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第一章 これは恋じゃない
18話 噂:永織視点
しおりを挟むもう一度キスしたくなるのを押さえて、宮坂さんを座らせる。宮坂さんは自分では気づいてないかもだけど、本当に顔に出る。耳まで真っ赤にする宮坂さんが可愛くて、俺は頭を撫でた。宮坂さんが恥ずかしそうに俯く。
「好きだよ」
ようやく、ようやく捕まえた。
俺が宮坂さんを意識したのは、高校の頃あの噂が流れてからだった。
「若葉って3組の吉川くんのことが好きらしいよ」
俺だって告白されたことがないわけじゃなかった。高校の時のバンドは人気だったし。最初は気に留めてなかったんだけど、宮坂さんが噂を否定しに俺の教室に来た時に初めて若葉って子が宮坂さんだと知った。1年の頃はそんな素振り見せなかったし、気づかなくて。
「私が吉川くんを好きだって噂、あれ嘘だから!迷惑かけてごめんなさい!」
顔を真っ赤にして否定する宮坂さんに嘘だと思った。でも俺が何か言う前に宮坂さんは去ってしまって、次の日には宮坂さんが同じクラスの男子と付き合ったことを知った。
「気づかなかったのかよ。ずっとお前のこと見てたよあいつ」
なんて後で足立に言われて、宮坂さんを見てたけど目が合うことはなかった。いつの間にか気づいたら目で追いかけるようになってて、宮坂さんが頑張り屋なこと、演劇部に情熱を持ってて何かあるたびに花が咲いたように笑顔で笑うとこ、不器用なこと、色んなところを知って胸が痛んだ。これが恋なんだと気づいた時には遅くて、宮坂さんは卒業までその彼氏と別れることがなくて諦めたんだ。
「宮坂若葉です。よろしくお願いします」
だから、再開した時柄にもなく運命だと思ったんだ。俺に全く気づかずに、仕事に集中しててそれを寂しく思った。宮坂さんにとっては過去のことなんだろうって、でももう1度俺のこと好きになってほしいと思ったんだ。
「吉川くん……?」
宮坂さんが心配そうに顔を上げる。俺は宮坂さんの隣に座った。
「宮坂さん、連絡先教えて」
「あ、はい……」
いちいち戸惑う宮坂さんが可愛くて、抱きしめた。「ひゃっ」と驚く宮坂さんを強く抱きしめて、耳に息を吹きかける。
「ちょ、吉川くんっ」
「ねぇ宮坂さん、」
宮坂さんの体から離れて、宮坂さんの手を掴む。手を握ると、宮坂さんの手の温かさが伝わってきて胸が熱くなる。
「もう逃がさないから、覚悟して」
何度も何度も逃げようとするけど、もう離さない。逃げないよ、と気まずそうに肩を竦める宮坂さんに俺は笑った。あの宮坂さんの瞳が俺を映してる。それがすごく幸せで、にやけが止まらない。
「あ、携帯控え室だ。ってか仕事戻らないと」
余韻に浸ってると、ハッと宮坂さんが我に返る。立ち上がった宮坂さんの手をそのまま掴んでると、困ったように眉を下げるから仕方なく手を離した。
「先にID教えて」
「う、うん」
俺の携帯を渡して宮坂さんに入力してもらう。抱きしめたいのを我慢して、俺は宮坂さんを見送った。ほっと俺は息を吐く。宮坂さんの前ではかっこつけてたけど、だいぶドキドキした。椅子の背もたれに背中を預け、伸びをしてるとガチャッとドアが開く。
「おいおいおい、とわ教えてくれよ~」
「とわくんにも春が来たんだね~」
にやにやしながら楽屋に入ってくる響たち。げ、と顔を歪めると後ろにいた足立と目が合った。まるで感謝しろよ、と言いたげな足立の表情に全部話したんだろうなと察しがついてため息を吐く。
「若葉お姉様って呼ばなきゃね」
「からかうならそっちの話も聞くからね」
きゅるんと大きな目を俺に向けて言うみゅうみゅうに言うと、Miyaがみゅうみゅうを引っ張る。
「ダメージ受けるの俺だから」
「えー、せっかくとわくんが話聞いてくれようとしてるのに~」
なんていつも通りのみゅうみゅうに、こういう奴だったわと頭を抱える。まぁ、Miyaが止めてくれるから大丈夫だろう。問題は足立だ。
「遅い」
「うるさいな」
隣に座って文句を言う足立に頬杖をつく。大体足立が宮坂さんを傷つけなきゃこんなに逃げ回ってなかっただろう。
「足立のせいでもあるんだからな」
「責任転嫁やめてくれる?」
冷めた目で俺を見た後、足立がぷはっと笑う。
「まぁおめでとさん」
足立の言葉に目を丸くする。足立がそんなことを言うなんて珍しくて、驚いた。それだけ心配もしてくれてたんだろうな。足立の肩をぽんと叩くと、煩わしそうに肩を払う。
「幸せなのは結構だけど、戻らねーと俺ら干されんじゃね?新人なのに他の人のパフォーマンス見ねーって」
「あ、そうだよ。とわくん呼びに来たの」
響が言って、みゅうみゅうが立ち上がる。Miyaと足立が俺の方を向いて、俺は笑った。仲間がいて夢が叶って、恋が実ってこんな幸せなことはないだろう。それに舞台裏には宮坂さんもいるだろうし。俺は立ち上がって、4人と一緒に舞台裏に戻った。
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