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15,馬鹿は治らない。
しおりを挟むこの国で一番大きな協会のテラスから、エルステーネは集まった人々に笑顔で手を振った。
エルステーネの花嫁姿に民衆からの歓声は高まる。
「エルステーネ」
「モラン様」
微笑み合う二人を見て、国王は一件落着とばかりにホッと息をついた、その時だった。
ドォンッ!と大きな音が響いたのは。
一瞬、騒然となった。その大きな音の方へ視線を向けると、国境沿いから黒い狼煙が上がっているではないか。
それを見た瞬間、まさか、とエルステーネに嫌な予感がした。黒い狼煙は敵国からの襲撃の合図。
そして彼方の方はーー。
「国王陛下!!」
呆然としていると、慌ただしく入ってきた衛兵が頭を下げる。
「何事だ、騒々しい!王女の挙式であるぞ!!」
「申し訳ございません!ですが…!」
「早く言え!」
「そ、それがっ……ファントムの王子ーーじゃない、王が、我が国の領土に攻め入ったとの事でございます!」
「「「…は?」」」
攻め入った?訳が分からず、エルステーネとモラン、国王は声を揃えて首を傾げた。
今ファントムにいるのはあの馬鹿と、その馬鹿を愛し愛された女のみ。
ーーまさか一人でこの領土に攻め入ったと?
「…国境兵は何をしているのだ?」
「いえ、その……突然国境門に現れたと思ったら、突然ハシゴに登り始め、背中に持っていた銃を乱射したらしく…」
「は?」
訳が分からない。ハシゴって、あの場所には門しかない。その門も五メートルはある。
それを登り、銃を乱射?
……何のために?
「…それが、エルステーネ様を出せと喚いておりますが、銃が一般市民に当たったらしく、六名の死傷者が…」
「なに!?」
モランがバッと振り返る。宰相であるモランは市民の安全をいつでも考えている。それが分かっているから、エルステーネは笑った。
「…モラン様」
「エルステーネ」
「構いません。行って下さい」
「だが、」
「式はいつでも出来ます。…私は宰相としていつでも民を第一に考える貴方が、大好きです」
「……すまない。すぐに、戻るから」
呟いて国王と共に場を後にするモランの後ろ姿を見送る。
「…いいんですか」
「あらフェロン、そんなところにいたの?」
「えぇ、まぁ」
お姉様までそんな心配そうな顔をして。
「…お姉様、少しお願いがありますの」
「なあに?なんでも言ってちょうだい。あんな馬鹿王子の元にあなたを送ったなんて、本当に申し訳なくて…!」
「それはいいの。…お願い、お姉様。最後に、フェロンを貸して頂戴」
「彼を?いいけれど、どうして…」
「フェロン。お願い、最後のお願いよ」
「……何となく分かりますが」
「すぐにモラン様を追って、護衛をして頂戴。貴方は誰よりも剣が立つでしょう。その剣で、モラン様を守って」
「たかがあの馬鹿王子一人だと…」
「それでも嫌な予感がするの。お願い」
「……分かりました。騎士として最後に守るのは貴女が良かったけれど、仕方ない」
ペコリと頭を下げて駆けていく彼を見送り、お姉様に向き直る。
「なにか不安な事でも?」
「えぇ、お姉様。…あの馬鹿は馬鹿ですが、意味無くここで事件を起こそうとは思わないはず。誰かが入れ知恵をしたのでは、と」
そう言った途端、お姉様の顔色が変わる。
「まさか」
「…皇国は最近情勢が怪しいと聞きます。念のため国境に兵を配備した方が良いでしょう」
万一のことがあれば、結婚式どころの話ではありませんものね。
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