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173話・嬉しい

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 大きめのタオルを巻いたアコの方をむいた瞬間、バサッと音をたて巻いていたタオルが落ちたので、僕はそのまま一回転した。

「アコ、もう一度タオルを巻いてくれないか?」

「分かりました。」

 巻くのを待っていたけど、

「すみません、マスター。やはり上手くいかないので、手を貸しては頂けませんか?」

 初めての体で上手く動かせないのかもしれない…

「…手を貸してって、どうすればいいの?」

「このタオルとやらを、私に巻いてはくれませんか?」

 やっぱり、そうなるよな…
 さて、どうしたものかと考えていると、

「駄目でしょうか、マスター?」

 アコが聞き返してきた。
 こんな事で、時間を使うのもあれかと覚悟を決め、目を閉じたまま振り返ると、

「分かったよ、アコ。タオルを貸してくれる?」

「はい、マスター!!」

 アコからタオルを受けとる。

「それじゃあ、アコ。僕に、背をむけてくれる?」

「はい。むきました!!」

「わ… 分かった。」

 僕は、見えるか見えないくらいの範囲で目を開け、アコに腕をあげて貰い、タオルを巻いてあげる。
 何だか、モンスターと戦うより緊張した。

「終わったよ、アコ。それで、その体の調子はどう?」

「はい、今の所問題なく動かせております。この通り。」

 そう言って、腕を回したり、その場で飛び跳ねたりしてくれる。

「そ… それくらいでいいよ、アコ。タオルが落ちるからね。それで、本体のアコの方はどう? こっちのアコを操ってみて、何か変わった事とか分かった事とかある?」

『そうですね… 初めての感覚ばかりで、とても新鮮です。それに…』

「ど… どうしたのアコ?」

 側にいた人型のアコが、そっと僕に身を寄せてくる。

「マスターに触れる事が出来て、何て言うか… 嬉しいです!!」

「そっか…」

 そう言って貰えると、あまり頑張った訳ではないが、僕も嬉しくなる。

「これで、アコのお願いも叶えられそうかな?」

「はい!!」

「なら、良かったよ。それじゃあ、アコ。上に戻ろうか?」

「はい!!」

 僕は、人型のアコの手をとり、ダンジョン移動で階段前に移動する。すると、ダンジョン内は、既に暗くなり始めていた。思ったよりも、ダンジョンルームに籠っていたようだ。僕は、そのままアコの手を引いて、上へと戻っていき、部屋を出た所で、いい香りが漂ってきた。
 キッチンの方へ行くと、3人で料理をしていた。音でも聞こえたのか、僕が声をかける前に、3人が振り返る。アードちゃんとドリさんは、そのままだったが、ソフィアは、僕の後ろにいる人型のアコを見て、表情が固まった。
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