43 / 102
【第三章】 旧校舎で肝試し
第39話 真相の断片
しおりを挟む「呼ばれて飛び出て~、ローズ・ナミュリーで~す! 元気にしてた? あたしは~、超元気! あはっ!」
呼んでもいないのにやたらと陽気に登場する相手も、二度目ともなれば慣れてくる。
毎日が慌ただしいから、夜くらいは静かに寝かせてほしいものだが。
「あたしに会いたかったでしょ~? そうなんでしょ~? もしかしてあたしに会いたすぎて、お昼寝しちゃってたりして。でも残念、この魔法は夜にしか仕込んでないから、いくらお昼寝しても、昼にはあたしと会うことが出来ないの。一説によると、会えない時間が愛を育てるらしいから、日中はあたしへの愛をあなたの胸の中で育ててねっ!」
私は会いたかったとも、ローズを愛しているとも、言っていない。一言も言っていない。
冷静にツッコもうとして、このローズはただの記録魔法であり話は通じないと、昨日の夢で言われたことを思い出した。
ということは、ローズは相手の反応も無いのに一人でこの記録魔法を用意しているということか。
メンタル強っ!?
「そうそう、あたしとは、あたしが予定した以上に会うことは出来ないけど、その逆はありえるのよね。つまりあなたが夜に寝なかった日は、その日に見る予定だった記録魔法は見られないの。この記録魔法は日付ごとに仕込んでるから、見なかった記録魔法は翌日に繰り越しになるんじゃなくて、一生見られなくなっちゃうんだよね。せっかく仕込んだのにむなし~い! あなたもあたしに会える機会が減って悲し~い!」
そんな大事なことは、最初の日に言っておいてほしい。
うっかり、若い身体は徹夜をしても元気なのか!?なんて馬鹿なことを試さなくて良かった。
「だから、夜にはちゃんと寝てね? あなたも情報が少ないと困っちゃうでしょ?」
言いながら、ローズはぱちりとウインクをしてみせた。
ローズは変な人だけど、顔だけはものすごく良い。
私がローズと同年代の男子だったら、今のウインクだけで骨抜きだっただろう。
「前置きはこの辺にして。何から話そうかな。あたしに成り代わるんだから、あたしの情報が必要よね。今は記憶喪失とか何とか言って誤魔化してるんだろうけど、いつまでもそうしていられるわけじゃないしね~」
そういえば私は原作ゲームをプレイしているから何とかローズとして生活できているが、何も知らなかった場合は記憶喪失ということにするしかないのか。
しかし、ある朝起きたら記憶喪失になっていた、というのは、かなり無理のある話だ。
絶対に不信感を抱かれるだろうから、原作ゲームをプレイしておいて本当に良かった。
「あたしローズ・ナミュリーは、ナミュリー家の公爵令嬢であり、エドアルド王子殿下の婚約者。つまり、この国の王妃候補ってことね。まあ、エドアルド王子殿下にはお兄さんがいるから、お兄さんが即位する可能性の方が高いんだけど。でも王宮って、す~ぐ毒殺されちゃうからさ~、未来なんて分かんないよね~? 果たして第一王子は生き延びられるのか!? 王宮の未来やいかに!?」
私が考えごとをしている間にも、ローズの話はどんどん進んでいく。
この設定は知っているが、ローズはどさくさに紛れて物騒なことを言っている。
「……で、あたしに成り代わるにあたって一番の障害が、使用人のナッシュなのよね~。いつの間にか学園にもあたしの付き人として潜り込んでたし。この学園で誰よりもあたしのことを知っているのがナッシュ。つまりナッシュを騙せれば、勝ったも同然よ! ヤッタネ!」
一体何に勝つというのか。
私がそんなツッコミを入れている間に、ローズが急に真面目な顔つきになった。
「ナッシュの一家がずっとあたしの家に仕えているから、ナッシュとあたしは幼馴染でもあるの。無邪気な子どもの頃は一緒に遊んでいたわ…………あの事件が起こるまでは」
これまでのおちゃらけた様子が嘘のように、淡々とした語り口でローズは話を続ける。
「ある日、あたしたちは、木の上に登って降りられなくなっている子猫を見つけたの。ナッシュは大人を呼んでくるって言ったんだけど、あたしは一刻も早く子猫を助けたかったの。だからナッシュに、あなたが木に登って助けて、って頼んだの。まだ子どもとはいえ、ナッシュは使用人一家の中で育っているから、あたしの頼みを断れなかったのかもね。木登りなんかしたこともなかっただろうに、ナッシュは木に登り始めたわ」
ああ、嫌な予感がする。
『事件』というからには、この後の展開は決して良いものではないのだろう。
