アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy

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11 説明と検討

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 何とも期待を込めたような目つきの娘の髪を撫で、話をしてやることにする。
 この日はもう、あとは寝るだけだ。理解できようができまいが、寝物語よろしく聞かせているうちに、眠りに落ちていくだろう。
 そう考え、ライナルトは自分の知識を整理するつもりも加えて、順に語っていった。

 人は誰でも、魔法を使える。
 それぞれ生まれつき授かった適性「火」「水」「光」「風」のどれかを使うことができる。
 その力の強さに個人差はほとんどなく、たいてい一度に出せるのは「火」「水」なら大人の拳大程度。「風」はよく見えないが、同じくらいの大きさを飛ばせるかというところ。「光」は小さなテーブルの上を照らせる程度。どれも、せいぜい十ミン(秒)くらいの長さ続けられるかどうか。
 一度に出せるのはそれくらいだが、体力か何かの許す限り、少し間を置いて続けることはできる。平均的な体力で一日二十~三十回くらい、水ならうちの水瓶の三分の一溜められるか、というところだろう。
 このうち、火と水は攻撃のようなことに使える。
 今俺は火と水を使える仲間を連れて狩りに行っているのだが、四人の魔法をぶつけて、猪や熊などを実際傷つけることはできないが、出足を緩める効果は上げている。足が鈍ったところを見計って、大剣で仕留めるわけだ。
 この点、魔法の威力みたいなものは、知る限り何処の誰でもそれほど大差ない。訓練を積んだ者が多少威力を上げ、要領を掴むことで攻撃効果を高められるか、といったところだ。
 光と風でも攻撃に使えないことはないが、相手をびっくりさせることができるか、という程度だろう。
 ――といったことを、話す。

「オータ、ひ?」
「ん、ああ。俺の適性は、火と光だ」
「ふたちゅ?」
「ああ、ごくたまに、二つ適性を持つ者がいる。どちらかというと、貴族に多いと言われるな」
「きじょく?」
「ああ、何て言うか、国の偉い人のことだ」
「ふうん」

 目をぱちくりさせて、まるで深く考えるかのような顔になっている。
 両手を上下し、ぱふぱふとライナルトの腕を叩く。

「オータも、きじょく?」
「いや、今の俺は違うが」

 まず、ちゃんと話に沿った問い返しがされたことに、驚いてしまう。
 さらにこれが、「父は二つ適性を持つ」「二つ適性は貴族に多い」という説明から導かれた疑問なのだとしたら、驚きなどというものではないが。
 まあおそらくは、初めて聞いた言葉をくり返してみただけなのだろう、と思う。
 それでも元来生真面目な性格のライナルトは思わず、必要とも思えない追加説明を続けていた。

「一応、父親が一代限りの騎士爵ってやつで貴族の端くれみたいのだったからな。その血を引いた影響はあったかもしれん。今は父親が死んで、貴族とも縁がないんだが」
「ふうん」

 魔法の発動はほとんど人間の本能みたいなもので、難しいことはない。早い者なら一歳か二歳くらいで、いつの間にか自然に指先に火や水を出していることがある。
 もちろん火は危険だし、水も場合によって悲惨な状況を招くので、この最初の時期からよく言い聞かせる躾が必要だ。
 誰でも最低一つの適性を持つが、割合としては火と水が多い。
 もちろん正確な統計などはないが世界の全人口のうち、おおよそ火と水が四割くらいずつ、光と風が一~二割ずつといったところではないかと思われる。
 比較的な印象では、適性が光か風の者はがっかりされることが多い。火や水に比べて、役に立つ場面が少ないのだ。

「ふうん」

 聞きながら、娘は自分の両手を見ていた。
 ここまで本当に話が理解できたのだとしたら、当然自分の適性を知りたくなっているのではないか。
 とは言え、理解できているかなど、ライナルトにとってはかなり懐疑的だ。ここに至ってもむしろ、そんなことあり得ねえ、という気の方が強い。
 中でも思わずそんな言い方を使ってしまったが、「○割」などといういわゆる割合の概念は、大人でも十分理解していない者の方が多いのだ。赤ん坊に通じているはずがない。
 しかし、そんな理解度を確認する余裕ももうなかった。
 話しかけるうち、見る見る娘の瞼が細まってきている。もう今にも、全身の力が抜け落ちそうな気配だ。

