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27,馬鹿王の隣にいたはずの彼女
しおりを挟むその日、ミリガンの兵は殺気立ち、いつものような緩い空気は一切無かった。
それもそのはずだ。突然の皇国からの来訪の申し込みに、あの国王さえもいつも閉じている眼を開いて、書簡を睨んでいた。
ミリガンの国境を越えてきた兵が退却したのでこちらも皇国から撤退させたものの、お互いに睨み合いが続く状態だった。
そんな中、対話の場を設けたのは皇国の皇女であり、女ながらも跡目を継ぐと言われているファンシール皇女だった。使節団として来るのも彼女とのことで、まだ十八の少女だという。
だがこの件は皇帝から彼女に一任されており、つまりは彼女が全権を握っていると云っても過言ではない。
彼女の考えでは戦争の勃発も有り得るだろう。
とにかく皇国の者は気位が高い。だがこちらも下手に出る気はない。あのエリシアに傷を付けたのだから皇国など潰してやると兵の士気は上がっているが、そういう問題ではない。
とりあえず下手に機嫌を損ねないように。
と、誰もが身構えていた。
だが、使節団の先陣を切って歩いてきた彼女は、国王を前にするなり臣下の礼を取った。
「皇国第一皇女がファンシールと申します。此度は突然の来訪の申し込みにも関わらず受け付けてくださり、誠に感謝致します」
さすがにこの言葉は予想していなかったのか、情けなくも国王はもどもどになっていた。
それにため息をつきながら代わりに対応をしたのは勿論、国王の右腕である宰相のモランだった。
「ファンシール皇女、遠いところを遥々良く来て頂いた。まずは中へお入りを」
「お気遣い感謝致しまする」
さぁ、とモランが案内しようとした時、エリシアの見舞いで遅れたエルステーネがやって来た。
「エルステーネ!」
「モラン様。も、もうお着きになっていらしたのね。出迎えも出来ずに申し訳ございません」
明らかにファンシール皇女と分かる彼女に、エルステーネは頭を下げた。それに皇女も頭を下げ返す。
「いいえ。出迎えなど、…本当に感謝致します」
「エルステーネ…王女、彼女が」
「ファンシール皇女様ですね。初めまして、ミリガン王国第二王女のエルステーネと申します」
「…お久しぶりです、エルステーネ王女」
ーー久しぶり?
どういうことだろう、とエルステーネが顔を上げーーただ、絶句した。
そこにいたのは、あの馬鹿王の隣で震えていた少女だったのだ。
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