性悪エリート高校の「たのしいうんどうかい」

ゴオルド

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第一部 青蝶編

11 学内カチコミ

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 クラスでいじめられているという倉持《くらもち》は、1年2組だそうだ。俺は1組だから、隣のクラスってことになるな。

 話を切り上げると、副長は大股で渡り廊下を戻り、教室棟へと入った。俺たちも置いていかれないよう早足で後を追う。

 1年の教室は3階だ。副長は階段を数段抜かしで伸び上がるようにのぼっていき、その勢いのままドアをあけた。どこか弛緩した空気の漂う放課後の校舎に、ドアの乱暴に開けられた音は大きく鋭く響いた。それは周囲を威圧する発砲音にも似ていた。

 教室に残っている生徒はまばらだった。それでも、10人近くいる。

 副長はずかずかと無遠慮に教室に入っていき、教卓に手をつくと、
「俺はなあ、偏差値は75だし、学年トップで、さらにIQは130あるんだぜぇ」
 そう宣言した。

 謎のカミングアウトにあっけにとられている生徒たち一人一人を睨み付けていく。

 突然あらわれた金髪男の意味不明な奇行に怯えていた生徒たちだったが、ドアにしがみついて中を覗いている俺たちに気づき――正確には俺が頭にしている白いハチマキに気付いたようで、一気に喧嘩腰になった。

「おまえ、白月はくつきかよ!」
「落ちこぼれのくせに、一体なんの用がっ……」

 顔を近づけてすごんできた生徒を、副長は突き飛ばした。生徒が床に倒れ込む。それを皮切りに、副長は手当たり次第に生徒をどついてまわった。

「このクラスの倉持蒼太に……オモチに手ぇ出すなよ。もし手を出すようなことがあったら、また偏差値で殴りに来るからなぁ」
 そう言いながら、向かってくる生徒を物理的にどついていた。

「二度とオモチに嫌がらせとかするんじゃねえぞお」
 忌々しげに睨みつけてくる男子の胸ぐらをつかんで、突き飛ばす。副長は体の厚みがない体型なわりに力があるようだ。

 副長の偏差値75かつ学年トップというのが本当なら、この暴行?はおとがめナシとなる可能性が高い。なんせこの高校では偏差値こそが正義の基準である。それがわかっているから、生徒たちは反撃しない。
 もちろん副長は白月だから、白月が相手なら、他のカラーのチームのほうが地位は上かもしれなかった。
 だが、実際のところは不明だ。IQ130というのも、学園側がどう評価するかわからない。反撃して乱闘に発展した場合、学園から責められるのは他カラーの生徒のほうということも十分あり得た。この学園では何もかもが教師のさじ加減ひとつなのだ。

 反撃しても大丈夫かどうかわからない。わからないから、生徒たちは誰も手を出せない。睨みつけたり顔を近づけようとしたりするのがせいぜいだ。自分たちは絶対に安全だと保障されないかぎり、喧嘩もできない。リスクをとれない。

「やっぱり僕は景条館には馴染めないよ……学園側にも、白月側にも……」
 俺のとなりでドアにしがみついている委員長が顔をしかめて、そんなことを呟いた。イドは興味なさそうに、倉持――オモチははらはらとした顔で成り行きを見つめている。

 俺は――、俺はもっと偏差値が高かったら、副長と一緒にどついて回れたのになあと思っていた。
 大体なんでいじめられている側が白月入りするんだよ。いじめているほうを白月入りさせろよ、いじめるやつのほうが本物の落ちこぼれだろうが。本当にクソだな。


 そういえば。ふと疑問を抱いた。副長はどうして白月入りしたんだろうか。偏差値が75もある学年トップらしいのに。



 親睦会という名のカチコミを終えて、その日はひとまず解散となった。

「これから副長の俺と、ゼクウと、委員長とイドとオモチ、以上の男5人で活動することになるからなぁ、よろしくなぁ」
 委員長は仏頂面で頷き、イドはどうでも良さそうな顔で聞き流し、オモチはそっと俯いた。
 俺は偏差値が低いのにもかかわらず、もはや当たり前のようにチーム入りしているが、不満はないので黙っていた。


 別れ際、副長は「明日から忙しくなるから覚悟しとけよぉ。じゃあ、対団長班、解散」と言って、帰っていった。




  翌朝。
 登校したら、俺の机がなくなっていた。椅子もない。クラスメートたちが俺を見てくすくす笑っていた。

「誰だよ? 俺の机と椅子を隠したやつは」

 教室中に向かって問いかけると、皆、にやにやしながら「知らない」としらを切った。

 こういうことをされたとき、普通の高校なら教師に言ってどうにかしてもらうものなのだろう。実際、テストで良い成績を取った生徒は机を隠されるたび、教師に泣きついていた。

 が、景条館をクソだと思っていて、まるで馴染めない俺は、こんなことで教師に泣きつく気はない。もちろん俺は白月だから、教師に言ったところで無駄だろうなってのもあるが。

 さて、どうしたものか考えていたらホームルームの時間になってしまった。
 担任の蛾棟がとうが教室に入ってきた。
 俺はとりあえず床にあぐらを組んで、腕も組んで、担任の話を聞くことにした。蛾棟《がとう》は俺が床に座っているのを見たが、特に何も言わなかった。それどころか、嬉しそうににやっと笑ってみせた。ああ、生徒同士で足の引っ張り合いをしているのだな、校長の言いつけを守っていて感心感心、そんなふうに思っていることだろう。
 校長のいいつけか。くそう。

 ホームルームが終わると、すぐさま1限の授業が始まってしまった。国語だ。若い男の教師は、俺を見て眉をひそめたが、何も言わずに授業を始めた。
 この学園で教師としてやっていくには、奇妙な光景を見てもスルーする能力がもっとも重要なんだろうな。

 1限が終わり、俺は屋上へ行った。
 本来屋上は立ち入り禁止だが、もちろん高偏差値の生徒は出入り自由なので、秀才たちが机と椅子を持ち込んでいるのだ。屋上は、飲みかけのペットボトルや菓子パンの袋、タバコの吸い殻なんかが散乱していた。そのゴミの海で、机と椅子が難破している。うわ、この机、ケチャップがついてるじゃん、こっちの椅子に付着しているのは鼻くそか? 最悪だな。

 俺は汚れていなさそうな机と椅子をかっぱらい、サイエンス棟で消毒薬を借りてきて机と椅子を消毒すると、2限の半ばで教室に戻った。

 教室に戻ると、今度は俺の鞄がなくなっていた。
「クソが!」
 思わず叫んでしまった。

「ちょっと、授業の邪魔をしないでよ」
 教師から睨まれた。今は英語の授業中だった。アメリカに語学留学したことがあるとかで、英語の発音が流暢すぎて何を言ってるのか全然聞き取れない上にスラングまで混ぜてくる血も涙もない女性教師が、非難を込めた視線を俺に向けている。
「だいたい何なのよ、その机と椅子は」
「机と椅子を隠されてしまったんです。それで、机と椅子を取って戻ってきたら、今度は俺の鞄がなくなっていて……」
「あなた、白月チームなんじゃないの?」
 俺の説明を遮り、教師は確認してきた。
「そうですが」
「なら、白月に入れられるほうが悪いわね。嫌がらせをされたくないなら、我が校にとって役立つ人材であればいいだけよ。役立たずのゴミだから、そういう目に遭うのよ」
 教室中から拍手があがった。大きな拍手だった。


 俺は教室を出て、鞄を探しにいった。教室棟の脇の排水溝に投げ込まれていた。ここ数日は晴天続きで、排水溝は乾いていたから鞄が汚れずに済んだのが幸いだった。

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