3 / 12
はじまり
2
しおりを挟む
瑞波は、息を飲んだ。
白いセーラーの襟にも、細い肩にも、スカートの裾にも桜が靡き、撫でるように舞う。
霞のようなその景色の中に、少女一人が浮いていた。
目の前の景色が現実では無いような、錯覚を覚えた。
少女は横を向き、何かを見つめていた。何を見つめているのか、何が彼女の気を惹いているのか、瑞波は知りたかったが、それよりも美しいその姿から目を逸らせずに居た。
「あ…あの」
思いがけず、瑞波は声を上げていた。
風は強く、声を巻き込むように吹上げ、木々の枝を揺らした。少女の耳には届いていないようだった。
ふと、少女は長い黒髪を耳にかけた。細い小指。小さな手が、現れては消えた。
その黒い目の端に、何かを見つけたのか、少女はこちらを見た。
「あ…」
大きな黒い瞳がこちらを見ている。
「あ、あの…」
瑞波は口籠った。こんなとき、何というべきか、頭の中が真っ白になっていた。
この少女と、自分だけが居るような、錯覚を覚えた。
ざわざわと、桜の花が風を鳴らす。
少女は不思議そうな顔をして、瑞波を見ていた。
「…こ」
唇が情けないほど震えていた。
「こんにちは」
笑顔も、引き攣っていたかもしれない。喉から、やっと出た声は、裏返りそうになった。
「こんにちは。桜の花が、とても綺麗ね」
少女の唇が紡ぐ声。喉から伸びる声は、甘く高かった。
「あ、うん。そうだね」
肯定して、そのまま言葉は終わってしまった。
瑞波は、感じた。
じんわりと、珈琲に溶けていく砂糖のように、重い何かが心に広がっていくのを。
「あ、あの、何を見てたの?」
瑞波は、手を握った。春のひんやりと冷たい空気が、一層冷えていくようだった。
少女は、瑞波の問いかけに対し、もう一度横を見上げた。
「…うん、マリアを…」
「マリア?」
その視線の先には、聖母像が立っていた。
「私も、彼女のように、なれるかしら…って、そう考えていたの」
少女はそう言って、再び、髪を掻き上げた。
その横顔は、憧れに満ちた、眩しいほどの美しさが溢れる。
瑞波は、その姿を見つめて、心に広がっていくもどかしさを感じていた。
なんだろう。
この重苦しい、気持ちは。
どんどん広がっていく、敗北感に似た、何か。
白いセーラーの襟にも、細い肩にも、スカートの裾にも桜が靡き、撫でるように舞う。
霞のようなその景色の中に、少女一人が浮いていた。
目の前の景色が現実では無いような、錯覚を覚えた。
少女は横を向き、何かを見つめていた。何を見つめているのか、何が彼女の気を惹いているのか、瑞波は知りたかったが、それよりも美しいその姿から目を逸らせずに居た。
「あ…あの」
思いがけず、瑞波は声を上げていた。
風は強く、声を巻き込むように吹上げ、木々の枝を揺らした。少女の耳には届いていないようだった。
ふと、少女は長い黒髪を耳にかけた。細い小指。小さな手が、現れては消えた。
その黒い目の端に、何かを見つけたのか、少女はこちらを見た。
「あ…」
大きな黒い瞳がこちらを見ている。
「あ、あの…」
瑞波は口籠った。こんなとき、何というべきか、頭の中が真っ白になっていた。
この少女と、自分だけが居るような、錯覚を覚えた。
ざわざわと、桜の花が風を鳴らす。
少女は不思議そうな顔をして、瑞波を見ていた。
「…こ」
唇が情けないほど震えていた。
「こんにちは」
笑顔も、引き攣っていたかもしれない。喉から、やっと出た声は、裏返りそうになった。
「こんにちは。桜の花が、とても綺麗ね」
少女の唇が紡ぐ声。喉から伸びる声は、甘く高かった。
「あ、うん。そうだね」
肯定して、そのまま言葉は終わってしまった。
瑞波は、感じた。
じんわりと、珈琲に溶けていく砂糖のように、重い何かが心に広がっていくのを。
「あ、あの、何を見てたの?」
瑞波は、手を握った。春のひんやりと冷たい空気が、一層冷えていくようだった。
少女は、瑞波の問いかけに対し、もう一度横を見上げた。
「…うん、マリアを…」
「マリア?」
その視線の先には、聖母像が立っていた。
「私も、彼女のように、なれるかしら…って、そう考えていたの」
少女はそう言って、再び、髪を掻き上げた。
その横顔は、憧れに満ちた、眩しいほどの美しさが溢れる。
瑞波は、その姿を見つめて、心に広がっていくもどかしさを感じていた。
なんだろう。
この重苦しい、気持ちは。
どんどん広がっていく、敗北感に似た、何か。
0
あなたにおすすめの小説
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
【完結】ゆるぎとはな。
海月くらげ
恋愛
「せんせえ、もうシよ……?」
高校生の花奈と、聖職者であり高校教師の油留木。
普段穏やかで生徒からも人気のある油留木先生。
そんな男が花奈にだけ見せる表情がある。
教師×生徒 禁断TL小説
恋と首輪
山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。
絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。
地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。
冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。
「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」
イケメン財閥御曹司
東雲 蓮
×
「私はあなたが嫌いです。」
訳あり平凡女子
月宮 みゆ
愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。
訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる