消された絵師と残された少年

ましゅまろ

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墨の密書

消された手記

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玄斎の遺体が奉行所に発見された翌朝、町では「老絵師の病死」という噂が広まっていた。
 だが千尋と真魚は、その死が“消された者”に共通する“静かすぎる死”だと、知っていた。

 遺された一枚の絵と、謎の一文――
 **「証は燃えぬ」**という言葉。

 それが何を意味していたのか。

「玄斎先生の家をもう一度調べよう。あの人なら、何かを残してる」

 真魚の言葉に、千尋も強く頷いた。

 その日、ふたりは再び湯島の隠居所を訪れ、物音一つない屋敷の中を這うように探し回った。
 墨壺の裏、書棚の奥、畳を剥がし、壁を叩いた――。

 そして、千尋が見つけたのは、床板の下に挟まれていた、薄い巻紙の束だった。

「これ……!」

 封はされていない。けれど、それは明らかに“読まれることを恐れた筆跡”だった。

 真魚が目を走らせると、その目が強張った。

「……この手記には、“白面の政”の正体が……書かれてる」

 「え……!」

 そこには驚くべき名前があった。

『白面の政、その正体は……紅屋の主・**紅村仁蔵(くれむらじんぞう)**なり』

 「……藤吉じゃなかった……?」

 千尋は混乱した。あの優しく、協力的だった藤吉はただの番頭で、真の黒幕は“主”だった。

「仁蔵は絵師たちの弱みに付け込み、彼らの絵を“裏商品”として売っていた。そして、危険な絵には“仮面の者”を遣わして、口封じをしていた……」

 つまり、白面の政とは“実在の人物”ではなく、紅村仁蔵が操る“顔のない実行者”たちの総称だったのだ。

「父さんは……そのことに気づいて……」

 「だから襲われた。そして、君に絵を託した」

 千尋は手記を握りしめた。

 だが、そこにはさらにもう一文――震える筆跡で、最後に書かれていた。

『真の証は、写楽の絵に宿る』

「写楽……?」

 あの名が、ここでも再び現れる。

 真魚がふと顔を上げた。

「写楽の“最後の一枚”が、残っているという噂がある。“見る者を殺す絵”と呼ばれ、封印されたままだ。……それが、“証”なんだ」

 千尋の胸に、かすかに痛みが走る。
 それは恐れではない。
 描く者として、向き合うべき絵がそこにある――その予感だった。
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