婚約破棄された王女が全力で喜びましたが、何か問題でも?

yukiya

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7,忠誠心の塊からのプロポーズ

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 失礼します、と声がする。ふと顔を上げるとフェロンがいた。
「あら、どうしたの?」
「姫様が部屋に篭っておられると聞いたので」
 自分を心配して来てくれたのかと思うと少し嬉しくなる。
「気が効くわね。暇をしていたの」
「俺は暇つぶしですか…。まぁいいですケド」
 口を尖らせる彼に、冗談よとエルステーネが笑った。
「それで現時点での賭けの結果は?」
「……姫様の勝ちですよ」
「あら。もう?」
「案外呆気なくて驚きましたよ。今頃のファントムではあの馬鹿王子が王座に座っているそうですけどね」
「あら、とうとう父親からも見捨てられたのね。お可哀想に」
 そう言いながらも可哀想などとは思っていない口調でエルステーネは苦笑する。
「…馬鹿王子に惹かれるかと思いましたが。貴女は自分に持っていないものに惹かれるので」
「ーー好きにはならないわね。だって結局、馬鹿だったじゃない。私は馬鹿な男がこの世で最も嫌いなの」
「そういえばそうでしたね」
「とにかく賭けは私の勝ちね。…そうね、欲しいものは特に無いし、貴方にご褒美をあげるわ。私の早馬について来れたことへのご褒美よ。それから、ファントムにいる間ずっと私を守ってくれたこと、本当に感謝しているわ」
「……ご褒美?」
「好きなものーーは、地位だったわね。安心して、後でお父様に、」
「欲しいのは地位じゃない」
「…え?どうしたの?地位じゃない?貴方、他に欲しいものがあったの?」
 戸惑いを隠そうともしないエルステーネに、流石のフェロンも怒りが湧いてしまった。
「アンタ俺のこと何だと思ってるんですか」
「えー……地位と権力を喉から手が出るほど欲する金の亡者…?」
「本気で怒りますよ」
 冗談よ冗談、とまたエルステーネが笑う。半分というか大半が冗談でないことはバレているだろうけれど。
「それで、欲しいものは何なの?私にあげられるものなら何でもあげるけれど」
「何度も言っているでしょう。姫様の心が、貴女の心が欲しいと」
「…私の心?なによそれ?」
「まだ分かりませんか。俺は貴女が欲しい、貴女を恋い慕っていると言っているんです」
「あら、そう…………!!?」
 澄ました顔から驚愕の顔に変わるのを見て、ようやく意味が伝わったかとフェロンはため息をついた。
「ようやく分かってくれましたか」
「な、な、なな、何言って、」
「言っておきますが忠誠心に変わりはありませんからね。…貴女が誰を好きでいるかも理解していますが、それは叶わないとご自分でよくお分かりのはずです」
「フェロン、それは、」
「いい加減諦めて俺のものになったらどうですか?」
 暗い青色の瞳がエルステーネを見据える。まるで心の中まで見られているようで怖いと、目を背けてしまう。
「…貴方に私の気持ちなんて分からないわ」
「分かります。ずっと隣で見ていました、初めて貴女に出会った時から」
「やめて」
「エルステーネ様」
「やめて!」
「どうしてですか!!」
 どうして俺じゃ駄目なんですか。その声は空中に冷たく響いた。
「…私は宰相様が、好きなの」
「エルステーネ様、それは、」
「あの人が私を疎ましく思っていても、お姉様と相思相愛でも、それでも私は、あの人を好きでいたいの」
「それじゃあ貴女が報われない」
「それでいいの!!」
 だって私は次女だから。いつだって、綺麗なのも、優遇されるのも、好かれるのも、全部お姉様の役目。私は好かれなくていい。私はお姉様の引き立て役でいい。
 だって、次女だから。美しく生まれなかった私の自業自得なのだから。
「女らしいお姉様と違って私は馬にも乗るわ。お姉様がハーブを弾くなら私はドラムを叩くし、お姉様が歌う間私は走り回るわ。綺麗な白で滑らかな肌をしたお姉様と違って私は色黒で、乾燥していて。貴方も私よりお姉様を、」
「女が馬に乗ることはいけないことですか?女はハーブを弾かなければならないんですか?姿形は人それぞれだし、世の中には真っ黒の肌をした民族だっていますよ。俺は貴女が鳴らす楽器の音が好きだし、貴女と馬で駆け回るのも好きです。たまに口ずさむ歌を聞くのも好きですし、女らしさのかけらも無いくせに俺が間違えて浴室に入ったら女らしく悲鳴を上げるところも好きです」
「…最近じゃ慣れて裸を見られても何も言わなくなったけどね」
「そうですね。確かにスタイルも顔も胸も第一王女のエリシア様の方が抜群ですが」
「おい」
「それでも俺はそんな貴女を好きになりました」
 なんだそれ、と突っ込みたいのに突っ込めない。本気だから茶化すことも出来ない。
「俺は貴女に見合う身分はありませんが、絶対に実力で手に入れてみせます。貴女を幸せにします。だから、」
「……馬鹿」
「俺を選んでください」
 それに素直に頷けたら良かったのに、私は。
「…考える」
 そんなことを言うから、後で皆を傷付けることになるのだと、今の私は知る由もなかった。
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