はなかすみ

敷咲 蜜

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はじまり

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 今でもその光景を覚えている。

 時期遅れの花を咲かせた桜並木を、うんざりと歩いているときのことだった。

 眉の上で切りそろえた前髪に、長い、肩下までの黒髪を揺らした女子が、ひとり。白いセーラー服はまだ真新しく、折り目正しいプリーツも、膝丈に合わせられ、乱れてはいない。
 霧島瑞波は、重い足取りで、桜並木を進んでいた。
 親の決めた学校に受験し、逆らうこともなく入学し、与えられた制服を纏って、新しい生活が始まろうとしている。
 目の前には、舞い散る花吹雪と、真新しい制服を纏った自分と同じ新入生の生徒たちが小さく笑いながら歩いている。その白いセーラー服。
 聖文女子学院。
 全寮制で、とても厳しいと評判の女子限定のミッションスクールである。
 進学するなら、親友達と共に地元の公立校に進みたかったのだが、家柄を重んじる両親を持った宿命か、逆らうことはできなかった。
 家柄と言っても、特筆した技能があるわけでも、能力が有るわけでも無く、価値を問うならば一般人に近い。ただ一つ、理由もわからぬ所以を除いて。

 瑞波の家は代々女系だが、その子供の殆どが神社仏閣に嫁いでいた。
 意味がわからない。
 瑞波は、自分の置かれた状況を理解できずに居た。
 神社仏閣に嫁に出されるというのなら、「そういう」ところへ修行に出せばいいものを。神様を扱うとはいえ、宗教が違う。
 異文化コミュニケーションもいいところである。
 なぜこの学校を選んだのか、両親に尋ねはしたものの、すんなりと飲み込めるような、喉通りのよい答えは得られなかった。

 いちいち口うるさい両親の元を離れ、寮生活が始まるのは素直に喜べたものの、入学前のオリエンテーションで寄宿舎での生活についての説明を受け、その厳しさに目眩を覚えたのは記憶に新しい。
 瑞波は溜息を吐き、鞄を持ち直すと進路を見た。
 未だ履き慣れない革靴が足を締め付ける。
 しくしくと痛む足元を見ると、桜の花びらが群れを成して流れていく。それをぼんやりと見た。
 それはスローモーションの様に、地面に触れるか、触れぬかのところでゆっくりと舞って行く。
 一陣の帯となった桜色の風は、やがて宙を舞い、枝から真新しく落ちた花びら達と融合し、吹雪のように一面を覆った。

 その薄紅の中、佇む細い影。

 透き通るような白い頬。横にもわかる、形の良い唇。顔をより美しく際立たせる小さくも存在感のある鼻梁。
 良くも悪くも、まるで人形の様な、という表現がぴったりの少女が、花霞の中佇んでいた。
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