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しおりを挟む夜。
広くはない部屋の中で、灯吾と宵は布団を頭まですっぽりとかぶっていた。
十塚が電話で、町に呼び出されてしまった。すぐに戻るからね、と言っていたが、この山を夜におりて登ってくるのは大変だろう。明日は食材を探しに山に入って、町の方が供える生饌を運ぶ予定だった。その際に町の方々に食材を使ってもいいかを尋ねるつもりだったのに。
まるで雪が降り積もった日みたいに、ひどく静かだ。虫の声も鳥の声はおろか、あのうるさい蛙の声も一切しない。
それが不気味で、恐ろしかった。歓迎されていないみたいで、宵を疎ましく思っているみたいで。
灯吾の手が宵の手を包んだ。
「大丈夫だ、朝がくれば、大丈夫だから」
こくん、と頷いた。朝がくれば大丈夫。
そうやって過ごしてきた夜がいくつもあった。
御饌参りを始めてから、なにか、宵にも灯吾にもおかしなところが増えたような気がする。見えないはずのものが、見えるときがある。聞こえないはずの声が聞こえてしまうようになった。
外は厭に静かだ。
震える宵の肩をぐっと抱き寄せた灯吾は、明日は宵を山の中には入らせないようにしようと思った。何かがあってからじゃ遅い。もう失うわけにはいかない。
ふいに、ぐっと部屋が冷え込んだ。
心地良い冷風ではない。気温が、ぐんっと下がった気がする。足先が冷たい。宵の指先が冷たい。
宵がぎゅっと目を瞑っている。身を隠すように縮こまって、灯吾と毛布との間で小さく、小さくなろうとしている。
――――なにか、いる。
灯吾は部屋の中を見回した。
そして、わずかに開いている襖の奥に目をこらした。細い細い隙間の先、青白い肌と、どっぷりと暮れた目がこちらをじっと、見つめている。
目をそらしてはいけない。そう思った。
「俺がいいと言うまで、目を開けるな。宵は見ちゃいけない」
灯吾はさらにぐっと宵の手を握りしめた。
隙間の先でじっと見つめる目は、無感情にそこにあった。
なにかを求めるような目でもなく、そこにある。分からなかった。人ではない。それは確かだ。圧倒される。不気味というよりも、おそろしい。
目はそらさなかった。瞬きもせず、じっと見続けた。
それは現れたときと同じように、ふいに掻き消えた。霧のように、すっかりなくなった。
「もう大丈夫だ。いなくなった」
「うん……ありがとう」
疲弊しきった顔で、宵は後ろに倒れ込んだ。気をやってしまったようだ。
灯吾は、宵の頭を持ち上げて下に枕を置いてやった。毛布も掛けて、その隣に寝転んだ。
どうか、宵に悪いことが起こりませんように。
そう願いながら、眠りについた。
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