【完結】僕らのミステリー研究会

SATO SATO

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10.校長先生のお話です

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 僕たちは職員室を通り抜けながら、校長先生の部屋までたどり着いた。ゆみりさんもいたけど、きっと僕たち以外には見えていない。
 職員室の先生たちは相変わらず忙しそうだったけど、僕たちのことは事前に伝わっていたらしく、すんなりと案内してもらえた。
 僕と博人は、お互いに顔を見合わせて頷く。
 僕は大きく息を吸って、校長室のドアをノックした。
「どうぞ」
「失礼します」
 部屋に入ると、校長先生が執務机から立ち上がったところだった。
 そして、ドアのそばのソファーに座るように、僕たちを促した。
 僕と博人と向かい合って、校長先生もソファーに腰を下ろした。その横にゆみりさんも座る。その姿を目で追う校長先生に、校長先生にもゆみりさんが見えているのだと確信した。
「今回は、大変な思いをさせて本当にすまなかったね。だけど、君たちが協力してくれたおかげで、被害を最小限に止めることができたんだよ。改めてお礼を言います。ありがとう」
 校長先生は深々と頭を下げた。
「あ、いや。でも僕たち大したことは何も・・・」
「いや、あの男は、あの場で無差別に多くの命を奪おうとしていた。これまでに類を見ないほどの犠牲者を出す事件になるところだったんだよ」
 校長先生の言葉に、僕はいまいち実感が湧かなかった。そうなる可能性があったと言う意味で言っているのだと思った。
「そうだね。いまいちピンと来ないよね。ここ双葉小学校という場所は、少し不思議な場所なんだ。学校自体が意思を持っているとでもいうのかな」
 ますます話が分からなくなって、僕は困ってしまった。ちらっと博人を見ると、同じように居心地悪そうに座っていた。
「この双葉小学校は、戦前から建っている学校で、戦争も経験している場所でもあるんだ。当時は沢山の方が亡くなったし、多くの子どもたちも犠牲になった。その無念さが、この学校に宿っているのではないかと思っている。ここの校長には、学校の意思を汲み取れる者が歴代着任することが多くてね。私もその一人なんだよ」
「が、学校の意思、ですか?それって、どんな・・・」
 僕の言葉に、校長先生は言葉を選んでんいるようだった。
「いろいろあるんだけど、一番強い思いは、子供たちを守りたいってことかな」
「先生には、それが感じ取れるってことですか?」
 博人も、信じられないという表情で問いかけていた。
「そうだね。感情が自分に流れて来る感覚だね。そして、たまに正夢を見させられる」
「正夢?現実に起こる未来を、夢で見るということですか?」
 校長先生は頷いた。
「もしかして、今回のことも、その正夢で見たということですか?」
 僕はそう訊ねてみて、ようやく理解ができた。
 校長先生は今回の事件を正夢で見ていたから、何が起こるかを知っていた。
 あの西島容疑者が、どんなに酷いことを行おうとしたのか、分かっていたのだと思った。
「ひどく苦しい経験だった。夢と分かっていても、目の前で無残に奪われていく命を見せつけられるのは・・・」
 校長先生は目頭を押さえて、しばらく黙り込んだ。再び顔を上げたとき、校長先生の目は赤かった。何より、こんな厳しい表情をしている校長先生を初めて見た。
「防災・安全教室の開催を中止にしようかとも思ったのだけど、それだとあの男がどこで行動を起こそうとするのかが絞れなくなる。あの男を捕まえられるのが、誰かが傷つけられた後、ということになりかねなかった。
 だから、あの場にあの男が来ると分かっていながら、君たちに協力をお願いしたんだ」
 校長先生が何度も僕たちに頭を下げた理由が、やっと分かった気がした。
「僕は!誰も傷つかずにすんで、よかったです。協力できたことを、誇りに思います」
「俺もです。大切な友達が傷つけられたかも知れないって思うと、そっちの方が苦しいです」
 僕と博人の言葉に、校長先生は優しい笑顔を浮かべた。
「ありがとう。そんな君たちだからこそ、ゆみりささんと一緒に過ごせたんだね」
「あ!それです!ゆみりさんのこと、どういうことですか?!」
 校長先生は、隣に座るゆみりさんと微笑み合った。
「ゆみりさんは、双葉小学校の学区内に引越しをしてきたので、双葉小学校に籍を置くことになったんだ。ゆみりさんのご両親のご要望で、そのことを生徒にはまだ知らせていないんだけどね。四年三組に在籍しているんだよ。いつでも登校できる準備を、学校側は済ませているからね」
 あ、そうなんですね。じゃ、なくて!
「いやいや、どうしてこんな生霊?みたいな状態になっているんですか?!」
「あ、そこか。うーん、多分この学校に呼ばれたんじゃないかな?ずっと寝たままっていうのも、暇だよね?」
 ここ双葉小学校は、不思議な場所。そういうことなのだろうか?
「あの。つまりは、体から魂が抜けてふらふらしている状態でしょ?本体の身体に悪影響はないんですか?」
 博人がまだまだ警戒しながら、ゆみりさんの様子を伺いながら訊ねた。
 校長先生はその様子に、面白そうに笑った。
「ゆみりさんに害があることを、この学校はしないよ。魂の活性化は、ゆみりさんの身体の回復にもつながっているはずだよ」
「そんな、ふらふらしてないもの。夜はちゃんと寝てるし」
 そんな問題?いろいろつっこみたいところはあったけど、僕は一番気になっている質問をした。
「あ、あの。ゆみりさんは、いつ目覚めるんですか?」
 ゆみりさんも興味深そうに、校長先生の様子を伺う。
「そうだ、ね。もう、そろそろ?そんなに時間はかからないんじゃないかな?」
「やったー!」
 ゆみりさんは、両手を上げてガッツポーズをする。
 それが本当なら、すごく嬉しいことなんだけど。
「お、お見舞い!行っていいですか?!」
「来てくれるの?ありがとう」
「私から、ゆみりさんのご両親には連絡しておくよ」
 僕は顔が赤くなるのを感じながら、頭を下げた。
「では、そろそろ保護者会の時間なので失礼するよ。今回、たまたま東警察署のみなさんが多く参加してくれていたので、大事に至らなかったと説明する予定なんだよ」
「たまたまじゃ、なかったんですね」
 校長先生は肩をすくめた。
「若尾君とは長い付き合いでね。何かと理由をこじつけて、警察からの参加人数を増やして、警戒してもらっていたんだよ」
「あ!一味唐辛子!!」
 西島容疑者から僕たちを守るためにぶちまけられた一味唐辛子も、もちろん周到に準備されていたひとつだったということなんだ。
 校長先生が僕たちに害が及ばないよう、最大限に準備してくれていたことがようやく理解できた。
「あぁ。あれもね、たまたまだよ」
 校長先生は少し悪い顔でそう言って、笑って見せた。
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