【完結】僕らのミステリー研究会

SATO SATO

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6.防災・安全教室

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 ついに全校集会で、防災・安全教室が開催される日がやって来てしまった。
 クラスごとに並んで、体操服に着替えた生徒たちがゾロゾロと校庭に出て並んで行く。
 今日は曇りだから、涼しくてよかった。五月といえど、夏真っ盛りの暑さになるときもある。そんな中での全校集会では、具合が悪くなってしまう生徒も多い。
 僕と博人は、全校生徒の前で先生たちと並んでいた。ランドセルまで背負って、登下校の格好をしている。そんな僕たちは、生徒たちから注目の的だった。
 生徒たちからの視線に、変な汗が出てくる。背負っているランドセルのせいで、背中も熱い。きっともう、汗でべちゃべちゃだよ。
 やがて、ゆみりさんのクラスが校庭に出て来て、列に並ぶのが見えた。
 ゆみりさんが、列の最後尾からこちらに手を振るのが見える。僕は全校生徒の前で手を振り返す度胸はなく、軽く頭を下げた。
 ゆみりさんの姿は、前の背の高い生徒に隠れてすぐに見えなくなってしまった。
 うちの学校は、背の低い順に並ぶことになっている。そんな背の高くないゆみりさんが、列の最後尾に並んでいるのが不思議だった。

