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19,お前が言うか?

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「なっ…!」
 なんでいるんだよ!!!
 多分、その場にいた全員の声が一致した瞬間だっただろう。
 間抜けな声を出して「あれ?」などと呟きながら頭を掻くのはーー他でもない、この国の王子であるオルゼアだった。ーー何やってんだこの馬鹿は!
「ちょ、宰相どうするつもりっスか」
「私が知るわけないだろう…!」
 フェロンとモランが言い合っている間にも、両者の間でポツリと立っている王子は首を傾げていた。
「今日がエルステーネの結婚式って忘れててさ。慌てて帰って来たんだけど、…なに?この状況」
 両者向かい合って剣を構える状態。なにも何も、見て分からないのかこの馬鹿は。
「ちょっと、朝まで帰って来ないんじゃないんですか…!」
「私に聞くな…!」
 ヒソヒソと話し合う二人だったのだが。
「何者だ!」
 鋭いならず者の声が廊下に響く。
「え?王子だけど」
 ーーあ、終わった。
 ただ静かに、誰もがそう思ったその時だった。
 バタバタと慌ただしく、敵陣の向こうからこの国の兵士が現れる。
「ーー王子」
「ならず者を捕らえよ!」
 はっ、と兵士の声と共に二人も我に返り、挟み討ちにする。
「命が惜しくば、」
 お決まりの台詞を言おうとした時、その場に座り込んだ賊軍が口の中に何かを放り込む。自害剤だと分かりモランが駆け寄るよりも先に、賊軍の首をオルゼアが蹴った。ゲホッ、と緑色の丸剤が吐き出される。
「…大切な妹の結婚式をぶっ潰したんだ。楽に死ねると思うなよ」
 悪魔の笑みで言い放ったオルゼアにやはりその場にいた者が考えたことは一致した。

 ーーその大切な妹の結婚式を忘れてたのは誰だよ!!ーーと。





 その頃、エルステーネは国王とエリシアと共に城の地下室から離れの塔へと移動していた。
「フェロン、大丈夫かしら…」
「大丈夫ですわ。それよりもお兄様が心配なのですけれど……」
「まぁ、何かあったとしても貴女の式に遅刻したペナルティと思ってもらうしかないわね」
「とても大きなペナルティですわね。お釣りが来ますよ」
「王女様、お静かに」
 そう言ったのは式の準備を手伝っていたグレーズ侯爵だ。特に剣の腕が立つ訳でもない彼が残ると足手まといだとのことで、こちらの案内を任された。
「あら、ごめんなさい」
「いえ……もうすぐ、もうすぐ
 ーー終わる?
 どういう意味だろうと引っかかったエルステーネだったけれど、それを聞き掘ることはしなかった。
 問い詰めなかったことを、後でどんなに後悔するかも分からずに。
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