この島に優しい風が吹きますように

ゴオルド

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第37話 冬

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 セラージュは本格的な冬を迎え、スウミは王都支店の1階カウンターで帳簿を広げ、頭を抱えていた。

 依頼の減少が予想以上なのだ。

 やはり王と王妃逝去の影響が大きかった。自粛ムードが広がり、貴族の屋敷で開かれるパーティーが減ってしまったのだ。パーティーが減れば、清掃依頼も減ってしまう。
 エルド王子の即位式は年明けにあるから、そこで盛り返してくれるかもしれないが、あまり期待できない。おそらく即位式はお祭り騒ぎのような雰囲気ではなく、厳かな静けさに包まれたものとなるだろう。

(今ごろ王子はどうしているだろうか)

 ついエルド王子のことを考えそうになって、慌てて頭を振って仕事のことに集中する。

 借金返済について試算してみた。このまま行くと借金の返済はできないことははっきりしている。今は2店で平均して1日に6依頼というところだが、返済のためには7依頼は欲しい。早急に手を打たなければならない。

 それとは別に、デルファン本店も問題を抱えていた。本店移転で家賃が発生したのは大ダメージであったが、それだけでなく社員が何人か辞めてしまったのだ。父が亡くなってから職場の雰囲気が変わってしまい、人間関係のあつれきが表面化したようだ。仕事でミスも増えているし、その弁償費用なども増加している。

 それに、残念なことにマルヤとタイリル姉妹も辞めてしまった。親御さんの介護のために仕事を続けられなくなってしまったのだ。こればかりは仕方がないので引き留めることなどできなかった。お世話になった二人に自分ができることがないか考え、少ないけれどお金を包んだ。こんなことしかできないのが歯がゆいが、二人は目に涙を浮かべて喜んでくれた。

 デルファン本店の今後については、以前デルファトル家で使用人頭として働いていたという高齢の女性に頼みこんで働きにきてもらうことにした。朗らかな性格で、しめるところはしめ、部下達の信頼も厚かったと聞いている。彼女が職場の雰囲気をよくしてくれることを祈るしかない。

 肝心の売り上げアップについては……。
「どうしたらいいの……」

 本当はわかっている。ケブル支店を立ち上げるのだ。それしかないと思う。前回視察に行ったとき、普通の屋敷ではなく港や市場のほうに商機があるように思えた。ケブルには軍港もあるので、軍の下請け仕事も見つかるかもしれない。冬の港町での屋外清掃は体力的にハードなものとなるだろうが、伝説野菜で強化された体力自慢のスウミが行けば問題ない。

(滅多に王都には戻ってこられなくなるだろうけれど)

 王都からケブルまでは馬で4日、往復なら8日もかかるのだ。王都を離れるのはつらい。それが完全な私情で、仕事に持ち込むべきではないとわかっていても心は乱れた。



 ある冬の朝、王城から使者がやってきた。

 エルド王子からの手紙を渡され、その場で開封すると、「会いたい。いつならいいかを使者に伝えろ」と書いてあった。スウミが日にちを伝えると、使者は帰っていった。

 数日後。それは小雪の舞う夕方のことだった。玄関のドアをノックされ、開けてみるとエルド王子本人が立っていて、スウミは目を丸くした。

「迎えに来た」

 手を取られて外に出ると、雪の中、馬車がドアを開けて待っていた。ほかに騎士や警備の兵たちが馬車を取り囲むようにして待機しており、かなり物々しい雰囲気だった。自分たちのせいで彼らの仕事を増やしてしまったのに違いない。申し訳ない気持ちになり、急いで馬車に乗り込んだ。
 馬車が動き出すと、二人きりの車内で、寒くないかと気遣って膝掛けを渡してくれた。ケブルでは紳士のように振る舞っていた王子だけれども、今日もそうみたいだ。なら、今度は茶化さず、自分も淑女のように振る舞ってみよう。

(ケブルに行く前に、1日ぐらいそういう日があっても悪くないでしょう)

 王城で馬車をおりると、なぜかエルド王子と別行動になった。「またあとでな」と言われて、スウミは女性軍団に引き渡されてしまったのだ。驚いたことに、その女性軍団の中には仕立て屋の女性がいた、というか先頭に立って指揮を執っていた。

「最高傑作ができたわよ」

 強引に腕を引っ張られて、以前採寸した部屋へと連行されてしまった。そこからはもう完全にスウミの意思など無視だ。服を脱がされ、香油を肌にすり込まれ、髪を執拗にブラシがけされることになった。
 これは一体何事……と困惑するスウミだったが、「さあ、ごらんなさい」と仕立て屋が別室から持ってきたものに目を奪われた。
 そのドレスは、さわやかな秋の青空みたいな色をしていた。裾に何重ものひだのある豪華な作りで、ところどころに白い模様が入ることで軽やかさを出したデザインとなっている。腰と腕は細く絞られて、こちらにも白い模様が入っていた。
 以前採寸したドレスが完成したのだ。それはおしとやかな令嬢が着るようなドレスというより、お転婆な女性のためのドレスという感じがして、一目で気に入ってしまった。
「着てみて」
 ドレスを手にとり、躊躇した。
「私、これを着てはいけない気がします。だってドレス代を払っていないんです」
「お代ならいただいてます。それに、これはあなたの体型に合わせて縫ってあるのよ。私たち職人の苦労を無駄にするつもり?」
 そう言われると辛いものがある。
「さあ、着たところを見せて。それが私たちの喜びなんだから」
 もう観念するしかなさそうだ。
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