「なんとか子猫を捕まえることは出来たんだけど、木の上でナッシュはバランスを崩したの。そして落ちた……木の下で待つ、あたしの上に」
ローズは話しながら自身の後頭部を触った。
「運の悪いことに、近くには大きな石があってね……あたしは後頭部を石に強く打ち付けて、気を失ったわ。後で聞かされた話だと、あたしの頭からは血が大量に出ていて、治療をしたお医者様はお手上げだと言っていたらしいの」
ローズは公爵令嬢だ。
彼女のことは腕の良い医者が診たに違いない。
その医者がお手上げだということは、つまりそういうことだろう。
しかし……ローズは高校生まで成長している。
この時点では、死ななかったはずだ。
「みんながあたしの最期を悲しんでいる間、あたしの意識は地獄のような場所にいたの」
ローズはいきなり突拍子もないことを言い出した。
死の淵でお花畑を見るという話は聞いたことがあるが……地獄?
まだ息を引き取ってもいない段階で、少し気が早いのではないだろうか。
「地獄のような場所は、全てが白黒の世界だったわ。そこにいる魔物もみんな白黒だった。そしてここに居続けたら、あたしもあの魔物たちのようになるって直感的に分かったの。だからあたしは『元の世界に帰りたい』『あたしの怪我はナッシュのせいにされているだろうから、そうじゃないって伝えたい』『生き返りたい』そう強く念じたの」
ローズは後頭部を触っていた手を、いつの間にか胸元へと移動させていた。
そして両手で心臓のあたりを押さえる仕草をした。
「すると、自分の中の魔力が吸い取られる感覚があって……気が付くと、目の前に赤い扉が現れていたわ」
…………赤い扉?
「あたしは迷わず扉を開けたわ。どうしてかは分からないけど、開けるべきだと思ったの。扉の向こうには、色のついた世界が広がっていた。今いる場所が地獄だと思っていたあたしは、扉の向こうの世界へと踏み出したわ。すると扉は消え、あたしは白黒の世界から色のついた世界へと抜け出していたの。そして、その世界では声が聞こえたわ。よく知るみんなの声……ここで幻想の世界は終わり。あたしは現実世界で目覚めた」
よく分からないが、奇跡の生還を果たしたということだろうか。
医学のそれほど発達していないこの世界で死の淵から蘇ることが出来たのは、奇跡と言えるだろう。
「あたしが死んだと思っていた両親やお医者様は、あたしが目を開けたことで、歓喜の声を上げたわ! ……ナッシュは部屋の隅で泣いていたわね」
ローズが困ったように溜息を吐いた。
話の最初にローズは「この事件が起こるまではナッシュと一緒に遊んでいた」と言っていた。
つまりこれ以降は、ナッシュと遊ぶような仲にはなれなかったのだろう。
「まあ、そんなこんなで無事に目覚めたあたしだけど、あの白黒の世界をただの夢だと結論付けるには、おかしな点があった。目覚めたあたしの髪が、真っ黒になっていたの。目覚める前までは真っ赤な髪だったのに。これは、あたしがあの白黒の世界に干渉してしまった後遺症だと思うわ」
ナッシュも、ローズの髪が昔は真っ赤だったと言っていた。
だからローズの言う白黒の世界が何なのかは分からないが、この事件でローズの髪の色が変わったことは事実なのだろう。
「つまり~、学園では『黒薔薇の令嬢』なんて呼ばれているけれど、元々は真っ赤な髪の可愛い女の子だったの。だけどこの一件以来、黒髪になったことで、あたしは……『可愛い』から『美しい』女の子になっちゃったってわけ! どうあっても隠せない自分の顔の良さが怖いわ~!」
真剣な顔で語っていたローズは、いきなりケラケラと笑い始めた。
真面目とおふざけの緩急がすごい。
「それに困ったことに…………って、ごっめ~ん。もう時間みたい!」
ローズは時計でも用意していたのか、いきなり話を打ち切った。
「今回はかなり重大なことを話したから、ちゃんと覚えておいてね~? ま、あたしの話に重大じゃない部分なんて一つもないんだけどね~?」
「待って! もっと情報をちょうだい!」
意味が無いと分かりつつも、私はローズを引き留めようとした。
しかし無情にもローズの姿は薄くなっていく。
「じゃあまた、次の夜に会いましょ~!」
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
悪役令嬢の物語は始まりません。なぜならわたくしがヒロインを排除するからです。
霜月零
恋愛
わたくし、シュティリア・ホールオブ公爵令嬢は前世の記憶を持っています。
