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しおりを挟む十塚の案内で、まずは社務所に向かうことになった。今日は管理人の方と巫女さんが来ているらしい。挨拶をかねて、荷物や寝泊まりをさせてもらう場所も紹介してくれるという。
大抵は寝床がないので、自分らで近くの家や宿を見つけて夜を明かしていた。それが当たり前なのだ。こうしてもてなしてくれる方が珍しい。
社務所には管理人の巾木克徳と巫女の錫木菜々子、藤井結羽が待っていた。
三人とも灯吾と宵に好意的で、菜々子と結羽に至っては十代と年が近く、神様にお仕えしているという点で少なからず通じるところもあってすぐに打ち解けることができた。
巾木さんは、社務所の奥にある部屋に布団を運んで、寝泊まりが出来るようにしてくれていた。
今回は十塚さんも保護者としてここに泊まるようだ。巾木さんは、一緒に泊まると言って聞かない菜々子と結羽を送り届けるために引っ張って帰って行った。笑顔で手を振る二人に手を振り返す。
灯吾と宵は、顔を見合わせた。だってこんなにやさしいなんて、思わなかったのだ。
今まで回った神社の人に冷遇されたわけではないし、知らない神事をやって回っているという子どもを信じて任せるというのも難しいことだと理解している。
これはあくまで灯吾と宵が勝手にやっていることで、受け入れてもらえることが当たり前ではないこと。神様によっては断られること。子どもだから許されていることも、子どもだから許されないこともある。
二人が年の割にませて見えるのも、チカのこういう教えがあるからだ。チカは、やりたいことを灯吾たちにやらせてくれるが、たいていの人にはいい顔をされない。それでも責任があるからと、投げ出さずに養ってくれている。
それからも境内の案内は続いた。本殿と拝殿に参拝して、由緒やどんな神様が祀られているかを詳しく教えてくれた。
神体山のことをオヤマさんと呼んで慕っていて、立派なお社を建てて祀っている。見るからに手の込んだ彫刻が施された手挟が視線を奪う。筋斗雲のようなものがあしらわれていて、両端の手挟と中二つの手挟は意匠が違っている。あれは、山だろうか、木々の一つ一つが見て取れるような細かく美しい彫刻である。
宵は、底知れぬ不安を抱いていた。
十塚の説明で、「うちのオヤマさんは女性だもんで、もしかしたら宵ちゃんによくないことがあるかもしれんで、一応言うとくね」と、言われたのだ。眉を下げ、本当に申し訳なさそうだった。
宵だってこの旅を通して、知らなかった信仰について、それなりに知識を得てきた。気をつけてきたし、しきたりにも従って、場を乱すようなこともしてこなかった。
今回もそうしようと思っていたのだけれど、ここには厳格な規則やしきたりは存在していないらしく、宵もこの身をどう置くのが正解なのか分からない。
灯吾は一緒の方が嬉しい、でも、宵によくないことが起こるかもしれないのは嫌だと言った。だからいつも通りに一緒に御饌参りをすることに決めたのだが。
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