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第一部 青蝶編
5 ガラが悪いエリートの卵たち
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団長はきまじめな顔をして、地面で転がる水着男に軽く頷き、再びみんなに向き直った。
「これからは俺浅羽と山田が白月チームを引っ張っていく。何か困ったことがあったら俺らに相談するようにしてくれ」
おお、思いのほか信用できそうな先輩という感じだ。ヤンキーの世界に入れられてしまうのかとビビっていたが、ちょっと安心感があるな。頼もしい先輩って感じだ。
「あと、1年は手を挙げろ」
なんだ? 今度は何が始まる? 俺はおそるおそる手を挙げた。ほかの1年の生徒たちも完全にびびった顔をしていて、みんな挙手する肘が曲がっている。ざっと数えて30人ぐらいいるようだ。
「かぅわいそー」
水着男の山田が寝っ転がったまま叫んだ。団長が苦笑する。
「1年はまだ知らないだろうが、白月チームは、校内の問題児、落ちこぼれが集められている」
まあ、そうだろうなという気はしていた。ランダムに組分けをしたとはとても思えない顔ぶれだった。これは教師による恣意的なチーム分けなのだろう。俺は不登校ぎみなので白月入りとなったのだと思う。
はっ、と息を吐き出した。
俺は落ちこぼれ、か。確かにな。勉強もついていけないし、休みがちだし、校風にもなじめない。そりゃ落ちこぼれだって教師たちも思うよな。
俺は奥歯を強く噛みしめた。
「おまえたちは落ちこぼれだ、負け組だ、学校の恥だ。明日からそういうことを言われる日々が始まるだろう」
絶句した。さすがにひどすぎないか?
「俺らが白月に入れられたということは、教師たちは俺らをそういう目で見ているということであり、俺らへの宣戦布告でもある」
生徒への評価を体育祭に持ち込むとか陰湿すぎないか? 大人としてどうなのか?
「こんなのは間違っている。もっとはっきりと言わせてもらえば、むかつく。そうだろう」
そうだ、そうだの声が上がった。団長は深く頷いた。
「やってやろうぜ。白月チーム!」
団長が声を張ると、水着男が拳を空に向かって突き上げた。その白く細い腕には、まっすぐに天を突く勢いと力強さがあった。
沸き起こる拍手。少し遅れて大きな喝采。感じたぜバイブス、解き放てソウル、震わせろ大地。なんかそういう雰囲気だ。俺もほかの生徒たちと一緒になって熱い拍手をした。なんだかよくわからないテンションですっかり盛り上がってしまったのだ。
それでいて頭の一部は冷めていた。やってやろうぜって、体育祭を本気で頑張る気なのか? 落ちこぼれ認定されている俺たちが、体育祭を頑張って何になるんだ? そう心の中では思っていた。
このとき俺は「やってやろうぜ」の意味を完全に誤解していたのだった。
気を吐く白月チームであったが、グラウンドにいる他チームがこちらを見ているのに俺は気づいていた。
俺たちを見下しているかのような、冷たい視線だった。
グラウンドに教師たちが出てきた。両手に紙袋を提げており、それぞれのチームにところまで届けてくれた。中にはハチマキが入っていた。
よそのチームの生徒たちは、受け取るやいなや即座に頭にまいた。
黄鹿チームは、黄色の生地に、鹿の描かれたハチマキだ。
赤猪チームは、赤にイノシシ。
緑鳥チームは、緑に鳥。
青蝶チームは、青地に蝶々。
白月チームのハチマキは白無地だった。何のマークも描かれていない。ホワイトムーンなんだから、月のマークが入っているのかと思ったのだが。
生徒たちは、もらった白ハチマキをそのままポケットに突っ込んでしまい、誰も身につけようとしない。よそのチームと対照的だ。
一体どういうことなのか。俺の隣であぐらをかいている上級生っぽい女子に聞いてみた。
「ああ、ハチマキね、つける気にならないよね。だってひどいんだもん。昼《ひる》行灯って言葉があるじゃん。昼間についている照明。何の役にも立たないって意味。私らは昼の月ってわけ。役立たずだから全然光ってないし、姿も見えない。存在が見えないんだから無地でいいんだってさ」
どこまでも馬鹿にしている。もともと不登校な俺だったが、本気でこの高校に登校するのが嫌になってきたぞ。
チーム分けが行われた翌日、いじめられるのかと警戒しながら登校したが、特に何も起こらなかった。授業も問題なく受けられた。誰かから誹謗中傷されることもない。拍子抜けした。
だが、放課後になり、生徒たちがハチマキを身につけてそれぞれの体育祭チームのミーティングに行く時間になると、状況が一変した。
鞄から白いハチマキを取り出した俺を、クラスメートたちは指さした。
「おい、見ろよ、あいつ」
「うわ、白月じゃん、まともな生徒じゃないってことか。どんな悪いことやったんだろ」
「万引きとか?」
「え、最低」
クラスメートたちが早速あらぬ噂話を始めた。白月チームはディスってヨシ、そう先輩たちから教わっているのだろうか。
「あのさあ、俺は万引きとかしてないから」
そう反論しても、にやにや笑うだけで話にならない。
「白月のくせに反論するなんて生意気だな」
「はあ?」
気付けばクラスメートに囲まれていた。彼らの顔に浮かぶのは、嘲笑。
「白月のくせに」
「白月の分際で」
「白月ならわきまえろ」
なんなんだよ、学校が勝手に決めたチーム分けごときで。いいかげんにしろよ、こいつら。
「おまえらさ、そういうのってダサいと思わねえの?」
誰かが俺の肩を突き飛ばした。くそ、ふざけんなよ。
「これからは俺浅羽と山田が白月チームを引っ張っていく。何か困ったことがあったら俺らに相談するようにしてくれ」
おお、思いのほか信用できそうな先輩という感じだ。ヤンキーの世界に入れられてしまうのかとビビっていたが、ちょっと安心感があるな。頼もしい先輩って感じだ。
「あと、1年は手を挙げろ」
なんだ? 今度は何が始まる? 俺はおそるおそる手を挙げた。ほかの1年の生徒たちも完全にびびった顔をしていて、みんな挙手する肘が曲がっている。ざっと数えて30人ぐらいいるようだ。
「かぅわいそー」
水着男の山田が寝っ転がったまま叫んだ。団長が苦笑する。
「1年はまだ知らないだろうが、白月チームは、校内の問題児、落ちこぼれが集められている」
まあ、そうだろうなという気はしていた。ランダムに組分けをしたとはとても思えない顔ぶれだった。これは教師による恣意的なチーム分けなのだろう。俺は不登校ぎみなので白月入りとなったのだと思う。
はっ、と息を吐き出した。
俺は落ちこぼれ、か。確かにな。勉強もついていけないし、休みがちだし、校風にもなじめない。そりゃ落ちこぼれだって教師たちも思うよな。
俺は奥歯を強く噛みしめた。
「おまえたちは落ちこぼれだ、負け組だ、学校の恥だ。明日からそういうことを言われる日々が始まるだろう」
絶句した。さすがにひどすぎないか?
