婚約破棄された王女が全力で喜びましたが、何か問題でも?

yukiya

文字の大きさ
28 / 29

28,全ては逆賊の愚策

しおりを挟む


 笑顔を向けて来るのは間違いなく、アスロンの隣でプルプルと震えていた女だ。
 その事に気付かなかったのは、あの時とは全く違い、堂々と胸を張り歩いていたからに違いない。凛々しい顔つきをしたファンシール皇女に、エルステーネは声が出なかった。
「私を憶えておられますか、エルステーネ様」
「も、もちろんですわ。私の記憶にある限りでは、あの、」
「あの時のご無礼、どうかお許し下さい。とても深い訳があったのです、もしよければ後ほどお聞きして頂けませんか」
「えぇ、私でよければ…!」
 モランは首を傾げながら取り敢えず中に、と案内する。その隣を歩きながらエルステーネはドキドキと鳴り響く心臓を押さえた。
 確かアスロンは彼女をエミリーと呼び、恋人だと言っていたはずだ。
 初めこそはアスロンに腹を立てていた。知り合いも少ない他国で人前で恥をかかされ、挙句には振り回され。けれどあのエミリーという少女には感謝していたのだ。
 あの少女がいなければ今頃はあの馬鹿と結婚させられていたとしてもおかしくない。モランとこうして幸せに在れるのは彼女のおかげであると、そう思っていた。
 だがまさか皇国の皇女とは。

 玉座に座った国王がまだカチコチと固まっている。ファンシールは気の強い女だと聞いていたので、憎まれ口で返す言葉しか用意していなかったのだろう。我が父ながら情けない。
「改めてミリガン国王陛下、ご挨拶申し上げます」
 皇国の人間だというのに、こちらの言葉をペラペラと話す皇女に皆が目を丸くする。用意されていた通訳官など居心地悪そうに立っているではないか。
「あぁ」
「失礼と存じますが、まずは謝罪させて頂きます。我が国の逆賊が勝手に兵を動かし、条約を破りこちらに攻め入った事、誠に申し訳ございませんでした」
「……逆賊とな」
「はい。ですがこれは決して皇帝陛下のご意思ではございません。ですからこちらも全ての元凶を洗いざらい調べ、処罰はミリガン王国の法に則らせて頂こうと存じます」
 皇帝陛下の意思ではない。それはつまり、戦争の勃発は無いということを意味する。
 それが分かった途端、誰もの表情に安堵の笑みが零れた。
 負けるかどうかなど分からない、どちらも同じほどの力を持った国だ。戦争などになってしまえば多くの犠牲が出ることは仕方なくなってしまう。
「もっと早くに弁明出来れば宜しかったのですが、何分、曲者が身内におりましたので、皇帝陛下も戸惑っておられたのです。どうかご容赦くださいませ」
「身内だと?」
 つまりそれは皇族ということになる。成る程、それならばあちらが忙しかったのも仕方ない。
「…まぁ、我が国にも反逆者はいたのです。仕方ないでしょう」
 モランがそう言うと、その場にいた貴族は表情を曇らせる。まさか自国を売るような馬鹿がこの国に、しかも貴族の中にいたことは彼らの中ではショックなのだろう。
 エリシアを傷付けたのも結局は彼だ。
「此度、私が参ったのは、ファントム王国であった土地をどうするか、今後を話し合うためでございます」
「そうか…」
 確かに問題は山積みだ。ミリガンにやって来た元ファントムの貴族や国民を、ミリガンの国民が受け付けるかどうかは別の話だった。王女を辱めた国の者を軽蔑するのは仕方ない。
 そしてやはり祖国に帰りたいと願う者もいるだろう。言っては悪いが、突然この国の人口が増えたことによって様々なバランスの取れていたものが段々と釣り合わなくなってしまった。
 早々にどうにかして欲しいと山のように上奏文が届いていたことをエルステーネは知っていた。
「承知した。今回の話し合いが有意義なものになるようにと、私も願っている」
「感謝致します、国王陛下」
「それから…この国にいる間、誰か案内役をつけたほうが良いだろう」
 普段ならエリシアが請け負ってくれるが、今度ばかりは無理だろう。今だって起き上がるのがやっとで、歩くことなどままならない。
「…私がお受けしてもよろしいでしょうか?」
 聞きたいことも沢山あると考え、普段なら絶対に断るエルステーネが自分から立候補したことに国王は驚きながら了承する。
 それにファンシール皇女は嬉しそうに笑い、皆がホッとした表情になる。
 ただ一人ーーしかめ面になった、宰相のモランを除いては。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...