愚かなる思考回路

基ノ國遊鶴堂

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チンチン.ワクチン

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男は自転車に跨がり駅へと漕ぎ出す。

少しキコキコと言っているが、
気にはしない。

この時間帯は何時も小学校へ向かって歩く児童達がいる。

その列を自分のイメージでは颯爽と抜かす。

が、実際は亀の様に遅い。

それに男の自転車は3段変速ギヤの1番軽いギヤへの切り替えが壊れていた。

その為、
少しの上り坂でも立ち漕ぎが必要である。

立ち漕ぎで息が上がり、
何時も、ハアハア言っていたので、

小学生達から

「あの人、気持ち悪くない?」

と、割と知られた存在で、

「キコキコ」言う自転車から、
そのまま

「キコキコ」

と、呼ばれていたのだが、
男は気づいていない。

知らない事が幸せな事もあるのだ。

信号で止まると隣の児童の男の子が、「チンチン.ワクチン」と言っている。

まったく平和な朝っぱらから、
なんと強烈なフレーズをオレにぶち込んでくるんだ。

どうやったら、
こんなお下品な事が言えるのだろう。

親御さんはどんな教育をしているのか。

全く、けしからん。

男は思った。

だが、
それからこのフレーズが
頭にこびりついて離れない。

頭の中で常にリフレインしている。

これはヤバイ。

男は大層気に入ってしまったのだ。

この中毒性のある魔法の言葉を
繰り返し唱えながら、

自転車を漕ぎ出すと何時もより早く駅に着いた。

実に不思議である。
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