【完結】僕らのミステリー研究会

SATO SATO

文字の大きさ
9 / 13

9.再会

しおりを挟む
 予定より少し早目の時間に、お母さんと一緒に双葉小学校に向かった。
 昨日の騒動が嘘のように、校庭は誰もいなくて静まり返っていた。
 隣を歩いていたお母さんが、ふと足を止めた。校庭の隅にある、プールを不思議そうに眺めている。
「どうしたの?」
 僕の声に、お母さんは我に返ったように僕を見た。
「あ。今ね、ふと思い出したことがあって」
「何を?」
「お母さんもここ双葉小学校の卒業生じゃない?小学校一年生のときに、このプールで溺れかけたことがあって」
「ええ?!大丈夫だったの?」
 唐突な思い出話に、僕は驚いた。
「今思えば、あんまり良くない状況だったのよね。お母さん、まだ背が小さくて。プールの真ん中だとちょうど水が頭の上すれすれで、つまり顔が水面から出なかったのね」
「それは、危ないね」
「授業中は先生がついてくれてるから大丈夫だったんだけど、授業が終わってみんなで更衣室に向かうときにね。つるんて足を滑らしちゃって、プールに落ちちゃったの」
「えぇ!」
「しかも、きれいに落ちちゃったみたいで、水音もしなかったみたいなのね。誰にも気付いてもらえなくて。水面はすぐそこに見えているのに、どうしても頭が出せなくて。うわ。このままじゃ絶対死んじゃうよねって、子供ながらに悟ったわ」
「お、泳げなかったの?」
 お母さんは頷く。
「だから柊には早いうちに水泳を習わせたのよ。やっぱり、泳げないと命に関わるからね」
 僕は五才から水泳を習い始めて、現在バタフライに挑戦中だ。学校のプールの授業も苦にならないのはそのお陰だと思う。いや、そのことよりも。
「それでどうしたの?そのままだと死んじゃうじゃん」
 お母さんは、思わせぶりな笑顔を僕に向けた。
「もう無理かもって思ったときにね、誰かがお母さんの右手をつかんで引き寄せてくれたの。プールサイドにやっと手が届いて、顔が出せた。助けてくれてありがとう。ってその誰かにお礼を言おうとしたんだけど」
「うん。で、誰だったの?」
「分からない」
「え?」
「そこには、誰もいなかったの。誰もお母さんが溺れてることに気が付かずに、みんな更衣室に行ってしまっていたの」
「誰もいないって・・・」
 お母さんは首を傾ける。
「不思議よね~。今もあの右手を引っ張ってくれた感触を覚えてる。お礼を言いたかったのに、あのときは怖くなっちゃって、そのままプールから上がって更衣室に行ってしまったのよね」
 僕はプールの方を見た。
 もちろん、誰もいない。この時期はプールに水も張っていなはずだ。
「ずっと忘れてたんだけどね、今思い出したのは、昨日の柊たちもその誰かに助けてもらったのかなって」
 お母さんはプールの方に向き直り、両手を合わせてお辞儀した。
「あのとき、助けてくれてありがとう。これからも息子たちのことをよろしくお願いします」
 いつもだったら、何言ってんだよって笑い飛ばしちゃうとこだった。
 プールの方から心地よい風が吹き、僕とお母さんの頬をなでて行った。
 お母さんにも、それは感じ取れたようだった。目を見開いて僕を見る。その視線に、僕は頷いて見せた。
 