 全校生徒が集まり、時間になったので校長先生が簡単な挨拶をして、僕の横に並んだ。
「では、今日は東警察署から生活安全課の若尾さんに来ていただいています。若尾さんからお話をしていただきましょう」
 司会担当の先生から声がかかり、列に並んでいた若尾さんがマイクを受取り一歩前に出た。
「みなさん、初めまして。東警察署で生活安全課に所属している若尾です。普段から、みなさんの安全のためにがんばっています。今日は、このような機会を作っていただき、感謝しています。
 今日はせっかくなので、三年生のお二人にも協力してもらって、実演してもらいます」
 若尾さんの紹介で、全生徒の視線がまた僕たちに集まる。緊張のピークだ。もう口の中もカラカラで、うまく声が出るか自信がなかった。
「では、ちょっと支度してきます」
 若尾さんはそう言って、校舎の茂みに移動した。そこで不審者の格好になる予定だ。
 大きく深呼吸をしながらふと横を見ると、そこには全身黒づくめでつば付きの帽子を目深に被った若尾さんがいた。
 着替えるの早っ!もう少し時間がかかるイメージだった。気持ちの準備が追いつかず、慌てた僕だったけど、その時に感じた違和感。
 岩尾さん、縮んだ?
 岩尾さんの身長が、低くなったと感じた。
 そして、帽子とマスクから見えている目が、切れ長の吊り目だった。
 手に持っているはずの、ダンボールとアルミホイルで作った偽物の刃物は、硬い金属の光を反射していた。
『私以外の人物が近寄って来たら、それは本物の不審者だからね。ははは!』
 そんな岩尾さんの言葉が蘇る。
 僕がその人物に気付いて、ほんの短い時間の中。僕の中で、色々な情報が飛び交った。
 あれ。この人、岩尾さんじゃ、ない?
「そいつは本物の不審者だよ!」
 ゆみりさんの叫び声がした。それによって、ようやく僕は体が動いた。
 博人の腕をつかみ、その人物を指差す。
 そいつは、ゆっくりと僕たちの方に近づいて来ていた。
 他の生徒たちは、まだ異変に気付いていないようだった。パニックになったら、きっと大変なことになってしまう。
 そのとき、けたたましい防犯ブザーの音が鳴り響いた。博人だった。
 加えて、ランドセルにつけている笛をこれでもかと吹き鳴らす。
 生徒たちが耳を押さえてざわつく中、そいつも一瞬怯んだように見えた。
 博人に続いて、僕は大きく息を吸って、叫んだ。
「誰か助けてー!!」
 生徒たちは、実演が始まったと思っているはずだった。でも、少なくとも若尾さんと校長先生だったら、段取りとは違う僕たちの行動で、異変に気付いてくれるはずだった。
 そいつは動きを止めた後、僕を睨みつけた。そして次の瞬間。刃物を振り上げ、僕に向かって来た。
 恐怖で体が凍りつくって、こういうことなんだ。
 僕は硬直した自分の体に、そう思った。
 ・・・終わった。これ、詰んだわ。
 そう諦めたとき、僕の視界が大きな背中に阻まれた。
 何も見えなくなった中で、つんざくような男の叫び声が聞こえた。
 目の前に立ち塞がってくれたのは、そばにいた校長先生だった。そのすぐ足元で、そいつがうめき声を上げながらうずくまっている。
 すかさず、数人の大人がそいつから刃物を引きはがし、取り囲んでいた。彼らは『関係者』と札を首にかけて、僕たちと一緒に並んでいた人たちだった。
 一瞬の出来事のその洗練された動きに、僕は彼らも警察の人達なんだと確信した。
 そこに岩尾さんが無線を手に、走って来た。
「生徒たちを教室へお願いします!」
 呆気に取られている先生たちだったけど、指示された後の動きは早かった。何事もなかったように、生徒たちを教室へ誘導して行く。
「うわー。なんか迫力あったねー」
「ホント、本物みたいだった!」
 口々にそんなことを言いながら教室に戻って行く。
 いや、本物だったからね。
 生徒たちが全員教室に戻るのを見届けて、ようやく校長先生が僕たちに顔を向けた。
「大丈夫かな?怖い思いをさせて、本当に申し訳なかったね」
 僕は力が抜けて、その場にへたり込んだ。
「だ、大丈夫、です」
「大丈夫じゃねぇよ。こんなときは無理しなくていいんだよ。もうこれ、トラウマになるレベルじゃん!」
 博人が僕を立たせてくれる。
 いろいろと指示を出し終わった若尾さんが、僕たちの元に来て深々と頭を下げた。
「本当に申し訳ない!」
「いや、若尾さんが悪いわけじゃ・・・」
 僕はそう言いながら、数人の大人によって連れて行かれる男を見ていた。その先にはパトカーが停められている。
「あの。防災・安全教室は、いつもこんなに警察の人が来るんですか?」
 僕は若尾さんに問いかけた。
 ざっと見たところ、今慌ただしく走り回っているのは、私服だけど警察の人だと思う。だけど、通報を受けて来るにしては早すぎるから。
「あ、うん。まぁ。今詳しくは話せないんだけど、君たちにはちゃんと説明するから」
「あの人、なんであんなに苦しんでるんですか?」
 博人の説明に、校長先生は僕たちに右手に持っていたものを見せた。それは、よく見かける一味唐辛子の瓶だった。
「私は辛党でね、いつもマイ唐辛子を持ち歩いているんだ。とっさに、あの人の顔にぶちまけてしまったよ」
 それは、すごく大変そうだ。でも、先にひどいことをしてこようとしたのはあの人の方だ。いい気味だと思った。
「こ、校長先生、ありがとうございます。先生がいなかったらどうなっていたか・・・」
 震える体を自分で抱きしめながら、僕はなんとかお礼を言った。
 博人がしっかりと僕の腕を掴んでくれていて、とても頼もしかった。
「君たち二人のお陰で、パニックにもならずに犯人を確保することができたよ。本当にありがとう。練習以上の出来だったよ」
 若尾さんが、ぽんぽんと優しく僕たちの頭を叩いた。
「あの練習がなかったら、何も出来なかったと思います。本当に、いざって時に体って動かないんですね」
 冷静そうに見えていた博人が、そう言った。僕は大きく何度も頷く。
「ホント、ゆみりさんの声かけがなかったら、何も出来ないまま終わってたかも」
 感じた違和感は、ゆみりさんのお陰で確信に変わった。違和感のまま、襲われるまで何が起こったか気づけなかったかもしれない。
 若尾さんが、首を傾けた。
「ゆみりさんって?」
 僕はちょっと呆気に取られた。もう忘れちゃったの?!
「練習の時に、一緒にいた女子です。四年生の浜城ゆみりです」
 若尾さんは困ったように頭をかいた。
「ええっと。図書室で練習したときだよね?私は、君たち二人にしか会ってないんだけど」
「若尾さん、冗談でしょ。いたでしょう?ゆみりさん」
 博人も苦笑いを浮かべながら、そう言った。
 こんな状況でそんな冗談、きついよね。
 若尾さんは、困った表情で校長先生と顔を見合わせる。
「そうだ。校長先生なら分かりますね!あの時、校長先生の横にいたじゃないですか!」
 校長先生は、困ったような笑みを浮かべていた。
「君たちには、カウンセリングが必要になるので、この後スクールカウンセラーの小牧(こまき)先生とお話をしてもらうよ。小牧先生、お願いできるかな?」
 小牧先生は二十代の女性で、かわいらしい外見と性格から、生徒にも人気の先生だった。
 校長先生の声かけに、小牧先生は僕たちのところに来て、小牧先生が常駐している教育相談室へと促された。
 だけど、僕にははっきりさせたいことがある。行くことに抵抗していた僕だったけど、小牧先生は他の先生にも力を借りて、僕たちをほぼ強制的に教育相談室へと連れて行ってしまった。
 
 


 



 
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