照明スタッフの私が、絶対好きになってはいけない演者ーー初恋の人と再会してしまいました。

桜咲ちはる

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第一章 これは恋じゃない

17話 君に捧げる言葉

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「僕のこと好きだって、噂で胸が高鳴った」

 え……。とわさんの声が耳に届く。噂って、まさか……。

ーまだ幼かったあの頃 自分の気持ちに気づけずに 
 いつも逃げる君に 強く否定されて気づいた
 この想い もう遅いかな……
 でも諦めきれないんだー

 ただの歌。だけど自惚れてしまう。噂も、逃げるのも強く否定するのも……私かなって。
 
ー神様がくれた2度目のチャンス 顔を赤らめる君に鼓動が震えた
 知れば知るほど恋に落ちてく これが初恋なのかもって
 あの頃とは違う想い 絶対に手放せないよー

 泣きたくて、苦しくて、嬉しくて。今すぐとわさんの方に走り出したくなった。

「宮坂さんっ、危ないです!」

 前のめりになる私に、慌てて一緒にいた人が押さえてくれる。私だって本当は、本当は吉川くんと一緒にいたくて。

 ー好きって言えなくて 言いたくて 会いたいと願った
  忘れたフリしてた 気に留めないフリしてた
  心にぽっかり 空いた穴を 塞ぐ君の存在に
  はっきりと気づいたんだ 愛してるとー

 涙がとめどなく溢れてくる。わかってたんだ、私だって。吉川くんなら私の気持ちを疑わないって。吉川くんになら、私の本当の気持ちが伝わるって。だけど、本気の恋愛なんてしたことないから怖くて。必死に断る理由を探して逃げてきた。吉川くんはこんなにもまっすぐに気持ちを伝えてくれてるというのに。

 曲が終わって、Voystが戻ってくる。吉川くんが顔を上げた。私は仕事中だと言うのにハシゴを降りて、吉川くんを探す。演者が多くても、まだ舞台裏に残ってるはずで。

「吉川くんっ」

 私は吉川くんの名前を呼んで探した。後ろで出番を待っていた他のアーティストの皆さんが何事かと私を見る。私が吉川くんを好きなのがバレたらきっと、ううん絶対タダじゃおかないだろう。でもそれも気にできないくらい、私は吉川くんに会いたかった。

「宮坂さん」

 吉川くんがサングラスとマスクを取った顔で振り返る。私はほんの少しの理性で吉川くんの前で立ち止まった。

「吉川くんっ、今のっ、そのっ」
「うん」

 涙と息切れで上手く言葉が出ない。吉川くんが私の頭に手を置いた。周りの視線が気になるのに、それどころじゃなくて。私の視界には吉川くんの足しかなかった。

「ごめんね、この気持ちを利用して。でも、どうしても曲に残したかった」

 利用したなんて、そんなの思ってなくて。私はきっと涙でぐちゃぐちゃの顔で、吉川くんを見上げた。

「私の、ことだよね?」
「うん」

 吉川くんは否定しないから、安心して聞ける。そういうところもきっと、私が好きになった理由なんだ。

「ごめんなさい、今まで避けて」

 たくさん、たくさん謝りたい。けどそれ以上に、伝えたいこともある。

「でも私、本当はっ本当はっ……」

 なのに肝心な言葉が言えなくて、顔を押さえて呼吸を整えてると吉川くんが私の手を引っ張った。吉川くんの背中を見ながら、連れてかれるままに足を動かす。吉川くんが楽屋のドアを開けた。中に入って、吉川くんが私の腕を引き寄せ肩に両腕を乗せる。吉川くんの顔が近くて、鼻がぶつかりそう。私はふと我に返って、全身が熱くなった。

「ここなら言える?」

 吉川くんの吐息混じりの声が、鼻に触れる。

「聞かせて、宮坂さんの気持ち」

 もう、今更逃げられない。吉川くんを探したのは、私だ。

「本当は、私……吉川くんのことが……好き、です」

 好き、を言葉にするのは初めてだった。思春期の中学生みたいに上手く声が出なくて掠れる。まさか私が告白する日が来るなんて、思ってもなかった。

「うん」

 吉川くんが相槌を打って、受け止めてくれる。ああ、吉川くんじゃなきゃ私は言えなかったし……吉川くんじゃなきゃ私は好きにならなかった。

「もういいの?アーティストだけど、俺」

 ふふっと笑って、吉川くんが私に聞く。ずるい、そんなこと聞くなんて。私は首を横に振る。

「良くない」
「困ったね、どうしよっか」

 笑いながら言うその様子にさほど困ってないように感じて、反対に私はこれからのこととかバレたらクビになるとか色んなことが頭をよぎってると言うのに。

「バレなきゃ、大丈夫だよ」

 吉川くんが下から掬い上げるように、私にキスをした。もう何も考えられない。私は流れに身を任せて、吉川くんの服を掴んだ。吉川くんの肌の温度がじんわりと伝わる。重なる唇に、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。息が続かなくて、倒れそうになるのを吉川くんが支えてくれる。吉川くんの唇が離れた。未だに熱を持ってて恥ずかしいのに、寂しいと思ってしまう。私は欲張りみたいだ。

「若葉さん」

 吉川くんに名前を呼ばれてピクッと跳ねる。

「俺と付き合ってくれますか?」

 その言葉に頷いた。そこにもう迷いはない。例えそれが禁忌だとしても、私は吉川くんしか好きになれないし本当の気持ちを認めないときっと幸せにはなれないんだ。
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