「俺らが白月に入れられたということは、教師たちは俺らをそういう目で見ているということであり、俺らへの宣戦布告でもある」
生徒への評価を体育祭に持ち込むとか陰湿すぎないか? 大人としてどうなのか?
「こんなのは間違っている。もっとはっきりと言わせてもらえば、むかつく。そうだろう」
そうだ、そうだの声が上がった。団長は深く頷いた。
「やってやろうぜ。白月チーム!」
団長が声を張ると、水着男が拳を空に向かって突き上げた。その白く細い腕には、まっすぐに天を突く勢いと力強さがあった。
沸き起こる拍手。少し遅れて大きな喝采。感じたぜバイブス、解き放てソウル、震わせろ大地。なんかそういう雰囲気だ。俺もほかの生徒たちと一緒になって熱い拍手をした。なんだかよくわからないテンションですっかり盛り上がってしまったのだ。
それでいて頭の一部は冷めていた。やってやろうぜって、体育祭を本気で頑張る気なのか? 落ちこぼれ認定されている俺たちが、体育祭を頑張って何になるんだ? そう心の中では思っていた。
このとき俺は「やってやろうぜ」の意味を完全に誤解していたのだった。
気を吐く白月チームであったが、グラウンドにいる他チームがこちらを見ているのに俺は気づいていた。
俺たちを見下しているかのような、冷たい視線だった。
グラウンドに教師たちが出てきた。両手に紙袋を提げており、それぞれのチームにところまで届けてくれた。中にはハチマキが入っていた。
よそのチームの生徒たちは、受け取るやいなや即座に頭にまいた。
黄鹿チームは、黄色の生地に、鹿の描かれたハチマキだ。
赤猪チームは、赤にイノシシ。
緑鳥チームは、緑に鳥。
青蝶チームは、青地に蝶々。
白月チームのハチマキは白無地だった。何のマークも描かれていない。ホワイトムーンなんだから、月のマークが入っているのかと思ったのだが。
生徒たちは、もらった白ハチマキをそのままポケットに突っ込んでしまい、誰も身につけようとしない。よそのチームと対照的だ。
一体どういうことなのか。俺の隣であぐらをかいている上級生っぽい女子に聞いてみた。
「ああ、ハチマキね、つける気にならないよね。だってひどいんだもん。昼《ひる》行灯って言葉があるじゃん。昼間についている照明。何の役にも立たないって意味。私らは昼の月ってわけ。役立たずだから全然光ってないし、姿も見えない。存在が見えないんだから無地でいいんだってさ」
どこまでも馬鹿にしている。もともと不登校な俺だったが、本気でこの高校に登校するのが嫌になってきたぞ。
チーム分けが行われた翌日、いじめられるのかと警戒しながら登校したが、特に何も起こらなかった。授業も問題なく受けられた。誰かから誹謗中傷されることもない。拍子抜けした。
だが、放課後になり、生徒たちがハチマキを身につけてそれぞれの体育祭チームのミーティングに行く時間になると、状況が一変した。
鞄から白いハチマキを取り出した俺を、クラスメートたちは指さした。
「おい、見ろよ、あいつ」
「うわ、白月じゃん、まともな生徒じゃないってことか。どんな悪いことやったんだろ」
「万引きとか?」
「え、最低」
クラスメートたちが早速あらぬ噂話を始めた。白月チームはディスってヨシ、そう先輩たちから教わっているのだろうか。
「あのさあ、俺は万引きとかしてないから」
そう反論しても、にやにや笑うだけで話にならない。
「白月のくせに反論するなんて生意気だな」
「はあ?」
気付けばクラスメートに囲まれていた。彼らの顔に浮かぶのは、嘲笑。
「白月のくせに」
「白月の分際で」
「白月ならわきまえろ」
なんなんだよ、学校が勝手に決めたチーム分けごときで。いいかげんにしろよ、こいつら。
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