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28,全ては逆賊の愚策
しおりを挟む笑顔を向けて来るのは間違いなく、アスロンの隣でプルプルと震えていた女だ。
その事に気付かなかったのは、あの時とは全く違い、堂々と胸を張り歩いていたからに違いない。凛々しい顔つきをしたファンシール皇女に、エルステーネは声が出なかった。
「私を憶えておられますか、エルステーネ様」
「も、もちろんですわ。私の記憶にある限りでは、あの、」
「あの時のご無礼、どうかお許し下さい。とても深い訳があったのです、もしよければ後ほどお聞きして頂けませんか」
「えぇ、私でよければ…!」
モランは首を傾げながら取り敢えず中に、と案内する。その隣を歩きながらエルステーネはドキドキと鳴り響く心臓を押さえた。
確かアスロンは彼女をエミリーと呼び、恋人だと言っていたはずだ。
初めこそはアスロンに腹を立てていた。知り合いも少ない他国で人前で恥をかかされ、挙句には振り回され。けれどあのエミリーという少女には感謝していたのだ。
あの少女がいなければ今頃はあの馬鹿と結婚させられていたとしてもおかしくない。モランとこうして幸せに在れるのは彼女のおかげであると、そう思っていた。
だがまさか皇国の皇女とは。
玉座に座った国王がまだカチコチと固まっている。ファンシールは気の強い女だと聞いていたので、憎まれ口で返す言葉しか用意していなかったのだろう。我が父ながら情けない。
「改めてミリガン国王陛下、ご挨拶申し上げます」
皇国の人間だというのに、こちらの言葉をペラペラと話す皇女に皆が目を丸くする。用意されていた通訳官など居心地悪そうに立っているではないか。
「あぁ」
「失礼と存じますが、まずは謝罪させて頂きます。我が国の逆賊が勝手に兵を動かし、条約を破りこちらに攻め入った事、誠に申し訳ございませんでした」
「……逆賊とな」
「はい。ですがこれは決して皇帝陛下のご意思ではございません。ですからこちらも全ての元凶を洗いざらい調べ、処罰はミリガン王国の法に則らせて頂こうと存じます」
皇帝陛下の意思ではない。それはつまり、戦争の勃発は無いということを意味する。
それが分かった途端、誰もの表情に安堵の笑みが零れた。
負けるかどうかなど分からない、どちらも同じほどの力を持った国だ。戦争などになってしまえば多くの犠牲が出ることは仕方なくなってしまう。
「もっと早くに弁明出来れば宜しかったのですが、何分、曲者が身内におりましたので、皇帝陛下も戸惑っておられたのです。どうかご容赦くださいませ」
「身内だと?」
つまりそれは皇族ということになる。成る程、それならばあちらが忙しかったのも仕方ない。
「…まぁ、我が国にも反逆者はいたのです。仕方ないでしょう」
モランがそう言うと、その場にいた貴族は表情を曇らせる。まさか自国を売るような馬鹿がこの国に、しかも貴族の中にいたことは彼らの中ではショックなのだろう。
エリシアを傷付けたのも結局は彼だ。
「此度、私が参ったのは、ファントム王国であった土地をどうするか、今後を話し合うためでございます」
「そうか…」
確かに問題は山積みだ。ミリガンにやって来た元ファントムの貴族や国民を、ミリガンの国民が受け付けるかどうかは別の話だった。王女を辱めた国の者を軽蔑するのは仕方ない。
そしてやはり祖国に帰りたいと願う者もいるだろう。言っては悪いが、突然この国の人口が増えたことによって様々なバランスの取れていたものが段々と釣り合わなくなってしまった。
早々にどうにかして欲しいと山のように上奏文が届いていたことをエルステーネは知っていた。
「承知した。今回の話し合いが有意義なものになるようにと、私も願っている」
「感謝致します、国王陛下」
「それから…この国にいる間、誰か案内役をつけたほうが良いだろう」
普段ならエリシアが請け負ってくれるが、今度ばかりは無理だろう。今だって起き上がるのがやっとで、歩くことなどままならない。
「…私がお受けしてもよろしいでしょうか?」
聞きたいことも沢山あると考え、普段なら絶対に断るエルステーネが自分から立候補したことに国王は驚きながら了承する。
それにファンシール皇女は嬉しそうに笑い、皆がホッとした表情になる。
ただ一人ーーしかめ面になった、宰相のモランを除いては。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
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