「ほら、もう寝るぞ」
「……うん」

 まるでちゃんとした返答のように聞こえるのが、不思議だが。
 とにかくももうほとんど寝落ちしている小さな身体を抱いて、ライナルトは寝床に入った。
 子持ちになる以前は考えられなかった早寝だが、最近はこうして寝かしつけと自分の就寝を同じくして、その分朝の寝起きも早くする習慣にしている。

 今回の狩りは、三日間という予定にしていた。
 森の中の害獣の数をある程度減らして、村人たちは春の農作業に入る。
 そういった作業のかんも、ライナルトは村の周囲や森の中を警戒して回る。
 例年村が害獣に襲われる期間は、ほぼ畑の種まきが終わる頃までだ。その後もまったくないとは言い切れないが、おそらく森の中に獣の食料となる実りが足りてくるのだろうと思われる。
 今回ライナルトが村長から依頼されたのもおおよそそのくらいの時期までで、その後の身の振り方は自由ということになる。
 とりあえず当初ライナルトが目指していたのは生れ故郷の領だったので、何もなければそちらへ向けての旅を再開するつもりにしていた。
 とにかくも狩りの三日目、この日の様子を見て村人たちもライナルトも今後の予定を判断することになっている。
 森の奥に進んで、一同耳を澄まし、周囲の気配を探り。
 頷きながら、オイゲンがライナルトの横顔を見た。

「大きな獣の気配はないな。昨日の熊を狩って、もうこの辺まで下りてきているのは終わりかもしれねえ」
「そうかもしれないが、もう少し奥まで調べてみないと安心もできないな」
「ほんの四五年前まではこの辺一帯、狐や鼠、兎ぐらいしかいなくて、安心できていたもんだがなあ」
いのししや熊はいなかったのか」
「おお。奥の山にそんなのがいることは分かっていたんだが、滅多に下りてくることはなかったのさ。本当ならあいつら、山の恵みで余裕で生きていけるはずなんだ」
「それがここ数年、毎年下りてきているってことなんだな。山の中の環境が、何か変わったんだろうか」
「そこが分かんねえのさ」

 マヌエルの返事に、四人みんなで頷いている。
 これまでは今いる近辺の害獣を減らす、言わば対処治療のようなところを考えるので手一杯だったわけだが。その目的をある程度達して、ようやくその先、山の奥まで考慮する状況が生まれてきた感覚だ。
 ふうむ、とライナルトは唸った。

「木の実などの実りが少なくなったか、猪や熊さえ脅かすような脅威が生まれて、否応なくこちらへ移動してきているのかってところか。南の方で魔狩りの仕事をしていて、そんな話を聞いたことがあるぞ。強い魔獣が住処すみかを変えたので、それを恐れて他の獣たちが移動を始めたっていう」
「山をいくつか越えた向こうには、恐ろしい魔獣が棲んでいるっちゅう話だ。言い伝えぐらいにしか聞かないが、見上げるような大きさの化けもんだという」
「そんなのが移動してきているってことだと、たいへんな事態だな」
「考えたくもないわな、そんなこと」

 顔をしかめて、オイゲンは身震いして見せた。
 他の面子も、一様にしかめ顔だ。

「この村に現れたかもしれない魔獣らしきものってのは、まさかそんなのじゃないんだよな」
「おお。はっきり見たわけじゃないが、夜闇の影程度で、人とそれほど変わらない大きさだったっちゅうからな。それにしても熊とかとははっきり違う、見たことのない格好っちゅうんで、魔獣じゃないかって警戒してるわけさ」
「そんなのが実際いるのなら、確認するまでは安心できないな」
「まったくさあ」

 一昨日の窪地から、この日は昨日と別の方向へと山道を辿った。

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