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第3章:第2節
屋上で眺めていたら………(下)
しおりを挟む(えっ………!?)
神無月の静かで落ち着きのある声に私は戸惑いを隠せない。神無月から落ち着きがあって、子供をあやすような優しい声が出せるなんて、ゲーム上でさえ見たことも聞いたことがなかった。
(これ、本当に………あの神無月の、声?)
今まで神無月に対して苦手意識していたため、ときめくことがなかったのだが、この私でさえ不覚だがこの声を聞くだけでドキッと胸が高鳴る。辺りは既に闇に染まり、少し冷たい風がピューと吹き抜けるが私の顔は熱くなっていた。
ただ、私に腰に回しているのは神無月でさらに視界を遮られているため、もしかしたら視界を覆い隠してる手によって顔から出る熱が伝わり、気付かれてるかもしれない。
ふと私は先程、神無月に発した言葉を思い出して疑問を生じ始める。
(さっき、私に対して心配したって…………)
確かに私は学校や学生寮に姿を見せていない。当然だ、何の伝言も告げることもなく三つ子達によって、一ヶ月間拉致されていたから。
ただ、今の私は尾野遥でありヴァンパイアハンターでもあるため、その言葉はどう考えても無縁な言葉だ。ヴァンパイアである神無月から初対面であるはずの尾野遥に心配したと言われるのは門違いではないかと。
「心配?何寝ぼけたことを言って……」
「____隠さなくていいんですよ。俺、既に知ってますから」
私はヴァンパイアハンターとしての理性を保ち、尾野遥として言おうとしたら神無月の静かで落ち着きのある声によって言葉は遮られる。
「先輩がヴァンパイアハンターだということも、スノーセイレーンだということも……前から知ってました。」
「……っ!?」
その言葉を聞いた私は強張り、まさかと心の中で動揺に跳ねる。
____前から知っていた、それはつまり、尾野遥として振る舞う前から知っていたと言ってるのと同じ。
「大丈夫。彼奴らと俺以外のヴァンパイアは、先輩だと気付いていません。"同一人物"だなんて、これぽっちも思ってもいないでしょうから。」
顔面蒼白してブルブルと震えていると腰に回していた手の力が強くなり、ギュッと抱きしめられる。その際に私の左肩に重みがのしかかり、耳元には神無月の吐息が聞こえてくる。恐らく、私の左肩には神無月の顔があると。
耳元で確信な言葉を言われて私はああやっぱりと、心の中で動揺が揺れるその裏で納得するような気持ちもあった。
私はこの世界で由奈のサポーターキャラである藤野スピカとして転生して、由奈からバッドエンドに導かないように誘導しながらヴァンパイアハンターになって彼女になりきった。いや、なり切ろうとした。
だけど私は、彼女に完璧に演じることが出来てなかったみたいだ。いや、最初から出来てなかったかもしれない。
その証拠に、ゲーム上の藤野スピカは学校ではボッチで誰とも交わることはなかったはずだったのに、私が藤野スピカとして転生したために、由奈以外のキャラ達に接点を持つようになった。
私は由奈と攻略キャラ達の親睦を深めて欲しくて、自分はヴァンパイアハンターと言う立場もあったから攻略キャラ達の接点を持たないように避けてたのに、皆は引き寄せられるように向こうからやってきた。
____もしかしたら、私には皆を引き寄せる力が備わっているに違いない。
「にしても、あん時はヴァンパイアである俺でさえ、先輩の素性がいつバレるのかハラハラしてました。なんせ、先輩の同室者が香月先輩でしたし、死と隣り合わせみたいなもんですよ。」
そう言って神無月は両目を覆い隠された手と腰に回していた手をようやく退かして、一定の距離を置く。その表情はいつもの彼に戻っていたが、大人びた口調のままで彼から宿す金色の瞳には心配と焦りがちらつかせていた。
「……今はあのオカマが、先輩の同室者みたいですね。しかも白百合寮に堂々と!」
そして一瞬にして今度は怒りがメラメラと揺れる。もう、全てを知ってる彼にどんな言い訳をしても無駄だと悟った私は勇気を出して神無月に問いかけた。
「いつから………」
「ん?」
「いつから、知ってた?」
私は彼の服の胸元をギュッと握りしめて、真剣な表情を浮かべて神無月に向けた。
「やっぱり、気付いてなかったんすね。」
「??」
砕けた口調に戻った神無月はハァーとため息を突く。何故、呆れた表情を見せるのか分からなかった私は訝しげな表情を浮かべて首を傾げる。
「屋上で夜空を見上げて、西園寺先輩の名前……呼んでましたよね?」
「……言ってないし呼んでもいない」
身に覚えのないことを言われた私は即座に否定すると神無月はガクッと首を項垂れ、顔をゆっくり上げて私に目を向けた。
「……今日じゃなくて、俺と出会う前に屋上で呟いていたじゃないすか。西園寺先輩を愛おしそうに呼びながら。」
神無月と出会う前、そう言われた私は記憶を探る。あの時は確か、臭い消しはつけておらず、七海君とミナトを接触した日だ。
「ま、まさか………!?」
私はギギッとロボットのように神無月に顔を向けて、ぎこちなく問いかけた。七海君と別れた後、部屋に戻ったけど寝付けられなくて屋上で夜空を見上げていたことを思い出した。そしてあの時は攻略キャラは三人しか出逢っておらず、推しであるレオン君の名前を呼んでいたことを……
「ようやく、気付いたみたいっすね♪」
神無月の表情は悪魔の笑みを浮かべるのを見て私はサーッと顔を真っ青になり、言葉を失った。
(最悪だ……!)
それはつまり、セミロング姿も見られて、当時出逢っていなかったレオン君の名前を聞かれて、その上臭い消しをつけ忘れていて…
その翌日に当時、男であるはずの私に妙に絡んできたのはそのせいかと、今思えばそう思わせる節はあった。
私は心の中で一番やってはいけないことをしてしまったと後悔の懸念を駆られた。
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