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第3章:第5節
抵抗しても抗えぬ理性と本能(下)
しおりを挟む「……っ、………」
セレスが私と目線を合わせるように身体をしゃがみ込む際、セレスの長い髪からフワリと匂いが漂う。彼自身の匂いだ。その匂いを嗅いだ私は、何故か知らないが頭の中でこう思ってしまった。
ーーー血を飲んでみたい、と。
(ハッ!?私は今、何を思った……?)
自分はヴァンパイアハンターだ。その私がヴァンパイアのような考えをするなんて……
「アンタ今、オレを見て血を欲してる。そうだろ?」
今思ったことをセレスに言い当てられた私は咄嗟に首を横に振ろうとしたが、この怠さに喉の激痛でうまく振ることが出来ない。
「無駄だ。例え、頭は必死に否定しても身体は素直になる。アンタの中にある理性は崩れ、本能のままに動く。そして、アンタの身体は既にヴァンパイアになりつつあるんだよ。」
「……っ、そんな、の………!!」
「信じないって?じゃあ何故、アンタは苦しんでいるんだ?喉元に手を抑えつけて」
「それ、は………」
そう言いかけたところでふと、三つ子に拉致される前のことを頭がよぎり…………
(まさか、あの時点で私の身体は…………)
「……どうやら、心当たりがあるんだな。」
ほら言わんこっちゃないと言わんばかりの顔で、セレスは座り込んだ私に近づいて、私の腰に手を回す。そしてもう片方の手を私の頭に添えて、自身の肩まで持って行かせる。
「とりあえず、貴女の牙でワタクシの首元に突き刺しなさい」
突然のことに戸惑う私の耳元で、いつもの口調で囁かれる。
(ヤバイ、セレスの匂いで………!?)
セレスが私を自身の肩に乗せたことにより、匂いが先程より強くなり、血を飲みたい衝動に駆られそうになった私はギュッと目を瞑り、理性を持ち堪える。
「いつまでもそうしてたら、治るものが治らないわよ。喉の渇きを抑まるには血を飲む以外ないのよ。」
「飲みたく、ない………っ、私は……ヴァンパイア、みたいな……行為、なんか…………」
「……スピカ貴女、相当の頑固みたいね。」
私の横でハァーと溜息が聞こえた後、ゴクゴクと何かを飲む音が耳元で聞こえたので横目で見ようとしたが、それは叶わなかった。
(………………はっ?)
自分が何が起きたのか理解するまで時間がかかった。グイッと頭を向けられて、私の視界に写る瞳にはセレスの顔がすぐ近くにあって、そして私の唇には柔らかい触感が………
(えっ、まさか私………キスされてるの!?というか、デジャヴ感が半端ないんだけど!!!!)
けれど今の状況を理解したのもつかの間、私の口の中に液体が流れ込んでゴクリと思わず飲んでしまう。
「んっ、んん、んんんん!!」
私はすぐさま、口付けされている相手…セレスに抵抗したが、頭をしっかりと掴まれてしまい、頭は動かすことが出来ない。
「……全く、貴女が意地を張るからよ」
ようやくのところで唇を離れ、私はすぐさま咳き込んだ。
「……何を飲ませた!」
「何って、血に決まってるじゃない。」
「そんなはずは……!だって、味は甘かったしそれに、飲んだ瞬間身体、が…………」
そう言いかけて私は違和感を覚えはじめる。先程まで喉の激痛があったにもかかわらず、今はそれがない。私はもう一度、セレスを見つめた。
「何?まさかワタクシが媚薬を飲ませたと思ってるのかしら?」
まさかと思い私は拭った腕を恐る恐る凝視した。目は暗闇に既に慣れていたため、腕には何か黒いものを擦った跡が………
「まさか、本当に…………!」
「そうじゃなきゃスピカの喉の渇き、収まるわけないわよ。」
私は顔を真っ青になり、両手で顔を覆い隠した。やらかしてしまったのだ。ヴァンパイアハンターとして有るまじき行為を…………
(例え、相手の身体に牙を突き刺さなかったとしても、血を飲んでしまうなんて…………)
理性でなんとか身体を保ち、牙を立てずに済んだことに関しては褒めるべきだと思っている。血を飲んでしまったことには変わりはないが。
「さっきも言ったと思うけど、今の貴女の症状は軽い方よ。今まで血を飲んだことがなかったからでしょうね。」
一旦私から距離を置いてセレスは今度、反対側のポケットに手を入れて私の手にある物を渡される。
「これは………」
よく見るとそれは、握りしめた時に拳が隙間出来る少し大きめの瓶で、うっすらだけど何か小さい粒状の物が入っていた。
「これね、貴女専用の鎮痛剤よ。」
「ち、鎮痛剤……?」
「念のために言っておくけれど………カルマが作った薬ではないわよ。」
(ああー…………。既にお見通しというわけですか…………)
セレスが念を押すように言われた言葉に嘘は感じられない。そして彼が芋虫を噛み潰したような表情を見て、この薬の開発者は誰なのか、私は納得してしまった。カルマが作った薬ならその表情は絶対出ない。
「その薬を飲めば暫くは、喉の渇きは抑えられるらしいわ。ただ、今日のところは学校は休みなさい。学校と寮長には、ワタクシが言っておくわ。学校内で症状起こされたらたまったもんじゃなくてよ。」
神妙な顔つきで言われた私は納得いかなかったが、身体のこともあり渋々了承した。
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