アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy

文字の大きさ
44 / 53

43 手当と別離

しおりを挟む
「ああ、そうだ」

 魔獣の死骸を穴に入れ、上から土をかけようとするところで、ライナルトは気がついて声をかけた。

「今日の昼頃には、領兵三名が村に到着するという話だった。その兵たちにこの死骸を見せた方がいいな」
「ああ、そうだな」

 村長も頷く。
 そういうことで作業は一度中断して、村人たちは家に戻った。
 ライナルトは娘を負ったまま、ブリアックの家に寄った。
 負傷した兵士は夜具に寝かされ、ケヴィンの妻フェーベが傍についている。ライナルトの顔を見て、弱々しく笑いを浮かべた。

「その様子だと、うまくいったのか」
「ああ、狼魔獣は仕留めた」
「さすがはライナルト殿だ。こちらに被害はなしか」
「ヤギを一頭犠牲にしただけだな」
「よかった……」

 いかにも安堵の様子で、深々と息をついている。
 その肩を軽く叩き、ライナルトは立ち上がった。

「あとは安心して、傷を治してくれ。仲間の兵士も間もなく着くのだろう」
「うむ、そうだな」
「フェーベ、ケヴィンが牧場からヤギ肉をもらってくるはずだ。ブリアックさんの体力が戻るように、食わせてやってくれ」
「分かったよ」

 一応傷口の出血は止まっているが、この村の常備薬では熱を抑え化膿を防ぐのがせいぜいで、それほど早い回復は望めない。傷に毒素が入っているなどで、この後症状が悪化することも考えられる。今ここでできるのは、栄養を摂らせて経過を観察する程度だ。
 一アーダ(時間)ほど後、兵士たちが到着した。
 村長から経過の説明を受け、ブリアックの様子を見に行く。傷の治療薬を携行しているということで、それまでよりは少し効果の期待できる治療を加えることになった。
 その後案内されて魔獣の死骸を観察し、驚愕している。

「これほどに大きな魔獣だったのか」
「ああ。しかもこの図体から想像できないほど、動きが素速い」
「何とな。これは我ら三人でかかっても持て余すかもしれん」

 ライナルトの説明を受けて、兵士たちは唸った。
 聞くと、他の村でもヤマネコ魔獣以外に、狼魔獣が出たという報告があるのだという。
 それぞれの村に数名ずつ兵を派遣することになったが、ヤマネコなら何とかなるにしてもこの狼魔獣相手は苦戦するかもしれない、と顔をしかめている。
 囮のヤギを使って魔獣の動きを止めた、というライナルトの説明に頷き、本隊に報告しようと話している。
 それに異は唱えないが、内心ライナルトは難しいかもしれないと考える。
 こちらの攻撃は、レンズと光だったから効果を上げたという気がする。ふつうの火や水、弓矢などに対しては、餌に食らいつく瞬間でも魔獣は警戒しているのではないだろうか。
 光と火や水では、到達する速さも直前の気配を察知される可能性も、大きく異なるのだ。
 しかしここでそれを指摘しても、兵士たちがレンズを使えるわけもない。従来の手法で何とか効果を上げてもらいたい、と祈るばかりだ。

「それにしても、他の村にも狼魔獣が出ているのか。何処でも、着実に魔獣が強力なものになってきている、と」
「そういうことになる。ますます過去の記録に合致して、最悪の事態が懸念されるわけだ」
「困った話だな」

 兵士たちの協力も得て、同行した村人たちの総力で魔獣を埋葬しながら、苦々しく話を交わした。
 この狼魔獣より凶暴なものが、近いうちに出没するかもしれない。そうなったらもう、村人たちは村を捨てるしかないのではないか。
 例年、雪が降った後の魔獣出没の例はない。
 今年に限れば、次の魔獣が早いか降雪が早いか、微妙なところかもしれない。
 村長も交えてそんな検討をして、村に戻った。

 兵士たちは数日村に留まり、ブリアックの家で看病を続けた。
 同時に、交替で村周辺の監視をする。
 ブリアックが少し動けるようになったところで駐留地から巌牛の引く荷車を呼び、それに怪我人を乗せて交替の一名以外は引き上げることになった。

「ライナルト殿、世話になった」
「しっかり怪我を治すんだぞ」
「ああ。身体を治して、できれば来年またここに来たい」
「そうなったら、嬉しいな」

 村人たちに見送られ、そうしてブリアックは去っていった。
 残った兵士一名が任務を引き継ぎ山の監視を続けたが、その後降雪まで異状は起きなかった。
 ある程度の積雪を見て、その一名も駐留地に戻っていった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。

駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ

壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。 幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。 「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」 泣きじゃくる彼女に、彼は言った。 「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」 「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」 そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。 ※2019年10月、完結しました。 ※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

処理中です...