流行り病で生死の境を彷徨った時に思い出したのです。
この世界は、前世で遊んでいた乙女ゲームに酷似していると。
最愛のディアム王子をヒロインに奪われてはなりません。
そうと決めたら、行動しましょう。
ヒロインを排除する為に。
※小説家になろう様等、他サイト様にも掲載です。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故
ラララキヲ
ファンタジー
ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。
娘の名前はルーニー。
とても可愛い外見をしていた。
彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。
彼女は前世の記憶を持っていたのだ。
そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。
格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。
しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。
乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。
“悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。
怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。
そして物語は動き出した…………──
※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。
※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。
◇テンプレ乙女ゲームの世界。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げる予定です。
悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜
水月華
恋愛
レティシア・ド・リュシリューは婚約者と言い争いをしている時に、前世の記憶を思い出す。
そして自分のいる世界が、大好きだった乙女ゲームの“イーリスの祝福”の悪役令嬢役であると気がつく。
母親は早くに亡くし、父親には母親が亡くなったのはレティシアのせいだと恨まれ、兄には自分より優秀である為に嫉妬され憎まれている。
家族から冷遇されているため、ほとんどの使用人からも冷遇されている。
そんな境遇だからこそ、愛情を渇望していた。
淑女教育にマナーに、必死で努力したことで第一王子の婚約者に選ばれるが、お互いに中々歩み寄れずにすれ違ってしまう。
そんな不遇な少女に転生した。
レティシアは、悪役令嬢である自分もヒロインも大好きだ。だからこそ、ヒロインが本当に好きな人と結ばれる様に、悪役令嬢として立ち回ることを決意する。
目指すは断罪後に亡命し、新たな人生をスタートさせること。
前世の記憶が戻った事で、家族のクズっぷりを再認識する。ならば一緒に破滅させて復讐しようとレティシアには2つの目標が出来る。
上手く計画に沿って悪役令嬢を演じているはずが、本人が気が付かないところで計画がバレ、逆にヒロインと婚約者を含めた攻略対象者達に外堀を埋められる⁉︎
更に家族が改心して、望んでいない和解もさせられそうになるレティシアだが、果たして彼女は幸せになれるのか⁉︎
【完結】地下牢同棲は、溺愛のはじまりでした〜ざまぁ後の優雅な幽閉ライフのつもりが、裏切り者が押しかけてきた〜
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
悪役令嬢の役割を終えて、優雅な幽閉ライフの始まりだ!! と思ったら、なぜか隣の牢との間の壁が崩壊した。
その先にいたのは、悪役令嬢時代に私を裏切った男──ナザトだった。
一緒に脱獄しようと誘われるけど、やっと手に入れた投獄スローライフを手放す気はない。
断れば、ナザトは「一緒に逃げようかと思ったけど、それが嫌なら同棲だな」と言い、問答無用で幽閉先の地下牢で同棲が開始されたのだった。
全4話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる