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14,急にしては盛大です。
しおりを挟む宰相とエルステーネの結婚は唐突に決まり、然程時間も無かったはずなのに、それはそれは盛大に執り行われた。
どうやらモランが国王を脅しーーいや、国王にお願いして、無理に事を進めたらしい。
用意されていたドレスはエルステーネに一番似合うものをとモランが選んでくれたらしく、エルステーネの好みピッタリだった。
「綺麗よ、エルステーネ」
「お姉様!」
久しぶりに部屋から出たらもうすぐに挙式だったので、しばらくお姉様に会えていなかった。
「宰相ったら、私くらい会ってもいいでしょうと言ったのに駄目だと言って合わせてくれないんだもの。変な事をしたら私が首を跳ねるとは伝えたのだけれど…」
物騒ですわね、お姉様。
「…ねぇ、エルステーネ。本当にフェロンとは何も無いのよね?」
「え?」
「もし貴女がフェロンを好きでいるのなら、私は…」
「お姉様、安心して下さいませ。…あの時のことはお姉様がモラン様と結婚なさるのだとばかり思い込んでいたもので…」
「そんなの有り得ないわ。あの人今も昔もずっと貴女しか見えていないじゃない」
「分かりにくいんですよ、モラン様もお姉様も」
そういえば、と姿の見えないフェロンを探すと、お姉様が苦笑した。
「会いたい?」
「…少しだけ、伝えたいことがあって。あ、別に愛の告白なんてものではなくて。…ファントムにいた頃、ずっと支えになってくれていたのはフェロンだったから、…最後にお礼を言いたくて」
「…分かったわ。本当は私以外の女と会って欲しく無いけれど、貴女だけ特別ね」
さらっと怖い事を言うのはやめて下さいまし。…モラン様とお姉様ってこういうところが似ているのね。相手を束縛したい、というか、自分しか見て欲しく無いというか。
お姉様が部屋を出て行ってしばらくしてから、部屋の扉がノックされた。返事をすれば、扉が開く。その奥には特に変わったところもないフェロンが立っていた。
「…フェロン」
声をかけても彼は立ち尽くし、こちらをジッと見ていた。
「怒って、いるわよね」
「え?ーーいえ、綺麗だったので、つい見惚れておりました」
「……何故殿方というのは歯の浮くような台詞がスラスラと出てくるのですか」
「…あの狸と一緒にされるのは嫌です」
眉間に皺を寄せるので、その様子にクスクスと笑う。
「…俺は何も怒っていませんよ。ずっと前から言っているでしょう、貴女の幸せが俺の幸せだと」
「フェロン…」
「あんなジジイの何がいいのかは分かりませんが」
「モラン様もまだ若いわよ」
「どこが」
ハッと言い捨てる彼には他にも思うところがあるらしく、相変わらず不機嫌そうな顔をしている。
ふと窓の外を見ると、会場にゾロゾロと人が入っていく。そろそろ迎えが来るかもしれないと、夢心地が段々と現実味を帯びてくる。
「…ねぇ、フェロン」
「はい、姫様」
「私は貴方が大好きよ。恋慕の情こそは無いけれど、ずっと大切よ。ファントムでずっと気を張ってくれていたのも、知ってるわ。私のワガママに付き合わせたこともあったわね」
「…そうですね。少し前なのに、もう昔のことのようです」
「…ねぇ、フェロン」
私は貴方が本当に大切だった。あの馬鹿王子から守ってくれていた貴方に、本当に感謝している。
「はい、姫様」
大切だったから、ずっと大切が良かったから、だから、貴方だけは好きにならなかったのよ。恋慕の情を抱いてしまえば、永遠では無くなるから。
「ありがとう。ずっと守ってくれて、本当にありがとう」
「…今なら」
「え?」
「今なら、俺は貴女を連れ去ることが出来ますよ」
真剣な顔をして、彼がこちらを見据える。冗談というわけでもなさそうだ。
「…じゃじゃ馬姫様の手綱を握っていられるのは、俺だけかもしれませんよ」
「フェロン」
「また二人で、馬で駆けましょうよ。くだらない事をして、馬鹿みたいなことを言い合って」
「…それは、とても魅力的ね」
「街の安い酒屋で踊るのだって楽しかった」
「えぇ、とても楽しかった。それこそ社交パーティーなんかよりも」
「好きなことを好きなだけ、していた、あの頃に、戻りましょう?」
「……楽しかった、けれど。それは出来ないわ」
「どうして?」
「馬で駆けるよりも、街の酒場で踊るよりも、私はモラン様の妻でいたいのよ」
「…私の幸せは貴女の幸せです。女としての貴女ではなく、主人のしての貴女の幸せです」
「私はもう、幸せよ。…だから、お願い」
貴女もそろそろ、幸せになって。
「…分かりました」
すっと、フェロンの表情が柔らかくなる。
「貴女が幸せなら、それでいいんです。…あぁ、けれど。あの狸ジジイに飽きたらいつでも言ってください」
「ふざけるなクソガキ」
ガチャリと突然扉が開き入って来たのは、モランだった。
「モラン様っ!」
「…どうやら狸ジジイは本当に貴女が大切なようだ。…大丈夫」
エルステーネの耳元で、フェロンが囁く。
ちゃんと幸せになれたでしょう?と。
『私はきっと幸せにはなれない運命だわ』
それはファントムにいた頃、モラン様を想って紡いだ言葉。
『大丈夫ですよ、姫様。貴女はちゃんと幸せになれますよ』
『いいえ、なれないわ』
『いいえ、なれます。ちゃんとなれます。…もしもいつまでも貴女が幸せにならないなら、俺が幸せにしてみせます』
今思えばあれは、初めのプロポーズだったのかもしれない。気付かなかった私は華麗にスルーしてしまったけれど。
「…おいクソガキ、今私の花嫁に何を言った。それからそこより近付くな」
「……ね?姫様」
「…まだ、式も終わってないのに」
目が潤む。あぁ、私はなんていい従者に付いていて貰っていたのかしら。
「エルステーネ。クソガキに何か変なことを吹き込まれでも…」
「クソガキじゃねぇよ、狸ジジイ。…じゃあ、姫様。俺は先に会場に行っていますね」
「…えぇ、えぇ」
ありがとう。本当に、ありがとう。
ここまでずっと見届けてくれて、ありがとう。誰よりも、なによりも、私の幸せを願ってくれて、ありがとう。
笑顔を見せて部屋を出て行ったフェロンをそれでも気に入らなかったのか、モランが眉間にしわを寄せた。
「連れ去ると言われた時」
「聞いていたの」
「もし貴女が頷いていたら、扉を二人で出て来た瞬間に叩っ斬るつもりでした」
「…どうして私の周りはこう、物騒なのかしら」
「物騒な男は嫌いですか」
ずいっと顔が近くなり、思わず逸らしてしまう。
「……私を想って物騒になるのなら……それは、仕方ないと思いますわ」
あぁ、どうして私は素直になれないのだろう。
だって素直になっていた時、貴方はこちらに見向きもしてくれなかったのだもの。
「…えぇ、仕方ないほど、貴女を愛しているんです」
「……私も愛しているわ、モラン様」
さぁ、幸せへの第一歩を踏み出しましょうか。
私の幸せを望んでくれた彼のためにも。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
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