転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy

文字の大きさ
45 / 103
第2章 ミニョレー伯爵領

しおりを挟む
   ***

 貴族たちを始め全員が、顔面蒼白になっている。
 自分たちの従えた兵、すべて合わせて数百名。そのすべてでかかっても、あの龍の動きを止めることはできそうにない。
 またあの巨体が南へ向けて移動を始めたら、各領軍でも国軍でも、その阻止は難しいだろう。
 龍の硬い鱗は、剣も弓矢も投石も効かないとされる。軍の人数は集められても、それ以上強力な武器は何処にもない。そのまますべての人員が蹴散らかされて終わりだろう。
 その上、あの龍は空を飛ぶ。やろうと思えば、直接王都、それどころか王宮の中にでも襲来は可能だ。
 何をどう考えても、この国にある戦力で対抗のしようはない。

「理解してもらえたか。もう一度、告げる。各々方、直ちにここを立ち去られよ」
「…………」

 三貴族と王宮の役人は、それぞれの兵を従えて悄然と立ち去っていった。
 ミニョレー伯爵が旧リュシドール子爵領を統治下に収めた。
 二足龍を飼い馴らし、その戦力に加えている。
 この一件は、瞬く間に全国に広がった。

   ***

 ミニョレー伯爵領、その中央に広がる広大な魔の森の南手前の街トゥーヴロンにも、当然その話は届いている。
 と言うより、この街は当事者中の当事者だ。
 数日前に森中の街道から出てきた領兵の大軍が瞬く間に南方へ駆け抜けていったと大騒ぎになったが、南の隣領でそんなことになっていたのか。
 問題の龍はこの街の真上を避けて飛んだらしく目撃情報はなかったが、ここの伯爵家を知る者には十分納得される話だ。
 しかも最近その領都から移動してきたという魔狩人が、それを裏づけるような情報を伝えているのだった。
 酔客たちがひとときその声を静めるほどに注目を浴びた、夜の酒場で。

「本当さあ。俺は実際に見ちゃいないが、領都で見たという奴に聞いたんだ。伯爵家では、二足龍を手懐けるのに成功したんだと」
「子爵領の領都で目撃したっちゅう奴からも聞いているから信じるしかないが、それにしても突拍子のない話だな。本当に龍を手懐けられるんかい」
「正確には手懐けるってのと違うらしいんだがな。伯爵家に仕える魔道具学者が開発したんだと。龍の口に填めて、あの『龍火』ってのを吐けないようにする魔道具をさ」
「それは凄いな」

 見たところ店内満員の酔客たちも、店主も、その横で調理を手伝う中年女も、皆息を呑んでその魔狩人の話を聞いている。
 気をよくして、男は続けた。

「何でも凄い道具で、一度填めたら龍の力でも外せないんだそうだ。それでさ、龍ってやつはときどき思いきり龍火を吐かないと、体調を崩してしまうんだと。それから龍はかなり頭がいいから、そうして言い聞かせることができたらしい。言うことを聞いたら一日一度龍火を吐くのと食事をとるのを許してやる、逆らったらそのままどちらもできず苦しむだけだぞってのを」
「わああ――何ちゅうか……凄え話だな」
「本当だな」
「しかしお前さん、よくそんな詳しく知ってるもんだな。もしかして、領の極秘事項じゃねえのか」
「それをこんなところで話して、領の偉い人に目をつけられたりしないんか」
「いや、それがよ。俺にこれを話してくれた奴、領軍の人に言われたんだと。これはあちこちで話して広めてくれと。つまりこれが広まれば、遠い土地の者でもこの伯爵領で龍を従えていることに、ある程度理由が分かって信じられるってもんだろう。ここまで分かったって、別の領なんかで真似をできることじゃないし」
「なるほどなあ」
「確かになあ」
「お陰で俺も、みんなの注目を浴びて旨い酒が飲めるってもんでよ」
「役得ってやつかい」
「そうさあ」
「はははははは」

 この夜も酔客の陽気な笑いの中、夜は更けていく。

   ***

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

無能だと思われていた日陰少女は、魔法学校のS級パーティの参謀になって可愛がられる

あきゅう
ファンタジー
魔法がほとんど使えないものの、魔物を狩ることが好きでたまらないモネは、魔物ハンターの資格が取れる魔法学校に入学する。 魔法が得意ではなく、さらに人見知りなせいで友達はできないし、クラスでもなんだか浮いているモネ。 しかし、ある日、魔物に襲われていた先輩を助けたことがきっかけで、モネの隠れた才能が周りの学生や先生たちに知られていくことになる。 小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿してます。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

捨てられ令嬢は、異能の眼を持つ魔術師になる。私、溺愛されているみたいですよ?

miy
ファンタジー
アンデヴァイセン伯爵家の長女であるイルシスは、『魔眼』といわれる赤い瞳を持って生まれた。 魔眼は、眼を見た者に呪いをかけると言い伝えられ…昔から忌み嫌われる存在。 邸で、伯爵令嬢とは思えない扱いを受けるイルシス。でも…彼女は簡単にはへこたれない。 そんなイルシスを救おうと手を差し伸べたのは、ランチェスター侯爵家のフェルナンドだった。 前向きで逞しい精神を持つ彼女は、新しい家族に出会い…愛されていく。 そんなある日『帝国の砦』である危険な辺境の地へ…フェルナンドが出向くことに。 「私も一緒に行く!」 異能の能力を開花させ、魔術だって使いこなす最強の令嬢。 愛する人を守ってみせます! ※ご都合主義です。お許し下さい。 ※ファンタジー要素多めですが、間違いなく溺愛されています。 ※本編は全80話(閑話あり)です。 おまけ話を追加しました。(10/15完結) ※この作品は、ド素人が書いた2作目です。どうか…あたたかい目でご覧下さい。よろしくお願い致します。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...