掴んだ。

「お願いです、話を」 「離してください」

透也が腕を引く。だが、柊が離さない。その手の温かさ。男の力。 透也の身体は、反応している。

「先生...」

涙を浮かべている。

「お願いです」

生徒たちがさらに集まってくる。透也の焦り。

だが——その焦りの中にも、高揚感がある。公衆の面前で、男に腕を掴まれている。その背徳性。その興奮。

「このままじゃ...」

学校中に知られる。透也が柊のモデルをしていたこと。そして——透也の気持ちも。

透也の決断は瞬時だった。

「...わかりました」 「近くの喫茶店で話しましょう」

柊の目が輝いた。手を離す。

「ありがとうございます」

透也が悠斗に目配せした。「大丈夫」という合図。だが、本当に大丈夫だろうか。透也自身も分からない。

二人で学校を離れる。生徒たちの視線が痛い。ヒソヒソ話が聞こえる。

透也はこっそり悠斗にメッセージを送った。

『今から駅前のカフェ・ドゥ・パリにいる。心配なら来てください』

駅前の喫茶店、奥の席に座る。コーヒーを注文する。

透也が深呼吸した。

「落ち着いて話そう」

柊が真剣に頷く。沈黙。だが、その沈黙は緊迫していた。

お互いの手がテーブルの上に置かれている。柊の手と透也の手。距離は10センチほど。

「先生...」

柊が小さく呟く。透也は柊を見ない。だが、その手が微かに動く。テーブルの上で。柊の手に近づく。すぐに引く。その繰り返し。

透也が口を開く。

「まず、言わせてください」

柊がじっと透也を見る。その目が官能的だ。

「柊さん、あなたのしていることは異常です」

柊の表情が歪む。

「異常...?」 「そうです」

透也が指を折りながら言う。

「一日に何十回も電話」 「メッセージを何百通も」 「後をつける」 「家のインターホンを鳴らし続ける」 「校門前で待ち伏せ」

「これは、ストーカー行為です」

透也の真剣な眼差し。男性として、教師として、論理的に指摘する。 だが、その論理的な言葉の下に——官能性が隠れていた。

柊の表情が苦しそうに歪んだ。

「でも...愛してるんです」

その言葉に、透也はハッとした。

「それは愛じゃありません」

透也がはっきりと言った。

「支配です。独占欲です」

その言葉の直後、テーブルの下で——柊の足が透也の足に触れた。

透也の呼吸が乱れた。

「っ...」

柊の足が透也の足を絡める。男性の足。大きさ。温かさ。

「先生」

柊の目が潤んでいる。

「僕の全てなんです」

テーブルの下で、二人の足が絡み合っている。その動きに合わせて、柊の手が再びテーブルの上で動く。透也の手に近づく。 すぐそこ。あと少しで触れる。その距離で止まる。

「だから、異常なんです」

透也の声が掠れている。

「人は、誰かの全てにはなれない。なってはいけない」

その言葉を言いながら、透也の足は——柊の足を押し返さない。むしろ、絡み付いている。

テーブルの下で、二人の足が絡み合っている。

柊の足が、透也のふくらはぎを撫でる。 ゆっくりと。上下に。

透也の呼吸が乱れる。

「っ...」

声を出さないように、唇を噛む。

だが、身体は正直だった。

柊の足が、透也の膝の内側に触れる。 そこから、さらに上へ。 太ももの内側。

「柊...さん...」

透也の声が震える。

テーブルの上では、何も起きていない。 二人は、ただコーヒーカップを手に持っている。

だが、テーブルの下では——

柊の足が、透也の股間に近づいている。

あと少しで、触れる。

透也の心臓が激しく鳴る。

(ダメだ...ここは、公共の場所だ...)

だが、身体は——その刺激を求めていた。

柊の足が、透也の股間に触れた。

「っ...!」

透也が小さく声を漏らす。

柊の目が、透也を見つめている。 その目には——確信がある。

(透也先生は...感じている)

その確信。

柊の足が、優しく圧力をかける。

透也の身体が、ビクッと震えた。

「先生...」

柊が小さく囁く。

「感じてますね」

透也が顔を背ける。

否定できない。 身体が、全てを語っている。

その時——ドアが開いた。

悠斗が息を切らして入ってきた。

「先生...! 兄さん...!」

テーブルの下で、二人の足が素早く離れた。

だが——透也の股間は、硬いままだった。
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