 お母さんはひと足先に、保護者説明会が行われる体育館へと向かった。
 僕は校長室へ向かう前に、図書室に足を向ける。図書室の前まで行くと、そこには博人が壁に持たれて立っていた。
「よっ。熱出たんだって?もう大丈夫なの?」
「あ、うん。もう大丈夫。博人はなんでここにいるの?」
 博人は壁から体を起こして、僕にニヤリと笑った。
「柊が、絶対来ると思ったから」
「な、なんで!」
「ゆみりさんに会いに来たんだろ?」
「そ、そ、そんな訳ない。大体、いるはずないじゃん」
 僕は半ばヤケクソで、図書室のドアを開けた。
「あ、来た。昨日はお疲れさまだったね」
 い、いた~!!ゆみりさんが図書室の中で、机の上に腰掛けて足をぷらぷらさせていた。
 僕と博人はお互いに強く抱き合って、図書室の隅に座り込んだ。
「何、その態度?失礼しちゃうわねー」
「だ、だ、だって。ゆみりさんは・・・」
 僕はそこまで言って、意を決して立ち上がる。そしてそろそろとゆみりさんに近づき、そっとゆみりさんに手を伸ばした。
 僕の手は、ゆみりさんの体を素通りする。
「●×■△%#~!!」
 言葉にならない叫び声を上げながら、僕と博人は再びお互いに抱き合いながら図書室の隅に張り付く。
「ゆ、ゆ、ゆ、幽霊!」
 叫びながら、僕はまた泣きそうになっていた。やっぱり、ゆみりさんは幽霊だったんだ。もう、この世には存在しない人だったんだ。
 ゆみりさんは少し悲しげな表情をして、机から飛び降りた。その姿を見ていると、とても実体がないとは思えない。
「幽霊じゃないもん」
 拗ねたようにそう言うゆみりさんに、博人が隣で手を合わして叫ぶ。
「うわぁ!どうか、成仏してください!!安らかにお眠りくださいっ!!」
 ゆみりさんは、呆れ顔で僕たちを見つめる。
「成仏って、やめてよ。人を死んだみたいに」
「い、いや。もうお亡くなりになってますよね。体、ないじゃないですか!」
 博人が、必死の形相で主張する。
「死んでないもん。だから、幽霊じゃないかな」
 博人が言葉を失う。僕が代わりに恐る恐る口を開いた。
「え、えっと。じゃぁ、なんなんですか?体の実体、なかったんですけど?」
「ああ、うん。そうね、・・・生霊かな?」
 てへっとかわいく笑って見せるゆみりさんに、僕たちはとても思考が追いつかない。
「い、生霊って」
 ゆみりさんは、僕たちに椅子に座るように促す。僕と博人はお互いに抱き合っていた体から手を離し、咳払いをした。随分と情けない姿を見せてしまったと、気恥ずかしくなる。
 僕たちはいつもの部活のように席に着き、ゆみりさんの話を聞くことにした。
「私、二年前に交通事故に遭って、頭をケガしちゃったの。損傷がひどくて、いつ目が覚めるか分からないっていう状態でずっと入院してるんだ」
「・・・それは、随分大変な状況じゃないですか」
「そう!大変だったのよ。危うく死んじゃうところだったのよ。去年、専門医がいるということで、双葉中央総合病院に転院してきたんだよね。それと同時に、家も病院の近くに引越しをしたのね」
 双葉中央総合病院は、近くにある大きな病院だ。つまりゆみりさんは、今そこに入院しているってこと?
「そうしたら、あるときからこの小学校に来れるようになって。でも、誰にも気付いてもらえないし、途方に暮れてたら校長先生が」
「校長先生?!」
「出た!ほら、やっぱり校長先生だ!」
 興奮する僕たちに構うことなく、ゆみりさんは続ける。
「四年三組に席があるから、ちゃんと授業を受けなさいって。目覚めたときにおいてけぼりにならないようにって」
「いい、話ですね」
「そうか?!怪談レベルだろ!」
 博人のツッコミに、ゆみりさんが笑う。
「そうだよね。授業を受けるのは楽しかったけど、みんなと関わることができないのはやっぱり寂しくて。そうしたら部活をやるといいって校長先生が」
 出た!また校長先生だ!!
「ま、待って。僕たちがミステリー研究会に入ることになったのって・・・」
 ゆみりさんは、少し罰が悪そうに僕たちから目を逸らした。
「あ、あぁ。ごめんね。私の姿が見えたの、君たち二人だけだったんだよね。だから、二人にはどうしてもミステリー研究会に入ってほしくて、校長先生にお願いしちゃいました」
 初めてゆみりさんに出会ったとき、廊下に寝転がっていた。あれは、自分の姿が見えてるかを選別するためのテストだったんだと、納得した。
 あの状況を目にして、少なからずとも驚いた素振りを見せたなら、それはゆみりさんの姿が見えていると言うことになる。
 まんまと、やられたよ。
「とりあえず、そろそろ校長先生のお話を聞きに行こう?ついに黒幕の登場だよ~」
 あっけらかんと笑うゆみりさんだったけど、僕はどっと疲れていた。
「いや、笑えねぇ」
 呟く博人の表情も、すごくげんなりしていた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

まぼろしのミッドナイトスクール

木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

処理中です...