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第2章 ミニョレー伯爵領
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貴族たちを始め全員が、顔面蒼白になっている。
自分たちの従えた兵、すべて合わせて数百名。そのすべてでかかっても、あの龍の動きを止めることはできそうにない。
またあの巨体が南へ向けて移動を始めたら、各領軍でも国軍でも、その阻止は難しいだろう。
龍の硬い鱗は、剣も弓矢も投石も効かないとされる。軍の人数は集められても、それ以上強力な武器は何処にもない。そのまますべての人員が蹴散らかされて終わりだろう。
その上、あの龍は空を飛ぶ。やろうと思えば、直接王都、それどころか王宮の中にでも襲来は可能だ。
何をどう考えても、この国にある戦力で対抗のしようはない。
「理解してもらえたか。もう一度、告げる。各々方、直ちにここを立ち去られよ」
「…………」
三貴族と王宮の役人は、それぞれの兵を従えて悄然と立ち去っていった。
ミニョレー伯爵が旧リュシドール子爵領を統治下に収めた。
二足龍を飼い馴らし、その戦力に加えている。
この一件は、瞬く間に全国に広がった。
***
ミニョレー伯爵領、その中央に広がる広大な魔の森の南手前の街トゥーヴロンにも、当然その話は届いている。
と言うより、この街は当事者中の当事者だ。
数日前に森中の街道から出てきた領兵の大軍が瞬く間に南方へ駆け抜けていったと大騒ぎになったが、南の隣領でそんなことになっていたのか。
問題の龍はこの街の真上を避けて飛んだらしく目撃情報はなかったが、ここの伯爵家を知る者には十分納得される話だ。
しかも最近その領都から移動してきたという魔狩人が、それを裏づけるような情報を伝えているのだった。
酔客たちがひとときその声を静めるほどに注目を浴びた、夜の酒場で。
「本当さあ。俺は実際に見ちゃいないが、領都で見たという奴に聞いたんだ。伯爵家では、二足龍を手懐けるのに成功したんだと」
「子爵領の領都で目撃したっちゅう奴からも聞いているから信じるしかないが、それにしても突拍子のない話だな。本当に龍を手懐けられるんかい」
「正確には手懐けるってのと違うらしいんだがな。伯爵家に仕える魔道具学者が開発したんだと。龍の口に填めて、あの『龍火』ってのを吐けないようにする魔道具をさ」
「それは凄いな」
見たところ店内満員の酔客たちも、店主も、その横で調理を手伝う中年女も、皆息を呑んでその魔狩人の話を聞いている。
気をよくして、男は続けた。
「何でも凄い道具で、一度填めたら龍の力でも外せないんだそうだ。それでさ、龍ってやつはときどき思いきり龍火を吐かないと、体調を崩してしまうんだと。それから龍はかなり頭がいいから、そうして言い聞かせることができたらしい。言うことを聞いたら一日一度龍火を吐くのと食事をとるのを許してやる、逆らったらそのままどちらもできず苦しむだけだぞってのを」
「わああ――何ちゅうか……凄え話だな」
「本当だな」
「しかしお前さん、よくそんな詳しく知ってるもんだな。もしかして、領の極秘事項じゃねえのか」
「それをこんなところで話して、領の偉い人に目をつけられたりしないんか」
「いや、それがよ。俺にこれを話してくれた奴、領軍の人に言われたんだと。これはあちこちで話して広めてくれと。つまりこれが広まれば、遠い土地の者でもこの伯爵領で龍を従えていることに、ある程度理由が分かって信じられるってもんだろう。ここまで分かったって、別の領なんかで真似をできることじゃないし」
「なるほどなあ」
「確かになあ」
「お陰で俺も、みんなの注目を浴びて旨い酒が飲めるってもんでよ」
「役得ってやつかい」
「そうさあ」
「はははははは」
この夜も酔客の陽気な笑いの中、夜は更けていく。
