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第一章 これは恋じゃない
7話 好きな人
しおりを挟む今日は舞花先輩に呼ばれてお家に来た。お互い忙しいけど、数ヶ月に1回は会ってる仲良い先輩。ただ、先輩打ち上げにはいなかったから楽屋で会った以来で。緊張しながらインターホンを押す。
「いらっしゃい、若葉ちゃん」
「お邪魔します」
相変わらず綺麗な舞花先輩の家。高校の時からずっと憧れの先輩。私の入ってた演劇部の主演女優だった。
「いや~、でもびっくりした。若葉ちゃんが孝作たちのライブに関わってたなんて」
「私もびっくりです。まさか足立くんたちだったなんて」
同世代だからって、まさか本当に同級生だと思わなかった。
「私も言ってなかったもんね。若葉ちゃんとネットの話しないから」
「ですね」
先輩がテーブルに洋菓子の入った籠を置いて、紅茶を入れてくれる。私はいつもの椅子に座った。
「で、孝作から聞いたんだけどとわくんのこと好きなの?」
「えっ!……違いますよ」
目を輝かせて言う先輩は大の恋バナ好き。だから今日会うのも緊張してた。
「そっか~。若葉ちゃんととわくんが付き合ったら楽しそうだなって思ったんだけど」
「仮に好きだったとしても昔の話ですね」
仮に、の話。それに吉川くんは何とも思ってない、むしろ迷惑を被ったと思ってると思う。
「とわくんおすすめだよ。かっこいいし優しいし、天然なの可愛いし。今彼女いないって」
「とわさんのこと好きなんですか?」
あまりにも熱心だから質問すると、先輩は手を横に振る。
「私はこうさ……、あ」
「足立くんと付き合ってるんですか。てか何で言ってくれないんですか!」
全然知らなかった。私のはめっちゃ聞くくせに、舞花先輩自分の話はしてくれない。足立くんも彼女はいないと答えてたはずだけど、聞かれるのがめんどくさくてそう答えてたのかな?
「いや~、ちょっと恥ずかしくて。幼馴染だったし、若葉ちゃんも聞かなかったじゃない」
「そりゃ、私は恋バナ苦手な方なんで」
だから早く切り上げることに専念してたっていうか。舞花先輩には漠然と彼氏いるんだろうなと思ってたけど、それが知り合いとは思ってなかったし。
「そういえば追加公演決まったよね。また若葉ちゃん参加するの?」
「まぁ、人手不足には変わりないですから」
ここで無理とは言えない。いいなぁ、と心底羨ましそうにしてる舞花先輩に笑う。
「でも、ライブ正面から見るのも楽しいですよね」
「それはそう!てか若葉ちゃんと一緒に観たい!」
次あったらきっと観れますよ。私は今回で最後にするから。
「てか私より舞花先輩の話聞かせてくださいよ」
そう言うと照れながら、でも嬉しそうに話してくれる。こうやって表現できると相手は安心するんだろうな……。やっぱり、私には恋愛は向いてない。
「はっ、私の話ばっかりしちゃったね。孝作有名人だから、他の人と話せなくて。若葉ちゃんのも聞くよ」
「だからないですって」
恋とも呼べないようなものだったし。今は全然好きじゃないし。え~、と不満げな舞花先輩に苦笑する。舞花先輩の話聞くだけでいいんですって。
「若葉ちゃん、どんな人がタイプなの?」
「うーん、友達の延長線上……みたいな?あんまりベタベタしてないのがいいです」
彼女ムーブしてる私なんて想像がつかないし、想像もしたくない。
「ベタベタするのもいいもんだよ。でもまぁ、若葉ちゃん耐えられないか」
くすっといたずらっ子みたいな表情を浮かべる舞花先輩に首を傾げる。舞花先輩はテーブルに身を乗り出して、私の頬を突いた。
「だって、恋バナするだけで真っ赤になるんだもん。誰のこと想像した~?」
「へっ?」
私はバッと両手で顔を隠す。吉川くんにもわかりやすいって言われたけど、今までそんなことはなかったはず。というか、わかりにくいからフラれてたわけで。
「若葉ちゃんが誰を好きでも応援するよ。だから、好きな人いたら教えてね」
「……はい」
ふと、顔が浮かんだけどこれは恋じゃないから。苦笑いで舞花先輩に返事する。ああ、こんな風に考えてる自分が気持ち悪いなって耐えられなくて私は紅茶を一気飲みする。舞花先輩と話してると、ガチャッとドアが開いた。
「えっ、もう帰ってきた?ちょっと待ってて」
舞花先輩が驚いて、椅子から立ち上がる。足立くんだろうか。そうか、すでに一緒に住んでるんだ……。全然気づかなかった鈍感すぎる私に呆れる。だって、部屋が綺麗すぎて私の家と全然違うから……。
「あ!とわくんも居たんだ。上がって上がって。若葉ちゃんいるよ」
「ーっ!」
えっ?その名前に驚いて、私はテーブルの下に隠れる。
「若葉ちゃん、今ねとわくん居たんだけど荷物だけ取って帰っちゃ、あれ?」
「……何してんの?お前」
2人分の足音が聞こえて、リビングのドアが開く。舞花先輩の言葉にホッとしながら、冷たく降ってきた足立くんの声に「あはは……」と愛想笑いする。
「安心しろ、吉川お前のこと好きになんねーから」
「ちょっと孝作、」
足立くんの言葉がグサッと突き刺さる。そんなの意識してない、と言ったら嘘になるかもだけどそうだとも思ってなくて。
「私、お邪魔したら悪いんでもう帰りますね」
「え、若葉ちゃ……」
荷物とコートを持って、足早に舞花先輩の家を後にする。泣きたくないのに、目頭が熱くなって私は目を瞑った。大丈夫、これは恋じゃない。
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