はなかすみ

敷咲 蜜

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はじまり

4

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「今から、皆さんに、鍵をお渡しします」
 寮母の囁くような声が辺りに響いた。
「呼ばれた順に前に取りに来てください。荷物は入学前にもうすでに搬入されていると思います。私から鍵をお渡しするのは、これで最後。私から受け取ったら、この鍵はあなた方のものになります。ここを卒業するまでの間ですが」
 囁くような寮母の声は、不思議と廊下に拡がった。もとより静かだった生徒たちの空気は、寮母の声を吸収するようにより静まり返った。
「その前に、花島さん、いるかしら?花島深苑さん」
 寮母は、列の中を見渡して、深苑を呼んだ。
「はい、ここに居ます」
 小さく手を上げると、深苑は寮母の元へと出て行ってしまった。何の事情があったのか、深苑も呼ばれることはわかっていた様子だった。
 寮母は何やら深苑に告げると、深苑は頷き、寮母の背後に着いた。
「では、部屋の順番にお呼びします。部屋は二人で一つ。鍵も、二つ、ありますからね。では、青崎さん…」
 寮母の背後で、深苑では小さくなっていた。何か、緊張しているのか、下を向いている。
「霧島さん」
「はい」
 瑞波は、鍵を受け取る時も深苑を見ていた。深苑は、瑞波が鍵を受け取るのを見ながら、何か言いたげな様子ではあったものの、二人は言葉を交わすことは無かった。

 瑞波は鍵を受け取ると、言われたとおりの部屋を目指した。
 扉の数を数えて進むと、ネームプレートが架けられていた。

 ”MIZUNA.k”
 
 白い陶器の板に、金で名前が記さている。上品だと、瑞波は思った。
 一人分のネームプレートだけがそこにはあった。
「?私だけ?」
 部屋は、二人部屋のはずだった。

 確か、荷物を運び込んだ時も、部屋の中の半分は空だった。
 鍵を差し込み、扉を開くと、薄暗い部屋はひんやりと口を開いた。

 敷かれた絨毯の踏み心地を感じながら、瑞波は部屋の中央へと入った。
 左右対称に作られた間取りは、印象的だった。
 カーテンを透かして、夕暮れの薄明かりが部屋を浮かび上がらせる。
 中央に置かれたローテーブルの上には十字架が置かれ、左右に勉強机が並べられていた。そして奥にベッドがうっすらと見えた。
 向かって左側には瑞波の荷物が見える。逆を見れば、入学前には無かった荷物が、確かに置かれていた。

 瑞波は安堵した。
 この作りの部屋で、一人は落ち着かないと入学前から思っていたのだ。

 誰だろう。
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