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貴族たちを始め全員が、顔面蒼白になっている。
自分たちの従えた兵、すべて合わせて数百名。そのすべてでかかっても、あの龍の動きを止めることはできそうにない。
またあの巨体が南へ向けて移動を始めたら、各領軍でも国軍でも、その阻止は難しいだろう。
龍の硬い鱗は、剣も弓矢も投石も効かないとされる。軍の人数は集められても、それ以上強力な武器は何処にもない。そのまますべての人員が蹴散らかされて終わりだろう。
その上、あの龍は空を飛ぶ。やろうと思えば、直接王都、それどころか王宮の中にでも襲来は可能だ。
何をどう考えても、この国にある戦力で対抗のしようはない。
「理解してもらえたか。もう一度、告げる。各々方、直ちにここを立ち去られよ」
「…………」
三貴族と王宮の役人は、それぞれの兵を従えて悄然と立ち去っていった。
ミニョレー伯爵が旧リュシドール子爵領を統治下に収めた。
二足龍を飼い馴らし、その戦力に加えている。
この一件は、瞬く間に全国に広がった。
***
ミニョレー伯爵領、その中央に広がる広大な魔の森の南手前の街トゥーヴロンにも、当然その話は届いている。
と言うより、この街は当事者中の当事者だ。
数日前に森中の街道から出てきた領兵の大軍が瞬く間に南方へ駆け抜けていったと大騒ぎになったが、南の隣領でそんなことになっていたのか。
問題の龍はこの街の真上を避けて飛んだらしく目撃情報はなかったが、ここの伯爵家を知る者には十分納得される話だ。
しかも最近その領都から移動してきたという魔狩人が、それを裏づけるような情報を伝えているのだった。
酔客たちがひとときその声を静めるほどに注目を浴びた、夜の酒場で。
「本当さあ。俺は実際に見ちゃいないが、領都で見たという奴に聞いたんだ。伯爵家では、二足龍を手懐けるのに成功したんだと」
「子爵領の領都で目撃したっちゅう奴からも聞いているから信じるしかないが、それにしても突拍子のない話だな。本当に龍を手懐けられるんかい」
「正確には手懐けるってのと違うらしいんだがな。伯爵家に仕える魔道具学者が開発したんだと。龍の口に填めて、あの『龍火』ってのを吐けないようにする魔道具をさ」
「それは凄いな」
見たところ店内満員の酔客たちも、店主も、その横で調理を手伝う中年女も、皆息を呑んでその魔狩人の話を聞いている。
気をよくして、男は続けた。
「何でも凄い道具で、一度填めたら龍の力でも外せないんだそうだ。それでさ、龍ってやつはときどき思いきり龍火を吐かないと、体調を崩してしまうんだと。それから龍はかなり頭がいいから、そうして言い聞かせることができたらしい。言うことを聞いたら一日一度龍火を吐くのと食事をとるのを許してやる、逆らったらそのままどちらもできず苦しむだけだぞってのを」
「わああ――何ちゅうか……凄え話だな」
「本当だな」
「しかしお前さん、よくそんな詳しく知ってるもんだな。もしかして、領の極秘事項じゃねえのか」
「それをこんなところで話して、領の偉い人に目をつけられたりしないんか」
「いや、それがよ。俺にこれを話してくれた奴、領軍の人に言われたんだと。これはあちこちで話して広めてくれと。つまりこれが広まれば、遠い土地の者でもこの伯爵領で龍を従えていることに、ある程度理由が分かって信じられるってもんだろう。ここまで分かったって、別の領なんかで真似をできることじゃないし」
「なるほどなあ」
「確かになあ」
「お陰で俺も、みんなの注目を浴びて旨い酒が飲めるってもんでよ」
「役得ってやつかい」
「そうさあ」
「はははははは」
この夜も酔客の陽気な笑いの中、夜は更けていく。
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